朝、目覚めて窓からの景色を見下ろすと、天狗高原には一面の霧が広がっている。四国屈指の高所ならではの、輝くような日の出を期待したのだが、朝日はもちろん、日本三大カルストに挙げられる四国カルストの景観も、残念ながら望むことができない。
昨夜の深酒の影響が少々残っているため、食欲がいまひとつな感じで食堂へ。朝食は定番の和洋の定食か、それともバイキングかと思っていたら、たっぷりの野菜に果物、ヨーグルト、そしてパンは何と、おからで作ってあるヘルシーメニューと、なかなか考えられている。ずっしり詰まったおからパンが重そうだったけれど、瑞々しい野菜のおかげで胃がすっきりと動き出し、気がつくとすっきりと平らげていた。
土佐であい博モニターツアーで訪れた、高知の視察2日目の朝は、高知と愛媛の県境、標高1400メートルの天狗高原に建つ「高原ふれあいの家天狗荘」で迎えた。この日の午前中は、「森林セラピー」なる体験メニューにチャレンジの予定である。
天狗荘と周辺の森林は、林野庁制定の森林セラピー基地に認定されており、宿泊とアロマセラピーやヨガ、セラピー料理、さらに森林散策をとりいれた、セラピーメニューが用意されている。先ほどの朝食の献立もメニューの一環で、すでにメニューがスタートしているらしい。
体験メニューに入る前にストレスチェックを受け、終了後にどれほどストレスが減っているか確認するという。チェッカーを舌の裏にくわえ、アミラーゼの量で判断するそうで、数値が0から30以内だとストレスなし、30を超えるとややストレスあり、とのこと。
昨夜は高原の宿でうまい酒をしこたま飲んで、ワイワイと盛り上がって、と発散したから、大して数値は上がらないだろうと思ったら、自分の測定値は33と、ややストレスありな数値。二日酔い気味のせいか、それとも測定直前にかけた、仕事がらみの電話がいけなかったのだろうか? ちなみに参加者の最低値は7、最高値は何と300!
各自、ストレスの度合いが判明したところで、最初のセラピーメニューはアロマテラピー。指導員のもとで、アロママッサージと手入浴を体感することとなった。手入浴は、自家製の無農薬緑茶と牛乳を加えた湯の中へ、手のひらを浸すもので、手から成分がしみこみ、血行がよくなる効能があるそうである。
温浴中に流す香りは効能別に用意され、頭がスッキリするレモンとローズマリー、リフレッシュできるラベンダー、エネルギー不足に聞くゼラニウムとオレンジなど。この後の視察へのエネルギー補給のために、ゼラニウムとオレンジの香りを選び、湯に手を浸して、ゆっくりと開いたり閉じたりしていると、手だけ湯につけているのに全身が温まり、次第に汗が吹き出てくる。終わると肩や目が楽になりで、かなり上体が軽くなったような気分。これは全身浴に近い効果があるかも。
緑茶と牛乳の湯に手を浸す、手入浴。香料は左の3種から選べる
体が温まったところで、続いては自身で施術するアロママッサージ。植物オイルをぬり、足裏から指、甲、ふくらはぎ、すねの順に、足先から体液を戻す要領で、力を入れずにゆっくりと押し上げていく。オイルのおかげですべりがいいものの、施術する手のほうが、結構くたびれてきて大変だ。
「やっているのではなく、やってもらっている意識が大切」と話す、指導員の方に手伝っていただくと、やはり何もせずやってもらうほうが楽は楽? 仕上げに膝の両側にアロマオイルを塗ってもらうと、足のむくみがとれて軽くなった感じがする。視察では連日、丸一日歩き回ることが多いので、中日にこうしたケアはかなりありがたい。
万全のフットケアが施されたところで、メインメニューである森林セラピーへといざ、出発だ。林野庁認定の天狗高原セラピーロードのうち、往復2キロのカラマツ林ロードをゆっくりと散策して、セラピーメニューの仕上げである。
このコース、歩道にヒノキのチップが敷いてあり、クッションが柔らかく実に足腰にやさしい。入口のところにはこのチップが山積みになっていて、傍らにかけてある網袋に詰めて持参、コースに撒きながら散策することで、歩行者自ら歩道をケアする仕組みなのが面白い。
