ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

味本・旅本ライブラリー14…『食堂かたつむり』 小川 糸

2009年03月11日 | 味本・旅本ライブラリー
 都会で恋人に逃げられたショックで、言葉を話せなくなった女の子が、故郷へ戻って1日1組だけ客を受ける「食堂かたつむり」をオープン。料理を通じて様々な境遇のお客の心を解きほぐしていく一方、自身は折り合いの悪かった母親との関係が、少しずつほぐれていく様を綴る。
 彼女を支える、人が好く無償の優しさを持ち合わせる元用務員。品がなく底意地が悪いが芯は悪人ではない母の愛人。周辺キャラも彼女とのかかわりを通じて、それぞれの生き方を映した心の動きが伝わってくるのが興味深い。水商売の母親の私生児と思い込んでいた彼女だが、母のこれまでの思わぬ人生を知り、許せる気持ちが芽生えたところで…。

 料理が人の心に訴える、というのは、確かに分からなくもない。高級料理を食べて味に感激するとかではなく、食べてもらう人への思いやりが伝わる料理、という意味で。お客たちはもちろん、母の愛人に挑発された際、「感情はかならず味に出る」と心を落ち着かせて料理した味噌汁で涙させるなど、確かに心や感情は料理の出来に影響するのだろう。
 またこれも基本だが、食材から「生」を頂戴している事実も、意外に忘れがち。母親が愛玩している豚を最後の場面で…。人間の業であり、それをどうとらえるかが大切、ということが、それにまつわるストーリーで綴られている。豚の立場からの心情描写(?)が、結構泣かせてくれる。

 そんな、料理すること、食べることへの原点が、根底に存在するような作品。料理や食に関心のある方は、ご一読を。ちなみに「かたつむり」がある街の舞台は、山形県鶴岡らしいが、作品中の宴会シーンでふぐ刺しを、皿のまんなかに盛った肝につけて食べる「ふぐルーレット」という趣向が描かれている。新聞にものった、無免許調理師のフグにあたった事件を思い出したが、山形ってそういうフグ食文化の下地があったというころか?


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