7月の最終週は、暑気払いで連日飲み会が続く週となった。ジンギスカンに海鮮居酒屋、離島料理の店と、毎日飲む店のジャンルは違うけれど、深酒したあとの締めには、ラーメンの誘惑が毎晩ついてまわる。でも、日付が変わった後の寝る前に食べるラーメンの、お腹周りに対する影響については、いつかここでも述べた通り。酔った頭の中、ギリギリ残る理性で我慢のおかげで、何とか翌朝に胃もたれに合わず、ウエスト超過も回避し続けている。
かつて行ったことがある、といっても、その場所にあるラーメン屋は何度か経営が変わっていて、思い出して行くと、全然違うタイプのラーメンを出しているのが面白い。初めて行ったときは、背脂じっとりの強烈濃厚なくどい系。それがしばらくして行って見ると、対極的にさっぱりした魚だし和風味に様変わりしていた。
そして、今回行ってみたら看板には『久留米らーめん 金丸』との文字が。久留米ラーメンといえば、九州ラーメンの中でも屈指の濃厚なとんこつスープが売りで、この場所の店はこってり→あっさり→こってり、の交互に、業態を変えているのだろうか。
うなぎの寝床のように細長く、カウンターのみの店内は、どの店だったときも変わらずで、席に着こうとすると、「食券をお願いします」。食券の券売機スタイルは、今度の店が初めてで、レギュラーのとんこつ・塩ダレの「金丸」に、魚介系塩ダレの「特・金丸」、醤油ダレを使った「醤・金丸」の3種類が、店のメインメニューらしい。濃い口の味を体が欲しがっているので、「醤・金丸」を選び、どの店のときにも変わらない奥から2番目の「いつもの席」へ。食券を渡すと、お姉さんに麺の硬さを聞かれ、突然だったので「普通で」と応えてしまう。
店頭のメニュー。見た目は博多ラーメンと似ている
すぐに運ばれてきたラーメンのスープは、とんこつならではの白濁で、博多で食べたのよりはやや濁りが強く黄土色をしている。ひとさじ頂くと、見た目の割には意外に軽く感じる。トンコツ臭がプンプンでコッテリ… と思っていたので、やや上品、というか洗練された印象だ。
博多ラーメンと久留米ラーメンは兄弟のようなものでは、と前述したが、ルーツをたどると博多ラーメンのルーツは久留米ラーメンでは、との説も。九州ラーメンの特徴である、とんこつスープは久留米のほうが、はるかに長時間煮込むため、博多ラーメンよりも濃厚なのが、その由縁とされる。久留米ラーメンの起源は、とある店が煮込みすぎて失敗したスープを使ったこととか、ある老舗では残ったスープを、翌日の仕込みで水代わりに使うため、「スープの煮込み時間は半世紀」と称しているとか、裏づけとなる逸話も数多い。
だからじっくり煮込むことで、髄からしっかりうまみが出て、濃厚でコクがあるが重たくないスープが、久留米ラーメンの特徴である。博多ラーメンよりはとんこつ臭さが抑えられているため、くせがない分飲みやすい。具もネギとチャーシュー程度とシンプルな博多ラーメンに比べ、煮卵、ばら肉や角煮、メンマ、海苔などのっているのも、久留米ラーメンの特徴。それにしても、濃厚なのに脂分が少ないスープはありがたく、飲み会続きで水分と塩分が欲しいところに、残さずグイッと飲み干せるのがありがたい。
そんな訳で、ややとろみがあるがマイルドなスープを、続いてふた口、三口。うまみがしっかりこなれているのに、とんこつ臭さがほとんどないのは、魚介だしや醤油ダレとの組み合わせの良さもあるのだろう。白濁の成分のほとんどは、脂ではなくゼラチン質やコラーゲン。飲み会が続く体には、栄養がしみてくるような優しさである。
そして麺のほうは九州ラーメンらしい細麺で、スープとのからみはいいけれど、細い分やや伸びが早いよう。今日の「普通」がどの硬さかは分からないが、2回目にお勧めの「バリ」よりもうひとつ硬い、「バリバリ」でちょうどいいかもしれない。
具は海苔に青ネギ、味玉に、チャーシューに角煮と肉ものが2種類。ともに脂トロトロ、肉はホックリと味がよく染み、手間隙がかけられている。これらもいいが、卓上の高菜や紅しょうがのほうがスープや麺と相性がいいのは、九州ラーメンの基本的トッピングだからだろうか。
ウッディな店頭。店内はカウンターのみ
次回来るときは塩ダレのほうにするか、暑いからつけ麺もいいな、と、店を出て店頭に置かれた木のメニュー板を眺めながら、すでに再訪を考えてしまう。ふと営業時間を見ると、何と朝の4時までやっているとある。本日の暑気払いは銀座界隈で飲む予定で、さっそく今宵再訪するか。このマイルドなスープに細麺なら、我慢していた禁断の締めラーメンでも大丈夫そう?(2008年7月24日食記)