歩いていると、ヒノキのチップと落ち葉の香りがむせ返るようで、まさに森林浴、といった感じ。沿道の林はブナやモミ、ヒメシャラなど、この季節はアザミやコマユミの可憐な花も見かけられる。カルストらしく、たまにに石灰岩が露出しているところも。
途中に設けられているベンチはビューポイントで、天気がいいと連なる山々、その向こうに太平洋もちらりと望めるのだそう。この日はあいにくの霧で、山肌を沿うように湧き登ってくるのが圧巻である。時折、霧が切れて日が差し、山肌の早い紅葉がくっきり、鮮やかに浮かび上がってくる。
ヒノキのチップが敷かれたセラピーロード。森林浴気分を満喫できる
「これぐらいの霧のほうが、このコースはいい雰囲気なんですよね」と、先達で案内する天狗荘の方によると、このコースはただ歩くのではなく、自然とのふれあいを肌で感じながら散策するのが楽しいという。チップや落ち葉に座ってみたり、寝転んでみたり。苔蒸した木肌やヒメシャラのツルツルの木肌に触れて、温かさを比べてみたり。途中の谷筋を境に、風の冷たさが変わるのを感じてみたり。熊笹の丈の変化など、植生が変わるポイントに注目してみたり。云々。
プログラムでは、折り返し地点の小広場で、特別メニューの「セラピー弁当」を食べたり、ヨガを体験したりするらしい。ハンモックを吊る構想もあるそうで、ここで陽だまりの下、揺られながら読書などしていたら、日頃のストレスなど跡形もなく吹っ飛んでいくだろう。
アロママッサージと森林セラピーのおかげで、体験メニュー終了後に行ったストレス値の再チェックでは、見事5ポイントダウン。数値28の、ストレスなし状態となったところで、お世話になった天狗荘を後にする。カルストの高原から再び、里へと下り、竜馬や志士の足跡をたどる視察メニューに戻ることに。
天狗荘のある津野町は、昨日訪れた梼原町に並び、幕末の志士を多く輩出した地である。土佐勤皇党からの最初の脱藩者である志士、吉村虎太郎が生まれた村でもあり、現在も生家の門が残り、津野町西庁舎のそばには彼の銅像が、町の中心部を見下ろす高台に立っている。
像のそばには、四万十川の「裏源流」と呼ばれる北川が流れており、天然のアユが大きく生育することで知られるとか。昨日は昼食も夕食も、アメゴやニジマスといった川魚料理が出てきたのを思い出し、そろそろ昼時とあれば、今日の昼食の山里料理も気になってくる。
四万十川「裏源流」の町、津野町。セラピー弁当は竹の折入り
その昼食は、セラピーメニューの仕上げにもなっており、津野町西庁舎の会議室にて、お弁当をいただくことになった。竹製の折に入った、見るからに田舎風の弁当は、その名も「てっぺん天狗のセラピー弁当」なるネーミング。天狗荘で調整している弁当で、ふたを開けると、雑穀米のおにぎりが3つに、山菜の膾、ナスの煮浸し、梅干に梅豆腐など、近隣の山の味覚盛りだくさんのおかずが、見るからに優しそうだ。
おにぎりは塩を軽めにしてあり、梅干や梅豆腐と頂くと食が進むこと。膾はキクラゲ、ダイコンに、ネマガリタケで、これもしっかり酢がきいているため、おにぎりのおかずにピッタリだ。この日の川魚はマスの天ぷら。つくねともども、野菜中心のおかずの中でしっかり食べごたえがあるのがうれしい。本来は、先ほど歩いたセラピーロードで頂くそうで、おにぎり3つは女性には多いように思えるけれど、あの環境の中だと食が進むらしく、結構平らげてしまうのだとか。
デザートの柿と柚子羊羹を頂くと、程良い満腹感が心地よい。このあとは一路、高知市へと向かい、桂浜に竜馬記念館、上町の竜馬生誕の地など、夕方まで竜馬ゆかりの見どころ目白押しの視察が続いていく。
そして今度は四国山地から土佐湾へ向けて、西から東への大移動だ。山間を揺られ、高速道路を走るバスの車中では、セラピーの効能とこの満腹感のおかげで、再び午睡してしまうこと間違いなし、か? (2008年11月14日食記)
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