ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん90…軽井沢 『スリードッグベーカリー』の、犬用のケーキなど

2007年07月06日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 

おいしそうなケーキだけど、なんと犬用。スリードッグベーカリーにて

 軽井沢は、ペット連れの旅行者に優しい日本屈指の観光地、という評判があるらしい。雑誌のペット同伴での旅行の特集によると、那須とか伊豆とか清里に並び、軽井沢の人気が高いそうである。軽井沢は、ペット同伴客を受け入れるホスピタリティが、特に優れた宿や飲食店などが多いらしい。その一方で、飼い主が旅行先を選ぶときの基準は、「ペットが楽しく過ごせる場所」よりも、「自分が行きたい場所」のほうが圧倒的に重視されるとも。つまり、ペットに気を使うことなく、飼い主自身も好きな旅を楽しめる、という、両方の条件を満たしていることが、こうした軽井沢の評価の決め手になっているのだろう。
 軽井沢は今まで2度、地元の主催で視察をしたことがある。「自然探勝」とか「体験」とかそれぞれテーマがあったけれど、今回は「ペットと過ごす休日」。自身が今まで飼ったことがあるペットといえば、せいぜいセキセイインコぐらい。犬は自宅では飼ったことがないけれど、近所で飼ってるコリーやダックスフンドとたまに遊んでいるから、ちょっとは飼い主の気持ちが分かるだろうか?

 と若干とってつけたようなスタンスでの視察はあるが、6月下旬のとあるお昼過ぎ、曇天の軽井沢駅へと降り立った。それにしても東京から新幹線でわずか1時間半ほどと、自宅から銀座までの通勤時間程度で着いてしまうのは、何度来てもその近さに驚いてしまう。自分たちの世代の軽井沢といえば、クルマなら碓井バイパスの急登九十九折を懸命に登っていく。列車なら上野から「あさま」に乗り、横川で峠越えのための機関車を連結している間に釜飯を買って、と、難所の峠を苦労して越えてようやくたどり着く別天地の避暑地、いう印象だから、なおさらか。
 「新幹線や上信越自動車道のおかげで、首都圏から近くなったのはいいのですが、その『手軽さ』が良し悪しなところもありますね」 観光協会の方の話によると、「手軽さ」の弊害は大きくふたつあるという。
 ひとつは日帰り旅行客の増加。特に軽井沢駅の南側一帯に広がる、軽井沢プリンスホテルのアウトレットモールへ、かなりの数の客が流れてしまっている。クルマでやってきて、買い物を楽しんだらクルマで日帰り。アウトレットモールなら、ここでなくても首都圏の近場にほかにあるだろうし、何より旧軽井沢をぶらついたり、別荘地の林の中を散歩したりと、本来軽井沢らしいところを訪れずに帰ってしまうとは、せっかく来たのにもったいない気がするのだが。
 そしてもうひとつが、分譲マンションの増加。新幹線のおかげで東京の通勤圏となった軽井沢は、マンションの建築ラッシュという。とはいえ、避暑地であり別荘地である軽井沢に、あまり安っぽい建物が乱立したら、景観も町のブランドも破壊されてしまう恐れがある。建物の形状には一応、規制があり、マンション1棟で20戸以内、高さは3階建てまで、道路から建物まで一定の距離を空ける、など。今後はさらに厳しくして、都市化を防いでいくのが課題という。軽井沢までやってきて、あちこちで見かけるのが自分の町にもある集合住宅、これでは高原の避暑地で別荘ライフを満喫、なんて気分は興覚めしてしまうだろう。

 と前置きが長くなってしまったけれど、そんな諸問題に対して軽井沢の新たな魅力をアピールしていく、その素材のひとつとして検討されているのが「ペットと過ごす休日」なのである。まず最初に、湯川ふるさと公園のドッグランを見学。ドッグランとは、柵で囲ったスペースでリードをはずした犬が自由に走り回れる施設。公園整備をする際に、市民のリクエストにより設けられたそうで、芝生敷きで木々も茂り、まさに軽井沢らしい自然の中のドッグラン、といった感じだ。
 犬君の運動のあとはお食事を、という具合に、お次はレイクニュータウンの、犬と一緒に入れるレストラン「アムール」へ。15年ほど前から犬の同伴入店を可としており、日本でペットオーケーのレストランの元祖ともいわれている。入り口を入るとボトルキープならぬ、名前入りの犬用の食器がずらり重ねてあり圧巻。店内は見た感じ、テーブル席が並ぶごく普通のレストランで、犬もこのテーブル席にご主人と一緒に座って、犬用メニューの温野菜とササミを頂くのだとか。隣接のギャラリーには、犬をモチーフにしたご主人製作の木彫りがたくさん展示され、木彫りを注文した客(の犬)の写真が綴じられたたくさんのアルバムも。眺めていると、店の方々とお客の、ペットへの深い愛情が感じられてくる。

