四ツ谷は名の通り谷間の地形のせいか、道幅の広い新宿通りも日差しの差し込みが今ひとつ弱い。先日積もった雪も未だに、歩道の片隅に凍結して残っており、寒波のピークに加えいっそう底冷えを厳しくしている。
そんな中、四ツ谷駅に向けて歩いていると、下校途中の小学生が、凍った雪をサッカーの要領でポンポン蹴っては追い抜いていき、路地へと入っていく。自分も差し掛かった途端、奥の方から漂うこんがりクリスピーな香り。発信元はどうやら「たい焼き」の看板らしく、5人ほどの列ができていた。
熱々のたい焼きは、食べれば中からあったか、持ち歩けばカイロがわり、ということで列につき、ガラス越しに焼いている様子を眺めて待つ。二人の焼き手が焼き上がりを型鉄板からどんどん外し、年配の職人がハサミではみ出した「耳」をきれいに切り取って仕上げていく。
ものの本によれば、麻布十番の「浪花屋」に人形町の「柳屋」とここ「わかば」が、東京たい焼き御三家なのだとか。店内のテーブルでお茶と一緒にいただくこともでき、焼きたてをバクッといけば薄くカリカリの皮の下は、すぐにたっぷりの餡がパツンパツンに詰まっているのがうれしい。
たい焼きといえば、甘党を頭の先からつま先まで痺れさす、一撃必殺の激甘が身上だが、ここの粒餡はアズキの豆風味がこってり濃厚で、砂糖甘さがきつくない。いわば「おかわりできる甘さ」で、数尾テイクアウトする若い女性や、皿にふたつみっつ載せている男性ひとり客の姿もうなづける。
ホクホクと食べ進み、「鯛焼のしっぽには、いつもあんこがありますように」との皿の文字が現れてごちそうさま。熱いお茶で舌を締めたら、おかげですっかり暖をとれた。
店頭を見ていると、箱でまとめ買いする主婦らしい客がちらほらやってくる。どうやら子どものおやつ用らしく、店頭では蒸れない持ち帰り方の説明がていねいだ。
そういえば子どものころ、冬の寒い日に母親の買ってきた熱々のたい焼きは何よりのおやつだったな、などと思ったら、足は再び行列に。家族の持ち帰り分用に、冷めてもおいしい食べ方も聞いておこうか。
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