ちょうど去年の今ぐらいに、富山県の新湊の取材をしていた。豊饒な富山湾を控える北陸有数の漁港を擁し、大雪の中を早朝の新湊魚市場を訪れると、荷捌き場は様々な種類の漁獲でまさにおもちゃ箱状態となっていた。
時期的に冬の魚が終わりごろ、春からの魚の走りぐらいで、冬の魚のノドグロにガスエビはともに、富山湾の底引き網漁の主要漁獲。陸からすぐに深い海底谷へと続く独特の環境でとれる、深海性の魚だ。また春からの魚介は、ホタルイカに白エビ。こちらもともに、深度のある富山湾でこそ水揚げされる漁獲で、富山を代表する「ローカル魚介」である。
ホタルイカは全身に発行体があり、海中で光を発するためにその名がついた。敵に遭遇した際に驚かせるのが光る理由といわれ、底引き網の船で水揚げされる際には、網の中がボワッと輝いて見えるとか。最後の威嚇と思うと神秘的なような、ちょっと切ない輝きのような。
近頃は水揚げ地に近い富山や金沢だけでなく、首都圏の居酒屋などでも3月になると「新もののホタルイカ入りました」との貼紙を見かける。沖漬で食べるのが一般的だが、刺身や釜揚げで味わえるのもこの時期の新物ならでは。飲みに行って見かけたら迷わず頼みたい、北陸に春を告げる一品といえる。
この夜に訪れた、自宅に近い「金沢まいもん寿司」で、まずは「金沢港直送五貫盛り」を注文。ノドグロにガスエビ、ホタルイカにテイ貝にヤナギハチメと、こちらも冬と春の旬ネタが合い盛りになっていた。旬の終わりとはいえ、ノドグロはあぶりにしてあるので脂ががっちり甘く、ガスエビもとろけるようにジューシー。ヤナギハチメはメバルのことで、春告魚との別名の通り、身の弾力がシャッキリと若々しい。
そしてホタルイカ。軍艦に刺身がのっており、ワタがねっとり、こってりとコクがある。気を良くして「ホタルイカ三種盛り」も追加、刺身に加えて、ホクホクのワタで酒が進む釜揚げ、こなれた醤油の旨みがうれしい沖漬との味比べも楽しめた。まだ雪も残る北陸路の春が垣間見える、鮮烈で魅惑的な味わいだろうか。
富山湾ではホタルイカの漁期中、水揚げ時の発光風景を見学する観光船が就航しており、一度乗ってみたい。富山の旨い酒と、肴に水揚げしたてのホタルイカを味わった翌朝に眺めれば、威嚇の発光もウマさへの祝福の光に見えるかも?
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