九頭竜川の河口に開けた三国は、かつて西回り航路の寄港地として栄えた港町である。市街中心の「きたまえ通り」には、当時商家や銀行だった重厚な建物が軒を連ね、商人街らしいたたずまいを見せている。路地から川端へと出ると、広々した河口域が180度見渡せ、ブランド魚介の越前ガニの水揚げで有名な三国漁港も右手に遠望できた。
九頭竜川の広い川幅のおかげで、水運による内陸部との物流が盛んだったのが、三国港が交易拠点として栄えた理由とされている。一方、越前沿岸の漁業にも、九頭竜川のもたらす影響は大きい。上流域が山林のため、土壌のプランクトンが川へと流れ込み、河口から越前海岸沿岸へと放流される。それを餌とするエビやカニが集まるおかげで、付近に好漁場が形成されているのである。三国港は若狭湾沖合の底引き網漁の拠点で、夜中に出漁した船が夕方に帰港、18時からセリが行われると聞いていた。しかしこの日は海況が悪く漁が行われなかったため、セリもあえなく中止。商家巡りの後は、河岸に停泊する漁船を眺めて歩き散策終了となってしまった。
三国から福井までは電車で1時間弱、九頭竜川の支流である足羽川が市街を流れており、かつては三国から北前船の積荷が水運でここまで運ばれていた繋がりがある。駅のまわりはきれいに再開発されていて、かつて訪れた駅前居酒屋を探そうにも、記憶がほとんど辿れぬきれいさである。思案していたら突然の豪雨に襲われ、たまらず目に入った高架下のモール入り口の「八兆屋」へと避難。市場も見られず目当ての店も見つけられずとなった福井の魚巡り、新装された駅ナカの店に期待してみるのも面白そうだ。
店内に入ると高架下ながらかなり広く、オープンキッチンの厨房を囲うようにカウンターが巡らされ、さらにそのまわりに半個室のテーブルが配置されている。調理服に黒三角布をまとった兄さんたちがフロアを行き交い、駅近の飲み屋というよりは小洒落たお魚ダイニングといった様相。時折電車の走行音が頭上をゴーッ、と過ぎていくのが、馴染みのガード下の感じを思い出してなごむようで、ホッとするようで。
若狭牛ステーキ、福井ポーク串カツ、ソースカツ、永平寺胡麻豆腐と、地場の食材が豊富な品書きをめくるごとに期待が高まる。魚介ももちろん充実のラインナップで、三国港の水揚げを見逃したこともあり、底引き網漁が所以を魚介をベースに夏が旬の素材を選んでみた。この時期の越前は、甘エビの春漁が終わりの時期に近い。県内では三国港が屈指の水揚げ漁を誇り、漁場が砂泥池のため水がきれいで甘みが澄んでいるという。
なので名残の甘エビつくりの5本盛りを奮発、ひと口いくとシャクっときてトロリと溶ける、かの食感のハーモニーに痺れる。高値が付くという、卵を抱いたメスは時節柄ないが、頭にごってりミソが詰まっているのも、鮮度のいい水揚げ地ならではだ。身を引っ張ってこぼれたミソをからめたり、頭をキュッと吸ってモワッとした濃厚感を楽しんだり。5匹もあればミソで徳利ひとつ空けられるほどの、魚介珍味好きにはお宝な部位である。
甘エビの旨さに底引きの定番魚介をもうひとつと、次はバイ貝焼きをオーダー。鉄板で焼きたて熱々のため、殻が持ちにくく脆いので、楊枝を刺してクルリと回し出すのが難しい。やけどに気をつけてひとかじりすると、殻の入口らへんのググッと強靭さを、奥のワタのヌルヌルさが柔軟にいなす、硬軟取り混ぜたような不思議な食感だ。急ぎ注文した鯖江の地酒「梵 」ときしらず純米吟醸は、激甘ながら魚介との相性が悪くなく、さすがは魚どころの日本酒。
そしてこの時期の意外な旬の魚が、ブリ。寒ブリのイメージが強いが、福井では春先から初夏にかけての水揚げも多い。品書きにあるつくりの「ハマチ」とは、福井では成魚から3番目の呼び名。あいにく品切れで「ガンドのカブト塩焼きならあります」との勧めにのって頼んでみた。これもブリの青年魚だろうと軽く見てたら。届いた頭のでかいこと。後で調べたらガンドは成魚ブリの次のランクを指し、ハマチよりも兄貴分だったらしい。
目玉に睨まれつつまず胸ビレからかかると、淡い風味に青年魚らしいフレッシュさを感じる。弾力も成魚のブリよりもたおやかで、化粧塩がしてあるが醤油がないと物足りないぐらいである。アラながら大振りなので食べ応えはあり、ごってり芯のある頭肉、グッと締まったえらぶたの裏の肉、ゼラチントロトロの目のまわり、小さいながら珍味の頬にくちびると、せっせとバラしては無駄なく平らげた。無言でせっせと対峙する様は、冬の王様越前ガニと格闘しているかのようでもある。
三国での水揚げは見られなかったものの、舌に存分に楽しめた越前の初夏の魚介たち。店の小洒落たたたずまいにも次第に慣れ、今宵の盃はまだまだ進む。この先の相方は、青魚に米糠に発酵が相乗した、日本人の酒肴のかのキラーコンテンツ。炙ったへしこと米の日本酒が絡めば、炙り香り立つ魚しょっぱさともに夢心地に沈んでいく。ひとかじりして一献、のエンドレスにハマれば、明朝の漁港探訪はこちら都合にて微妙か?
