北陸ネタの握りのひと皿。上から赤ニシ貝、ホタルイカ沖漬け、ナメラ
娘は外食となるとイチオシは寿司、とリクエストは決まっている。寿司といってもカウンターではもちろんなく、ジュースもスイーツやフルーツも食べられる、回るヤツ。いつもは全皿100円のところで、安心して好きに食べさせているけれど、今日は食べ盛りのがひとりいないこともあり、ちょっといいネタを扱うところへ行ってみることにしようか。
地元でネタがいい回転寿司といえば、「おしどり寿司」という人気店がある。地元相模湾や東京湾で水揚げされた、地魚を積極的に使っていることで評判で、週末の夕方となると1時間以上待ちもざらの大混雑。今日も夏休み最初の週末ということで、長時間待ちになりそうな予感だ。
そこで、この日は昨年末に行って感じが良かった、『金沢まいもん寿司』を再訪してみることにした。JR根岸線の港南台駅からクルマで5分ほどのところにあり、環状3号線沿いのレストランが集まるモールにある。エレベーターを出ると、打ち水がした石畳のアプローチに、赤壁に赤い格子の町や風の建物と、まるで金沢の茶屋街にある料亭を想像させるたたずまいが目を引く。
北陸ネタの品書き。添えてある文句が、食欲をそそる
そんなあなどれない品揃えのこの店、金沢港や氷見港、能登で朝とれの、日本海や富山湾のネタを売りにしている、北陸の本格派回転寿司である。金沢と富山を中心に店舗展開をしており、この港南台店は2軒しかない首都圏の支店のうちの1軒。回転寿司とはいえ、北陸のネタを食べられるのが興味深いが、そこは高級回転寿司。地物はどれもひと皿400円以上、しかもネタによってはひと皿1カンだから、1皿100円均一の店のように、調子にのってどんどんいくと大変だ。
ようやく順番が来て、通されたのは回転コンベアから離れた座敷席だった。これならオーダーごとに握ってもらえるからいいな、と大人は喜んでいるが、回ってくるのをとるのが好きな娘は少々不服そう。とりあえず好物のイクラ、マグロにエビを頼み、何とかご機嫌を直してもらう。
自分はまずはしめ鯖と、北陸つながりでホタルイカの沖漬けの軍艦巻きを注文。醤油漬けでトロトロ、ワタがこってり複雑にこなれたいい味の沖漬けに、締め具合が浅く脂の甘さがしっかり残るしめ鯖は、酒飲み向けのネタ、といった感じである。
さらに品書きを見ていると、各地の有名地魚もいくつか揃っているよう。佐賀のメジマグロをはじめ、大分のシマアジ、愛媛の真鯛、下田の金目鯛など、北陸ネタを頼んでみる前に、ついつい誘われてしまう。アジ、しめ鯖、シマアジの「光り物三昧」や、大トロ、中トロ、赤身の「マグロ三昧」にも手が出てしまい、みんなで分けながらどんどん頂く。
調味料も能登の薄味醤油を使っていたり、白身には能登の天然塩を使っているなど、このあたりにもご当地へのこだわりだろうか。酢飯が小振りなのも特徴で、様々な種類が食べられてうれしいような、その分皿の枚数がいってしまうので、予算的にこわいような。
最初に頂いたホタルイカ沖漬け(左)。締めのワサビ巻き(右)は涙モノの刺激
ということで、ここで北陸ネタからノドグロとガスエビに赤ニシ貝を注文した。ところが、ノドグロとガスエビはあいにく品切れとのこと。
ガスエビは鮮度落ちが激しく、水揚げ地でしか味わえない希少なネタで、ボタンエビよりも大振りで濃厚な甘みが特徴。ノドグロは正式名をアカムツといい、地元の漁師が「白身のトロ」「魚神」と呼ぶほどの、最高の白身の魚といわれる。ともに話には聞いていたので、並んでいるときから決めていただけに残念無念。そこでピンチヒッターには、ガスエビの代わりに白エビ、ノドグロの代わりはナメラを指名することに。白エビと赤ニシ貝は軍艦巻き、ナメラは握りで出された。
白エビは現地、富山湾に面した岩瀬で食べたことがあり、富山湾でしかとれない希少かつ優美な姿のエビである。名の通り、透き通るような白色をしており、軍艦巻き上に10匹以上はのっているだろうか。小さいながらも口の中でブッツリ、プリプリとしっかりエビの味で、艶かしい甘さの中に、ほんのり渋みがあるのが特徴。束になってかかってきて、大車エビ1本分のインパクト、という感じである。
白エビが「富山湾の宝石」と称される一方、赤ニシ貝は「北陸のルビー」と称され、連続して北陸の宝石魚介を賞味することに。こちらはザクッ、コリッとした歯ごたえで、貝なのに磯の香りは控えめ、その分身の旨味が濃い。上品な白エビに対し、こちらの宝石は少々ワイルドかも。
そしてナメラは、白身のもっちり感が特徴である。口の中ではまるで吸い付くような食感、味は究極の淡白で、ほんのり甘い香りが漂う程度。あまり聞きなれない魚だが、高級魚であるハタの一種で、確かに気品を感じさせるひとネタである。
北陸モノの1カン、白エビ(左奥)は金箔のせ。右は締めの加賀レンコンのつみれ汁
品書きによると、汁物も北陸ネタが揃っていて、自分は加賀レンコンのつみれ汁、家内はノドグロのあら汁を頼んで、寿司の終わりの締めくくりとした。鶏のつみれ団子の中にサクサクの加賀レンコンが練りこまれていて、まるで加賀会席の留椀のように落ち着ける。あら汁は対照的に、骨についた身や頭のゼラチン質がたっぷりで、漁師汁らしい素朴さ。普段、回転寿司で食べるときは寿司で満腹になることが多いけれど、この日は締めの汁物までしっかり頂いて、ごちそうさま。
ローカルな魚介でカラーを出すというのは、高級回転寿司の展開方法のひとつだろう。関東周辺では沼津、三崎、銚子などを店名に出している回転寿司もあるけれど、ここではそれよりちょっと遠方の魚どころの寿司が味わえるのが売りなのかも。
地魚寿司を頂き、椀物も堪能して、そろそろ店を後に、と思ったら、回転コンベアから娘がデザートのスイカを運んできている。品書きには加賀のサツマイモ、五郎島や大納言小豆を使った、名物の「こだわりプリン」もあり、別腹のデザートも北陸ネタで揃えてみようか。(2008年7月21日食記)