ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…岐阜 『長良川うかいミュージアム』の、跳あゆ

2017年09月18日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
長良橋の上から川上方面を望むと、屹立した金華山の山頂に、織田信長公の居城である岐阜城が仰ぎ見られた。直下を流れる長良川は、いわば城下の川。それゆえか、信長は長良川で行われる鵜飼を保護し、鮎を進物や宴席で振舞ったのはもちろん、夜漁の鑑賞を武将や高官との接待に用いたとの記録もある。今では岐阜の観光には欠かせない鵜飼観覧船を、戦国期にすでに外交向けのアイテムに取り入れていたとは、先見性のある信長らしい施策といえよう。このように、1300年の歴史がある長良川の鵜飼は伝統漁業であるとともに、将軍家や皇室ら権力者に注目されていた歴史がある。

長良橋を渡り対岸の沿いの土手を行くと、沿道には長良川温泉の旅館街が広がっている。どのホテルも、長良川に面して客室の窓が設けられ、老舗旅館には上層階に望楼のような部屋も。河岸の温泉宿の部屋は、まさに鵜飼見物の特等席だろう。またこのあたりは「鵜飼の里」とも称されているように、河岸に木造の鵜飼船が繋留されているほか、付近には鵜を操る「鵜匠」の家も点在。彼らは「鳥屋籠」という円筒の竹カゴで鵜を飼っているのだが、飼う、というよりも生活を共にする「兄弟のような存在」とまで言う鵜匠もいるそうだ。

せっかくなので、ここで兄弟揃っての出漁風景を眺めたかったが、まだ漁の時間には早いようで、鵜飼船のまわりには人も鳥も気配がない。そんな中で突然、バタバタとした羽音と「グーグー!」との鳴き声が、付近から響いてきた。「長良川うかいミュージアム」の展示コーナーが、発信元のようである。足を向けると、檻の中でアヒルよりふたまわりほど大柄の水鳥が、プールでバチャバチャ気持ちよさそうに水浴びしていた。鵜飼に用いる種はウミウで、人になつくので扱いやすいそうである。説明には成鳥は黒褐色とあったが、しっとり深緑の羽がとても美しい。岩の上で羽を大きく広げる姿は堂々としており、伝統漁法の担い手らしい風格がある。

そんな鵜クンに誘われたのもあり、ミュージアムでしばし勉強の時間といきたい。展示室に設けられたシアターでは、模型船の背景に操業の映像を流し、鵜飼が体感できる仕組みだ。船上には、篝火を焚き付けながら鵜を5〜6羽操る鵜匠を中心に、鵜匠に合わせ舵をとる総責任者の「艫乗り」、補佐で鵜匠の弟子の「中乗り」による、三人のフォーメーションが組まれている。映像はまず、夕方の出漁後に上流へ上り、「回し場」という河原で待機。ここで篝火を焚き手縄を鵜につなぐなど、漁の準備を整えるのだ。特に手縄の先端の「首結」は、魚が喉元で止まるようにするなど、鵜との繊細なやりとりの生命線だ。

ぎふ長良川鵜飼には、現在6名の鵜匠が従事しており、くじびきで出発順を決めたらいざ、出漁だ。前半は「狩り下り」といって、順に漁を進めながら長良橋のあたりまで下る。その後に川をやや上り、6艘が川幅いっぱいに並んで操業する「総がらみ」で、クライマックスを迎える。ところでこの漁法、食べた鮎を戻させるとは鵜がかわいそう、と思う人もいるのでは。実は鵜は、飲んだ獲物をのどにいったん貯められる特性があり、危険時には吐き出して体を軽くして逃げる習性がある。鵜飼はそれを利用した漁で、決して鵜匠が「兄弟」に無理を強いてはいないのだ。

さらに、鵜飼で漁獲した鮎が古くから珍重されるのも、この生態に所以がある。鵜は鮎を嘴で一撃で気絶させ、向きを変えて頭から飲み込む。これだとうろこが喉にひっかからないため、身が傷むことがない。さらに喉で圧をかけて素早く絶命させるので、脂が悪くならず鮮度も保たれる。まさに鵜による活け締めで、品質の面でも理にかなった魚法だろう。なので鵜飼でとれた鮎は、頭の直下についた嘴の跡が、識別用のブランドマークなのだとか。加えてぎふ長良川鵜飼の鵜匠は「宮内庁式部職」に任命されており、現在も年に8回「御料鵜飼」で皇室へ届ける鮎を捕獲している。長良川鵜飼の鮎は、宮内庁御用達レベルのクオリティといえる。

展示エリアを出たところは売店で、甘露煮など鮎の加工品に混じり「登り鮎」「焼き鮎」「鮎めぐり」など、鮎をモチーフにした市街の銘菓も多数並ぶ。その中から「跳(おどり)あゆ」を一尾? 買い、長良川沿いに出ておやつにいただいた。袋から出すとかわいい顔つきで、急流におどる長良川の精悍な鮎に比べると、ちと穏やかな面構えのようにも見える。カステラ生地の中は求肥と餡が半々で、白い求肥が肝のような甘さか。川のせせらぎを聞きつつ、鵜に倣って頭からいくと、兄弟にはならずとも操業時の鵜の気持ちが、ちょっとは分かり合えたような。

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