レストランアムール。ペットの写真から、右のような木彫りをご主人が彫る

 その後は、ペットと泊まれる宿を2軒視察する。1軒目の「ペンションけんけん」は10年の老舗宿である。それだけに建物は古く、客室はあちこちが傷んでいる感じがする。「かえって犬が汚したり傷つけたりしても、お客さんが気兼ねしなくていい」とオーナーが笑う。
 ペット可の宿と聞くと、一緒に泊まってペットと遊んだり楽しんだりする宿、という印象だが、ここは、ペットを預かることが主で、それによって飼い主に旅を気兼ねなく楽しんでもらう、というスタンスが強いそうである。軽井沢駅に近いせいもあり、チェックインより早くやってきて、犬を預けたら自分たちはアウトレットに直行、というお客も多いらしい。関西圏からのお客にはこの宿を拠点に数泊して、ペットは預けっぱなしにしてクルマで清里や安曇野まで広く周遊、なんてのも。
 もう1軒の「DOG LEG」は、今年のゴールデンウィークにオープンしたばかりの、新しいホテルである。「ゆっくりとくつろぐ」をコンセプトにしており、広めの客室は高い天井にゆったりしたベッド、白や黒やブラウンを貴重に部屋ごとに違う内装と、遊び心満載。ここにも芝生敷きの広々したドッグランが設けられていて、浅間山を望む客室のバルコニーから、走り回る犬たちを見下ろすことができる。巨大な暖炉が設置されたロビーにはジャズが流れ、コーヒーやお酒を楽しみながら、犬をつないで一緒にくつろぐことも。 
 このホテル、ルームチャージだけで食事は出しておらず、「旧軽井沢にはペットオーケーのいいレストランもあるし、宿から出かけていろいろな軽井沢の良さを楽しんでほしい」とご主人。ちょっと贅沢したいペット連れの旅にはおすすめの、軽井沢ライフにマッチしたホテルかも知れない。もっともあまりのハイセンス、清潔さに、ペットが粗相して汚してしまったら大変、と気をつかってしまいそうだけれど。

DOGLEGのロビーにて。犬のリードが床につなげるしくみ

 その旧軽井沢にある、ペットオーケーのカフェで、本日の視察は締めくくり。3つの施設が併設された総合ショップで、犬のトリミングスペースに、パスタなど洋食が頂ける犬同伴可のレストラン「DCAFE」、そして面白いのが「スリードッグベーカリー」。名の通り、犬用のケーキやクッキーを売っているベーカリーショップなのだ。アメリカで1989年に創業、日本では代官山と自由が丘に続く3店舗目で、店内に入ると目を引くのが、店中にあふれんばかりの犬用のグッズ。小っちゃい服がいっぱい並び、夏だからか浴衣やサングラス、帽子が各種そろっており、これをつけてさっきのドッグランあたりで遊ぶ犬の様子を想像するに、ハイソというか、何だか笑っちゃうというか。
 店の奥には、人間用のパティスリーに据えられているような立派なショーケースがあり、中にはケーキやパン、クッキーがいっぱい並んでいる。中にはHappy Birthdayと書かれた、ホールのバースデーケーキも。見るからにうまそうだが、これは犬用。グリーンはほうれん草、赤は赤カブなどで出しており、店の人によると嗅覚が強い犬に合わせて、香りを強めにしているという。糖分や塩分控えめ、添加物や保存料を入れていない、なんてところは、人間と同じ健康志向。イチゴケーキと思えば色の素は赤カブと、何だかケーキのイメージではないが、犬的にはまあ、いいんだろう。

かわいい洋服や雑貨の数々。もちろん、全部犬用

 ところで、今日巡った犬にまつわる施設を見て感じたのが、ペット同伴のお客と一般のお客を、融和させようという姿勢。「けんけん」は基本的にペット同伴専門の宿だが、少ないながらも「自宅で犬を飼えないから、こういう宿にとまって子供を犬と遊ばせたい」というお客さんもいたとか。「DOG LEG」は1階はペット同伴オーケー、2階は一般客用とどちらも利用でき、ロビーやドッグランで両者が触れ合えるようなスタイルを目指している。「DCAFE」のオープンテラスでも、犬を連れたお客と一般のお客が、ごく普通に同席してランチを楽しんでいた。
 普通、ペット同伴オーケーの店や宿は、逆に一般のお客には敬遠されがちで、「ペットに優しい」を前面に出した観光施策は、ある意味思い切りが必要となる。軽井沢もそれを今後売りにしていくのなら、両者が壁を設けることなく、一緒に楽しめることを考慮することが、ほかにない魅力になる可能性を秘めているように思える。

 で、宿泊先の「ホテルマロウド軽井沢」で頂いた、軽井沢の食材を用いたフレンチの話、といきたいところだが、長くなってしまったので次回にて。今回は、犬用のローカルごはん、てなことで?(2007年6月28日食記)