新年明けましておめでとうございます… って、もう1月も6日ではないか。去年の年末以来、ずいぶんご無沙汰(というかサボって?)してしまいました。今年も今までと変わらず、「喰って、聞いて、知る」をモットーに、全国津々浦々を、そして身近な町を、精力的に食べ歩いて、綴っていきたいと思います。個人的な抱負としては、ことしもまた1冊本を出したいな、できれば昨年の「やる気MANMAN」に続いてラジオにも出たいなあ。目指すは「食いしん坊万歳!」のレポーターか、「ニッポン旅×旅SHOW」のプロデュースか…。
ってな初夢ばなしはこのへんにして、今年も正月編のネタからいってみましょう。あ、今年も行ければ、昨年のこの時期に綴った「京王百貨店駅弁大会」も訪問してみたいと思います。これのチラシが新聞に入ってくると、今年も始まったなあって感じだなあ。
昨年の夏休み恒例家族旅行に続いて、2007年のお正月も2日~3日を修善寺で過ごすことになった。例年、正月は箱根駅伝をテレビで見ながら朝からのんびり酒飲んで、午後からそれぞれの実家を訪れてのんびり酒飲んで…、といった具合で、それをホテルに居ずっぱりで過ごせる、と感じだろうか。家内の両親、そして義姉一家も一緒で、集合は現地の夕食の時間ということで14時過ぎにクルマで自宅を出発。東名高速はガラガラで、横浜町田インターから沼津インターまではたったの1時間、修善寺まも2時間半ほどで到着した。駅伝の交通規制を避けて、昼過ぎまでテレビで駅伝を観戦してから家を出たのに、ホテルには17時頃には到着と、日頃渋滞の迷惑を被っているから年頭早々幸先のいいドライブである。
「ラフォーレ修善寺」は、修禅寺の温泉街からクルマで15分ほど離れたところにあり、ホテル棟をはじめコテージ、テニスコートや体育館にゴルフコースといった施設が、広大な丘に広がる敷地内に点在している総合リゾートホテルである。夏休みに訪れたときは東側のホテル棟を利用、同じぐらいの時刻に到着したがまだ日は高く、暑い日差しの中でセミがジャンジャン鳴いていたことを思い出す。今回は西側にある、ゴルフコースのフロントがあるゲストハウスが宿泊場所で、すでに日は沈み真っ暗、クルマを降りると足元から染みるように底冷えがしてくる。慌しくチェックインを済ませたら、食事の前に大浴場でじっくりとひとっ風呂。温まったところで、食事会場であるサンバティックホールの『日本料理 天城』へと一同は移動した。今夜の会食はここの大広間で催されることになっており、会場にはすでに何組かの宿泊客が、広い座敷のあちこちで思い思いの宴席を展開している。客層は年末年始を温泉ホテルで過ごす家族連れが中心と、正月らしくどこか華やいだムードである。
ラフォーレのホテルは修善寺のほか、那須や琵琶湖を利用したことがあり、いずれも料理の良さには定評がある。修善寺もこれで3度目で、今回の料理はお正月向けの「新春会席」。卓上にはすでに前菜と先付けが並んでいて、祝い膳らしくいつも以上に華がある。さっそく皆そろって、あけましておめでとうの乾杯。地元・駿河湾名物のサクラエビを使ったしんじょをはじめ、蟹の菊花和え、筍の土佐煮、公魚の甘露煮といった前菜は、いずれものっけからビールが進んでしまう。加えて先付けの鮑の肝煮が、思わずうなってしまうほどの味の深さ。茶色っぽく色が変わるまで醤油でしっかりと煮込んだ鮑を細かく刻み、肝をからめたもので、しゃきしゃきした身にねっとり濃厚な肝がからみ、序盤なのに日本酒が欲しくてたまらない。正月だし? ということで、地元・修善寺にある万大醸造の冷酒「あらばしり」を追加。ラベルには堂々と「伊豆の酒」とあり、魚介類が豊富なこの地にもってこいのビシッと辛口の酒である。鮑の肝煮をひとかけら口に放り込み、「あらばしり」でさっと口を注ぐと、熟成された旨味がよりいっそう膨らんでくる。
