ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん79…高知 『国民宿舎桂浜荘』の、藁焼きカツオのタタキ

2008年08月17日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

 

 
 「はい3本!」「では5本!」
 威勢のいい掛け声の後には、杯をグイッと飲み干して、さらにその繰り返し。南国高知・坂本龍馬ゆかりの桂浜に面した、『国民宿舎桂浜荘』での宴席では、「箸拳」の掛け声が各所で飛び交って、盛り上がりを見せている。
 この日は高知での酒席ということで、いつも以上にしっかりと気合を入れて臨んだ。何といっても、土佐は酒どころであり、豪快な「いごっそう」の気質で知られる。土佐で言う少々は「升々」を意味する、地元の人は朝や昼から飲み始め、ペースは落とさずそのままつぶれるまで飲み続ける、など、日本屈指の酒好き、酒飲みの地であるイメージが強い。今日の宴席の参加者の半分近くは、地元の方というから、土佐の酒飲みのペースを体を張って? しっかりと楽しんでみたい。

 隣り合った、高知で観光土産の店をやっている方に、挨拶とともに地酒「土佐鶴」を酌される。返杯しようとすると、「返杯は、それを空けてだよ」。土佐では日本酒は勧められたら、「一気空け」が当たり前。また、同じ杯を使って差しつ差されつ、が当地流なのだそうである。さっそく自分の杯をサッと飲み干して、それを相手に渡してご返杯。
 高知の銘酒といえば「土佐鶴」のほか、「司牡丹」「酔鯨」あたりが一般にも知られている銘柄だろう。高知県には18の酒蔵があり、一般の辛口よりもさっぱりとした淡麗辛口のため、新鮮な魚介料理に合うように思える。
 名物のカツオのたたきや皿鉢料理といった、土佐湾で揚がる魚介を使った料理が根付いているのも、酒との相性に関わりがあるのかもしれない。この日の卓にも、カツオや鯛の刺身に大きな伊勢海老、さば寿司に海苔巻きなど田舎寿司、さらに各種天ぷらや煮物などがあふれるほどのった大皿が、卓にいくつもドン、ドン、と並んでいて壮観だ。
 一説によるとこの皿鉢料理も、酒飲み向けに生まれた料理なのだそうである。土佐の酒飲みはこの大皿料理と、あとは酒さえあればオーケーで、宴席が始まったらこれを好き勝手に小皿に料理を取りながら、ひたすら飲む。自分も、好き勝手にやらしてもらっているが、隣席の人と話しては杯に酒を注がれ、飲み干しては返杯、とやっていると、この大皿料理よりも酒のピッチのほうが、勢い上がっていってしまう。

 それを繰り返していると、座が盛り上がるに連れて次第にきつくなってきた。先方は酔いが回ってなのか、それとも確信犯か、ふと見ると返杯がビール用の大きなコップに並々と注がれてしまっている。
 このペースに合わせていくには少々大変そうなので、目先を変えようと、無謀にも土佐の酒席の座興を先方に挑むことに。土佐の伝統的な宴会遊びである「箸拳」である。2人対戦で行い、袖元に隠して差し出されたお互いの箸の数の、合計を言い当てるゲームで、2連敗したほうが杯を空ける決まりになっている。板場に「塗り箸を3組お願いしま~す」と声をかけただけで、「は~い。で、お銚子は何本お持ちしますか?」と、さすが分かってらっしゃる。
 
やり方は、6本のぬり箸を互いに3本ずつ持ち、交互に本数を隠して場に出した後にオープンして、合計の本数で勝負が決まる。先手は合計が3本に、後手はか5本にれば勝ちで、どう出させるかの巧妙な駆け引きが勝負を分ける、酔った頭でやるにはなかなかの心理戦でもある
 
自分は1本を隠して、「3本!」との掛け声でまず先手。後手の隣席の方も、数本隠して「5本!」と掛け声。オープンしたら先方は2本所持、見事自分の勝利である。結局、結構勝ってしまったため、宴の後半はあいにくというか幸いというか、あまり飲まずじまいで済んだ。続々加わってきた、地元の人同士の対戦は、勢いや独特の節、しぐさがあり、郷土芸能風でなかなか見ものだ


   
左は箸拳につかう塗り箸。右は卓に置けない「べく杯」 ※画像はイメージ


 
ほかにも、刺身のつまの菊を、盆の上に逆さにした猪口のひとつに入れ、囃子とともに盆をまわして順に開き、花をあてた人が開いている杯全部に注がれて飲む「菊の花」。底が天狗やひょっとこの面を模していて、安定が悪く飲み干せないと卓に置けない杯「べく杯」など、とにかく酒を飲む方向につながる座興が、まだまだいろいろと続いている。
 
「開けて楽しい菊の花~」の囃子とともに、盆が回ってくる頃には、自分は土佐ペースにダウンの様相である。こういう時ほど、結構「当たり」を引いてしまうほうなので、戦々恐々と盆を待つが、つぶれてもここに宿泊するのだから、誰かが部屋に引きずっていってくれるだろう?

