ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…長岡 『長岡小嶋屋』の、ニシン煮とへぎそば

2016年11月27日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
牧野家7万4000石の城下町である、新潟県長岡市。信濃川に隣接し三国街道などの交差点であることから物流の要衝、また「米百俵」の逸話のように幕末〜近代に活躍した偉人を輩出した地であり、市街には史跡や名残、足跡が点在している。新幹線から駅に降り立つと、長岡花火のモニュメントがお出迎え。市街へと歩き出せば、歩道の随所に「雁木」と呼ばれる小屋根が設けられているのが目に入る。豪雪地帯ならではの対応だが、11月末の晴天のもと、まだこのお世話にならずに町歩きが楽しめそうである。

駅から南に数分歩くと、柿川という小川に出くわした。流れに沿って遊歩道が整備され、親水護岸や東屋も設けられているなど、ちょっとした水とのふれあいの場となっている。市街の西部を巻くようにゆく流路から、かつては信濃川の水運に利用されてきた河川でもある。当時の長岡藩は、西廻り航路の寄港地である新潟も治めており、上流の十日町や六日町からの米などの荷を、ここで大型の船に積み替えて新潟へと運んでいた。柿川の流路には6つの河戸(荷揚げ場)が設置され、ここを通過する際の水運権の収入はかなりのものだったという。

川と並行する柿川通りの近くには繁華街の殿町が広がり、川に沿って料亭もいくつか見られるなど、今もなお水運の恩恵であたりが栄えたことが伺える。長岡は海や港から離れた立地のため、ローカル魚はこうした町の所以から見出すこととなりそうだ。柿川畔の散策後に、殿町にあるそば屋「長岡小嶋屋」へ。昔ながらの木造の板壁の建物にひかれて暖簾をくぐり、品書きを一覧するとそば前にニシン煮があり、思わずニヤリとする。北前船の寄港地に卸される蝦夷地からの「下り荷」の、代表といえば身欠きニシン。魚沼など信濃川流域の町村で、古くから食べられていたことから、ニシンは長岡を経ての水運に所以がありげだ。

長岡に蔵がある「吉乃川」とともにオーダーしたら、ゼンマイと車麩との煮付け盛り合わせで出された。ニシンはほろりと箸でくずれやすく、味はとても淡い。塩干物特有のゴワゴワさ、塩辛さがなく、ビシッと辛口の「吉乃川」を含むと、後味がクッと甘く引き立つのがいい。極太のゼンマイ、出し汁ヒタヒタの車麩とも穏やか目の味のため、つい箸が進み酒が追いつかずになってしまう。なので早めにそばへと切り替え、店の看板である「へぎそば」を追加した。そばといってもれっきとしたローカル魚料理で、「ふのり」という海藻をつなぎに使っている、この地方特有のそばなのである。

へぎそばは名の所以である、「へぎ」という杉板で作った角盆に盛られており、U字型の単位ごとにそばが小分けされている。箸に引っ掛けてつゆにひたして、ひとまとまりをズッ、とひとすすり。クキリコキリと軽快な歯ごたえの後、舌触りがとてもなめらかで、ややヌルリと感じるのがふのりの効果なのだろうか。そばというより、何がしかの海藻をそのままつるつるやっているようにも感じられ、雑穀の引っ掛かりがなくスルリストンと喉から落ちていく、不思議な食感のそばである。

へぎそばのローカル魚的要素は、水運ではなく地場産業に所以がある。長岡市の南に隣接する小千谷市の工芸品「小千谷縮」の生産において、織糸の強化や仕上げの形成にふのりを用いていた。それをつなぎにしてそばを打つことで、独特の歯ごたえと舌触りが出されているという。この店の味の秘訣は、石臼挽きの粉と、ていねいに選別した天然物のふのり。ちなみにふのりの含有量が多いほど、なめらかかつ腰が出るのだそうだ。内陸に位置する小千谷の染物職人の食ながら、むしろ日本海の漁師そばのような感じな気もする。

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