酢の物の、鯛の白板巻きを頂いてから品書きを見ると、つくりの項に「沼津市場直送の新鮮な魚介類をお楽しみください」とのみ書かれているのが、かえって期待を持たせてくれる。そのつくりは、大振りの角皿に色とりどりの刺身が5点盛られて運ばれてきた。3種ある白身を、見覚えあるものから順に頂くことに。真鯛は黒っぽい皮付きで、天然物らしくシコシコと弾力のある歯ごたえが心地よく、かみしめるごとにしっかりと味が出てくる。純白の刺身はスズキで、シャッキリした歯ごたえと瑞々しい食感が身上、磯の香りが強いのが個性的だ。と、この2つは食べなれていることもあり分かったのだが、もうひとつのがいくら考えても分からない。真鯛とスズキに比べると強い個性がない分、どこか艶のある品のよさで、極めて上品な味がする。
仲居さんをつかまえて聞いたところ、「ヤガラ」との返事にビックリ。漢字で書くと「矢柄」、つまり矢の柄のように細長い魚で、全長1メートルほどの魚体の4分の1が筒状の口という、極端なウマヅラの魚である。奇抜な見た目に対して、白身の旨さは鯛やハモやフグにも負けないとも言われるほど。相模湾や駿河湾では釣りや刺し網、定置網で漁獲されるが水揚げ量が少ないため、料理人の間では「幻の魚」と称される高級魚なのである。自分も小田原の魚市場で、トロ箱からはみ出して覗いていた長~い面を拝んだことはあるけれど、実際に食べたのはこれが初めてだ。もうひと切れじっくり頂いてみると、雑味のない旨味が際立ち、確かに白身の王様といえる風格がある。これは正月早々、貴重な食材を賞味させていただいた。
ヤガラを教えてくれた仲居さんに、ついでに赤身の2品についても説明をして頂いた。赤身のうちひとつはマグロで、何と、今話題の大間のマグロとのこと。といっても、津軽海峡の荒波の中を一本釣りで狙う、競り値百万円以上のホンマグロではなく、やや小型でちょっと下のランクのメバチマグロである。白身を頂いた後だから、こってりのった脂の甘さが感動的だ。もう一品、ほんのりピンク色のヒメダイは、鯛といっても実はスズキの仲間。ふわりと柔らかな食感が特徴で、脂がほどほどにのっているからややビンチョウマグロのトロに似ているかも。面白いのが刺身のつま。大根の千切りではなく、糸こんにゃくのようなものが敷かれている。正体はトコロテンで、素材には伊豆特産のテンクサを使用と、これまた地元の食材へのこだわりが見られる。もちろん残してはもったいないと、つままでワサビ醤油でしっかり頂いた。
煮物は目鯛のちり蒸しに豚の角煮、そして箸休めの筍吸い物でひと息ついて、最後の一品もまた、伊豆の名物魚介。半身に割った伊勢エビの登場である。品書きには「伊勢雲丹素焼き」とあり、贅沢にも伊勢エビにウニをのせてそのまま焼いてある。中ぐらいのエビは身がパンパンに詰まっていて、殻からくるりと外して口に運ぶと淡白な甘みが爽やか。そして後からウニの濃厚な甘みが追っかけてくるといった具合に、甘みの二重奏といった感じである。そのウニ以上に濃厚な旨味なのが、エビの頭に詰まったミソ。箸でちょっとなめるだけで、潮の香りが口の中いっぱいに広がり、たまらず「あらばしり」を追加。これが最後の料理なのに、ミソだけで軽く1本空いてしまうほど、日本酒との相性バッチリの肴である。
