福島県内の一斉操業自粛でまったく漁のない小名浜だが、一部の鮮魚店や食事どころは魚どころ・小名浜を活性化させるために営業を再開している。魚市場を抜けたところに小名浜漁協の直売所と数軒の飲食店が集まっていて、直売はやっていないが食事どころはそこそこお客が訪れ、水揚げがない地物にかわり、他所から仕入れた魚で定食や海鮮丼などを出している。
この丸克商店は1階が鮮魚店、2階が食堂だが、津波はこの建物の1階が水没するほど押し寄せ、9月に入ってから通常営業をようやく再開。昼食を兼ねて訪れてみると、連休の最終日ともあり8割ほどの入りの賑わい。「おかげさまで、ここまでお客さんに来てもらえるようになって」とおばちゃんが話す。窓際の席に座り、修復中の岸壁と休業中の魚市場、復旧なった食堂街と遠くに復旧中の直販所「ら・ら・みゅう」を眺めながらの昼ご飯となった。
震災から復旧したとはいえ福島県内の漁は操業自粛のため、他所物の魚介を取り寄せて何とか営業している、というのが正直な印象だ。品書きによると定食と丼ものがメインで、定食は刺身、煮魚、焼き魚のほか赤次とヤナギと鮭ハラスとホッケ(売り切れだった)。
小名浜といえば、名の通り大きな目で甘みのある白身がうまい深海の小魚・メヒカリが名物で、ニュースによるとこの店は宮崎などから取り寄せて出しているとあったが、この日はあいにく入っていないとのこと。「漁がないため、地物が全然なくて…」と兄さんがすまなそうだ。
ビールとアテに刺身盛り合わせを頼んで、状況下、どんな魚が入ってるかを見てみることに。マグロ、サーモン、甘エビ、イカ、カンパチで、全体的に脂がのっていたり食味がトロリ。特にイカがねっとり、熟成甘い。漁港食堂の磯の香りや歯ごたえのシャキシャキ感を楽しむのではなく、海鮮料理屋の脂の甘みや上品さを楽しむ造りといった感じだ。
自分は漁港の食堂へいくと「地魚重視」のため、マグロは水揚げ地、イカは朝とれや活けなどでないと頼まず、北洋が主のサーモンなどまず注文しない。なのでこのような定番の盛り合わせをたまに食べてみると、これが一般的に人気のラインナップなのを再認識させられる。
「今日の定食の魚で本来なら小名浜の地魚なのは?」と兄さんに聞くと「煮物のノドグロ」。底引き網の主要漁獲で、この日は北海道のものという。角皿にたっぷりの煮汁と出されたが、それほど甘く味も濃くはない。ノドグロも時節柄脂が控えめであっさりしており、ご飯のおかずというより酒の魚向けの、さりげない味付けだ。煮加減が絶妙で身の骨離れがとてもよく、中骨についた身は大きく外れてホッコリ、ホクホクさが堪能できる。背のアラや胸ビレのところはひれを持ち上げれば身がハラリとほぐれ、箸でつついたりほじったりしゃぶったりする必要がない。
地物がなく魚の流通が少ない中、残すのはご法度と頭も分解して頭肉やほお、くちびる、胸ビレの付け根などもきれいにさらった。魚が酒肴向けの分、付け合わせの大根が煮汁の甘みとノドグロの旨味をたっぷり吸い、締めのご飯の最高のおかずである。
漁港の地魚料理紀行「ローカル魚で絶品ごはん」の取材で訪れた際は、あちこちにメヒカリやドンコが暖簾干しされ、食堂では自家製の一夜干しに舌鼓を打ったものだ。一日も早く、小名浜の市場食堂街にもそんな活気が戻ってほしいと願ってやまない。