カキ小屋。カキ好きにとって、なんて心を揺さぶられるネーミングの呑み食い処だろうか。筏を前にした浜の掘立小屋で、パチパチ爆ぜる炭火の上に、引き揚げたての拳大の殻を無造作にゴロリ。クツクツと煮え、ジュクジュクと旨汁が沸き立ち、パキッと口を開けたらもう…。
そんな広島の冬の浜の風物詩が、地元・横浜八景島に登場したとあれば、いてもたってもいられない。駅そばの駐車場に仮設された、プレハブとテントへ飛び込むと、もうもうと立ち込める煙に甘い潮の香りが充満。逆さにしたU字溝に網を乗せただけの炉に、ビールケースの椅子と、簡素なしつらえも浜小屋の雰囲気そのものの、いい感じだ。
ここは、広島でカキ小屋を展開する「広島オイスターロード協議会」による、首都圏初出店の施設である。広島にはカキを扱う料理屋は多いけれど、意外にもカキ小屋はあまりないそうで、主催者が広島の漁協や自治体等と協力して展開。2年目の昨年は9店舗で35万人の利用と、なかなかの盛況ぶりだ。
なにはともあれ、まずは焼きガキに突進だ。キロ1500円のザルには大振りのが13個山盛りで、アドバイスに従い網へ3つばかりゴロリといく。まずは平らな側を下に3分、殻が白くなったら汁が漏れないよう、ひっくり返してじっくり火を通す。軽く口が開いたら食べ頃で、カキ剥きでカチリと開き、熱々をホクホク、ツルリ。ジワッと染み出る汁と、パッと潮の香りが咲く身のふくよかさに、滋味、芳醇と言葉を連ねるのがもどかしい。目を閉じればそこは瀬戸のカキ筏、と、そのインパクトを表現してみたりして。
使っているカキはもちろん、広島からの直送で、江田島に呉、宮島大野、安芸津の各漁協から取り寄せているという。どれも大振りなので数年物かと思ったら、前年夏の種カキがもうこれだけ成長したとか。この豊かな環境が、全国シェア65パーセントの生産地の所以なのだろう。
また事務局長によるとカキ小屋の狙いは、漁師の側に立って販路を広げることにもあるという。そのためここでもカキだけではなく、地元横浜で流通する魚介も供している。品書にあるアナゴ焼きに焼きイカや干物セットは、横浜南部市場からの品。この日は南部市場で震災復興支援として扱っている、女川のサンマ焼きも見られる。
広島のカキには広島の酒と、酒処西条の「亀齢」を炭火で燗して、飲んで食べたり20個近いカキ殻の山。カキ養殖の発祥はこの横浜の柴漁港らしい、と酔いどれ談議で飛び出した説に、両地は意外なカキつながりか、としみじみ思ったりして。それぞれの地産の焼き物を肴に、寒空の下の掘立小屋での宴は、さらに盛り上がっていく。