大間のマグロに希少なヤガラと、沼津魚市場直送の魚介のつくりはさすがに見事だった。一方で冒頭の鮑の肝煮といい、伊勢エビのミソといい、魚どころの魚介料理はこうした珍味もなかなかの実力。新春会席を満喫して、締めの椀物を頂いていると、子供たちは先にごちそうさま、と、店の入口にある押し花製作や塗り絵のコーナーへと遊びに行ってしまった。一年の計は元旦… の翌日となってしまったが、今年もおいしい魚を食べて、いい酒飲んで、面白いルポを書いて? もちろん家族もみんな元気で、と、充実したいい一年になりますように。(2007年1月2日食記)
ってな初夢ばなしはこのへんにして、今年も正月編のネタからいってみましょう。あ、今年も行ければ、昨年のこの時期に綴った「京王百貨店駅弁大会」も訪問してみたいと思います。これのチラシが新聞に入ってくると、今年も始まったなあって感じだなあ。
昨年の夏休み恒例家族旅行に続いて、2007年のお正月も2日~3日を修善寺で過ごすことになった。例年、正月は箱根駅伝をテレビで見ながら朝からのんびり酒飲んで、午後からそれぞれの実家を訪れてのんびり酒飲んで…、といった具合で、それをホテルに居ずっぱりで過ごせる、と感じだろうか。家内の両親、そして義姉一家も一緒で、集合は現地の夕食の時間ということで14時過ぎにクルマで自宅を出発。東名高速はガラガラで、横浜町田インターから沼津インターまではたったの1時間、修善寺まも2時間半ほどで到着した。駅伝の交通規制を避けて、昼過ぎまでテレビで駅伝を観戦してから家を出たのに、ホテルには17時頃には到着と、日頃渋滞の迷惑を被っているから年頭早々幸先のいいドライブである。
「ラフォーレ修善寺」は、修禅寺の温泉街からクルマで15分ほど離れたところにあり、ホテル棟をはじめコテージ、テニスコートや体育館にゴルフコースといった施設が、広大な丘に広がる敷地内に点在している総合リゾートホテルである。夏休みに訪れたときは東側のホテル棟を利用、同じぐらいの時刻に到着したがまだ日は高く、暑い日差しの中でセミがジャンジャン鳴いていたことを思い出す。今回は西側にある、ゴルフコースのフロントがあるゲストハウスが宿泊場所で、すでに日は沈み真っ暗、クルマを降りると足元から染みるように底冷えがしてくる。慌しくチェックインを済ませたら、食事の前に大浴場でじっくりとひとっ風呂。温まったところで、食事会場であるサンバティックホールの『日本料理 天城』へと一同は移動した。今夜の会食はここの大広間で催されることになっており、会場にはすでに何組かの宿泊客が、広い座敷のあちこちで思い思いの宴席を展開している。客層は年末年始を温泉ホテルで過ごす家族連れが中心と、正月らしくどこか華やいだムードである。
ラフォーレのホテルは修善寺のほか、那須や琵琶湖を利用したことがあり、いずれも料理の良さには定評がある。修善寺もこれで3度目で、今回の料理はお正月向けの「新春会席」。卓上にはすでに前菜と先付けが並んでいて、祝い膳らしくいつも以上に華がある。さっそく皆そろって、あけましておめでとうの乾杯。地元・駿河湾名物のサクラエビを使ったしんじょをはじめ、蟹の菊花和え、筍の土佐煮、公魚の甘露煮といった前菜は、いずれものっけからビールが進んでしまう。加えて先付けの鮑の肝煮が、思わずうなってしまうほどの味の深さ。茶色っぽく色が変わるまで醤油でしっかりと煮込んだ鮑を細かく刻み、肝をからめたもので、しゃきしゃきした身にねっとり濃厚な肝がからみ、序盤なのに日本酒が欲しくてたまらない。正月だし? ということで、地元・修善寺にある万大醸造の冷酒「あらばしり」を追加。ラベルには堂々と「伊豆の酒」とあり、魚介類が豊富なこの地にもってこいのビシッと辛口の酒である。鮑の肝煮をひとかけら口に放り込み、「あらばしり」でさっと口を注ぐと、熟成された旨味がよりいっそう膨らんでくる。