 土佐の酒の質がいいのか、楽しく気分良い宴席だったおかげか、翌朝は何とか二日酔いを免れた。昨晩の皿鉢料理に続き、この日も土佐の名物料理が楽しみだ。カツオのたたき、それも藁焼きのタタキで、この宿では豪快な藁焼きの実演を、見物できるのである。
 
昼食時、太平洋を一望するレストランへと足を運ぶと、すでにテラスには大きなドラム缶が据え置かれていすぐに板場から、節におろされたカツオがのった皿が運ばれてきたので、自分も外のドラム缶の脇へと移動。炎にあぶられるカツオの迫力ある様子を、直近で見てみることにする。
 
ドラム缶の中の藁に火をつけられると同時に、「てっきゅう」と呼ばれる大きなフォークのような道具節がのせられ、ドラム缶の上にかざされた。最初のうちは、ブスブスと白煙が上がる程度だったのが突然、真っ赤な炎がバッ、と一気に立ちのぼりビックリ。高さ1~1.5メートルほどあるだろうか。



藁焼きのタタキは、冷水で冷やさずに頂く


 
カツオのタタキはもともと、漁師が浜でカツオの皮目をあぶって食べた「焼き切り」という料理が起源とされている。あぶることで脂を適度に落とし、脂と身の旨みを引き出し、さらに殺菌作用もあったのだという。当時は浜の松葉を燃やして焼いていたといわれ、現在ではガスや炭火であぶる中、藁焼きはもっともタタキに適した調理法である。
 
その大きな理由は、高火力で瞬時に熱を加えられること炎が最も上がった短期間に、表面だけをむらなくあてるのがポイント、と焼き手の方が話す。藁はストロー状の構造になっているため燃えやすく、瞬時に800度近い高火力となるとか。そのため、火が通りすぎないようにするのが難しく、確かに真横で見ているこちらも、あぶり焼きにされているように熱いぐらいだ。
 
節の外側がほんのり薄茶色になったら、一度返して反対側もあぶる。1~2分で炎からおろされた節は、そのまま調理台へと運ばれていった。

 
そして氷水に浸して熱を冷ましで、と思ったら、そのまま包丁で切られていくではないか。通常、店で出すタタキは、焼き上がってから客に出すまでに時間があるため、身の中まで熱が回ってしまう。それを防ぐために、普通は焼いた後に氷水で冷やすのだが、藁焼き実演では炎から下ろしたのを手早く切って、すぐにお客に出す。熱が芯まで回る前に食べられるので、氷水で冷やす必要がないのである。
 
という訳で、運ばれてきた器には、1センチほどと厚めに切られたタタキが、数切れ載っていた。箸でつまんでみると、外側はしっかり焦げ目がつき、中は艶かしいピンク色だ。薬味はっぷりのニンニクやネギ、タレは柚子酢や土佐醤油など、地域によって様々だがここでは生のニンニクスライスに、室戸の天然塩かワサビをつけて食べるのがまた、独特。さっそく塩を軽くつけて、ひと切れ頂く。
 
外側は焼き魚のようにホクホクと香ばしく、中は身がしっかり締まっている。中心は焼けていないが、ほんのり温かいぐらい熱が通っており、おかげで血のにおいはせず、甘味がじっくりと楽しめる。何といっても燻製の香りが強いのが、焼きたての藁焼きならではの特徴だ。いわば、スモーク鰹といった味わいで、燻された芳香がより、食欲をそそる。



外は高温であぶられて、中は生の絶妙の火加減


 今の時期のカツオは初ガツオは過ぎ、戻りガツオには早いため、脂が少なくあっさりしており、脂がのったカツオだとまた、印象が違うかも知れない料理長の話によると、土佐沖の戻りガツオの最盛期は、10月から11だそう
 
この季節に再訪したら、脂が上々でより炎を高く上げて焼かれる、藁焼きカツオのタタキが味わえるのだろうその機会にはもちろん、土佐の酒席にも再チャレンジ。昨晩以上のベストコンディションで、宴会の座興を全制覇を目指して挑みたいものだ。(6月中旬食記)