ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…長崎・諫早 「登利亭」の、ムツゴロウの蒲焼き

2017年11月05日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
「干拓の里」ムツゴロウ水族館の干潟水槽で観察したムツゴロウは、見た目と動きが実に愛らしかった。自宅で水槽で飼えたら楽しそうだが、売店には愛玩用の販売コーナーはなく、代わりに目に入ったのはムツゴロウの甘露煮。ほか、ワラスボの一夜干しや貝柱のみりん焼きなども普通に並んでおり、珍魚と捉えられがちな有明海の魚介も、地元では当たり前の食材なのを再認識してしまう。ペットにするのが叶わぬなら、せめて舌で胃袋でしっかり楽しんでいきたい。諫早駅に戻るなり夜の街へと繰り出し、駅前の飲食店街の中程にある料亭「登利亭」へ。長崎近海や有明海の魚介を使った料理に定評があり、広い店内は中央に板場を置いたレイアウトが開放的である。

幻の大型高級魚のクエや、捕鯨県ゆかりのクジラ料理など、キラリと光る長崎のローカル魚料理が品書きを飾るが、今宵のご趣向は有明海の幸縛りと決まっている。赤貝に似た縞々の殻のサルボウ、シタビラメの仲間のクツゾコ、ハゼの一種でウナギのように細長いワラスボ。水族館で見た面々の料理写真はどれも珍奇な出で立ち、かつ地味なカラーリングが印象を左右し、いささか食欲が躊躇する。ワラスボの炙り焼きは、水槽で見た大口に鋭い歯が露呈した頭をもたげた姿そのままと、口にするのが手強そうだ。今日はどれもありますよ、とにこやかに押すお姉さんにたじろぎつつ、観念してムツゴロウの蒲焼きから押さえようか。

ウナギと同じタレの香ばしい匂いが近づいてくると、出された皿には細長い炙り身が二尾のってきた。黒紫色だった魚体は焼き込まれて真っ黒くなり、大きなヒレや飛び出た目玉は焼け落ちた一方、コロリとした頭と鋭い歯がやたら目立ち、生きていた際の愛らしさとはかなり印象が異なる。食べ方を迷いつつ尾側からいくと、丸く付いた身がサラサラ、サクサクと軽やか。見た目と生息環境から泥臭さや粘っこさをイメージするが、これは舌に心地よい食感だ。ムツゴロウもハゼ科の魚介で、脂肪分が多く身が柔らかいため、覚えのあるハゼの天ぷらに似た風味に親しみが感じられる。

蒲焼は実はムツゴロウの食べ方として、有明海の沿岸地域では定番の料理法である。生きたまま串を打ったムツゴロウを素焼きにして、醤油とみりんベースのタレに浸し、焼いてはタレをくぐらせを繰り返す。ウナギの蒲焼きとほぼ同じ手順のため、食欲をそそる香りも白身とタレの相まった食味も、勝るとも劣らないインパクトだろう。ほかにも鮮度がいいものは刺身にしたり、だしがよく出るので椀種にしたりと、とぼけた顔して結構品のいい料理にされているようだ。中骨が硬く小骨が口に触るのが気になるものの、そこは個性派地魚のクセ。頭も食べられるそうだが、硬さと見た目で初見ではご勘弁いただこう。

ムツゴロウの蒲焼きでビールが進み、興に乗ったところで波佐見町の地酒「六十余州」を構え、もう一品は「エツ」という魚の稚魚の唐揚げをチョイスした。たっぷり盛られた揚げたての小魚を観察すると、ワカサギより小振りで身がかなり薄い。エツは筑後川河口に生息するイワシ科の小魚で、漁期が短く手に入りづらいことから、有明海でも幻の魚と称されている。その平たさは「ナイフのような魚」とも形容されるが、厚みはない分、身と骨の相まった香ばしさがたまらない。かむごとに味が出て「六十余州」を含み、スッキリ甘めの後味に惹かれエツをもう一尾。どうにも連鎖が止まらず、エツの山がどんどん低くなっていく。

個性も味もかなり強いため、二種を平らげたら充分に満足。支払いの際、思いがけずどちらもうまかったと褒めると、「どれも見た目の割に味がいいでしょう」興味を持って試してくれる、遠方からのお客さんが割といますね、とお兄さんは嬉しそうだ。有明海の魚介は6〜7月が旬とのことで、この時期にはムツゴロウも刺身でいけるとくれば、夏の再訪の楽しみができたというもの。とはいえ、見た目が恐怖なほかの魚介たちも制覇の覚悟で来なければ、とすでに戦々恐々としてしまう、有明海の個性派ローカル魚である。

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