九頭竜川の広い川幅のおかげで、水運による内陸部との物流が盛んだったのが、三国港が交易拠点として栄えた理由とされている。一方、越前沿岸の漁業にも、九頭竜川のもたらす影響は大きい。上流域が山林のため、土壌のプランクトンが川へと流れ込み、河口から越前海岸沿岸へと放流される。それを餌とするエビやカニが集まるおかげで、付近に好漁場が形成されているのである。三国港は若狭湾沖合の底引き網漁の拠点で、夜中に出漁した船が夕方に帰港、18時からセリが行われると聞いていた。しかしこの日は海況が悪く漁が行われなかったため、セリもあえなく中止。商家巡りの後は、河岸に停泊する漁船を眺めて歩き散策終了となってしまった。
三国から福井までは電車で1時間弱、九頭竜川の支流である足羽川が市街を流れており、かつては三国から北前船の積荷が水運でここまで運ばれていた繋がりがある。駅のまわりはきれいに再開発されていて、かつて訪れた駅前居酒屋を探そうにも、記憶がほとんど辿れぬきれいさである。思案していたら突然の豪雨に襲われ、たまらず目に入った高架下のモール入り口の「八兆屋」へと避難。市場も見られず目当ての店も見つけられずとなった福井の魚巡り、新装された駅ナカの店に期待してみるのも面白そうだ。
店内に入ると高架下ながらかなり広く、オープンキッチンの厨房を囲うようにカウンターが巡らされ、さらにそのまわりに半個室のテーブルが配置されている。調理服に黒三角布をまとった兄さんたちがフロアを行き交い、駅近の飲み屋というよりは小洒落たお魚ダイニングといった様相。時折電車の走行音が頭上をゴーッ、と過ぎていくのが、馴染みのガード下の感じを思い出してなごむようで、ホッとするようで。
若狭牛ステーキ、福井ポーク串カツ、ソースカツ、永平寺胡麻豆腐と、地場の食材が豊富な品書きをめくるごとに期待が高まる。魚介ももちろん充実のラインナップで、三国港の水揚げを見逃したこともあり、底引き網漁が所以を魚介をベースに夏が旬の素材を選んでみた。この時期の越前は、甘エビの春漁が終わりの時期に近い。県内では三国港が屈指の水揚げ漁を誇り、漁場が砂泥池のため水がきれいで甘みが澄んでいるという。
なので名残の甘エビつくりの5本盛りを奮発、ひと口いくとシャクっときてトロリと溶ける、かの食感のハーモニーに痺れる。高値が付くという、卵を抱いたメスは時節柄ないが、頭にごってりミソが詰まっているのも、鮮度のいい水揚げ地ならではだ。身を引っ張ってこぼれたミソをからめたり、頭をキュッと吸ってモワッとした濃厚感を楽しんだり。5匹もあればミソで徳利ひとつ空けられるほどの、魚介珍味好きにはお宝な部位である。
甘エビの旨さに底引きの定番魚介をもうひとつと、次はバイ貝焼きをオーダー。鉄板で焼きたて熱々のため、殻が持ちにくく脆いので、楊枝を刺してクルリと回し出すのが難しい。やけどに気をつけてひとかじりすると、殻の入口らへんのググッと強靭さを、奥のワタのヌルヌルさが柔軟にいなす、硬軟取り混ぜたような不思議な食感だ。急ぎ注文した鯖江の地酒「梵 」ときしらず純米吟醸は、激甘ながら魚介との相性が悪くなく、さすがは魚どころの日本酒。
そしてこの時期の意外な旬の魚が、ブリ。寒ブリのイメージが強いが、福井では春先から初夏にかけての水揚げも多い。品書きにあるつくりの「ハマチ」とは、福井では成魚から3番目の呼び名。あいにく品切れで「ガンドのカブト塩焼きならあります」との勧めにのって頼んでみた。これもブリの青年魚だろうと軽く見てたら。届いた頭のでかいこと。後で調べたらガンドは成魚ブリの次のランクを指し、ハマチよりも兄貴分だったらしい。
目玉に睨まれつつまず胸ビレからかかると、淡い風味に青年魚らしいフレッシュさを感じる。弾力も成魚のブリよりもたおやかで、化粧塩がしてあるが醤油がないと物足りないぐらいである。アラながら大振りなので食べ応えはあり、ごってり芯のある頭肉、グッと締まったえらぶたの裏の肉、ゼラチントロトロの目のまわり、小さいながら珍味の頬にくちびると、せっせとバラしては無駄なく平らげた。無言でせっせと対峙する様は、冬の王様越前ガニと格闘しているかのようでもある。
三国での水揚げは見られなかったものの、舌に存分に楽しめた越前の初夏の魚介たち。店の小洒落たたたずまいにも次第に慣れ、今宵の盃はまだまだ進む。この先の相方は、青魚に米糠に発酵が相乗した、日本人の酒肴のかのキラーコンテンツ。炙ったへしこと米の日本酒が絡めば、炙り香り立つ魚しょっぱさともに夢心地に沈んでいく。ひとかじりして一献、のエンドレスにハマれば、明朝の漁港探訪はこちら都合にて微妙か?