酢の物の、鯛の白板巻きを頂いてから品書きを見ると、つくりの項に「沼津市場直送の新鮮な魚介類をお楽しみください」とのみ書かれているのが、かえって期待を持たせてくれる。そのつくりは、大振りの角皿に色とりどりの刺身が5点盛られて運ばれてきた。3種ある白身を、見覚えあるものから順に頂くことに。真鯛は黒っぽい皮付きで、天然物らしくシコシコと弾力のある歯ごたえが心地よく、かみしめるごとにしっかりと味が出てくる。純白の刺身はスズキで、シャッキリした歯ごたえと瑞々しい食感が身上、磯の香りが強いのが個性的だ。と、この2つは食べなれていることもあり分かったのだが、もうひとつのがいくら考えても分からない。真鯛とスズキに比べると強い個性がない分、どこか艶のある品のよさで、極めて上品な味がする。
仲居さんをつかまえて聞いたところ、「ヤガラ」との返事にビックリ。漢字で書くと「矢柄」、つまり矢の柄のように細長い魚で、全長1メートルほどの魚体の4分の1が筒状の口という、極端なウマヅラの魚である。奇抜な見た目に対して、白身の旨さは鯛やハモやフグにも負けないとも言われるほど。相模湾や駿河湾では釣りや刺し網、定置網で漁獲されるが水揚げ量が少ないため、料理人の間では「幻の魚」と称される高級魚なのである。自分も小田原の魚市場で、トロ箱からはみ出して覗いていた長~い面を拝んだことはあるけれど、実際に食べたのはこれが初めてだ。もうひと切れじっくり頂いてみると、雑味のない旨味が際立ち、確かに白身の王様といえる風格がある。これは正月早々、貴重な食材を賞味させていただいた。
ヤガラを教えてくれた仲居さんに、ついでに赤身の2品についても説明をして頂いた。赤身のうちひとつはマグロで、何と、今話題の大間のマグロとのこと。といっても、津軽海峡の荒波の中を一本釣りで狙う、競り値百万円以上のホンマグロではなく、やや小型でちょっと下のランクのメバチマグロである。白身を頂いた後だから、こってりのった脂の甘さが感動的だ。もう一品、ほんのりピンク色のヒメダイは、鯛といっても実はスズキの仲間。ふわりと柔らかな食感が特徴で、脂がほどほどにのっているからややビンチョウマグロのトロに似ているかも。面白いのが刺身のつま。大根の千切りではなく、糸こんにゃくのようなものが敷かれている。正体はトコロテンで、素材には伊豆特産のテンクサを使用と、これまた地元の食材へのこだわりが見られる。もちろん残してはもったいないと、つままでワサビ醤油でしっかり頂いた。
煮物は目鯛のちり蒸しに豚の角煮、そして箸休めの筍吸い物でひと息ついて、最後の一品もまた、伊豆の名物魚介。半身に割った伊勢エビの登場である。品書きには「伊勢雲丹素焼き」とあり、贅沢にも伊勢エビにウニをのせてそのまま焼いてある。中ぐらいのエビは身がパンパンに詰まっていて、殻からくるりと外して口に運ぶと淡白な甘みが爽やか。そして後からウニの濃厚な甘みが追っかけてくるといった具合に、甘みの二重奏といった感じである。そのウニ以上に濃厚な旨味なのが、エビの頭に詰まったミソ。箸でちょっとなめるだけで、潮の香りが口の中いっぱいに広がり、たまらず「あらばしり」を追加。これが最後の料理なのに、ミソだけで軽く1本空いてしまうほど、日本酒との相性バッチリの肴である。
大間のマグロに希少なヤガラと、沼津魚市場直送の魚介のつくりはさすがに見事だった。一方で冒頭の鮑の肝煮といい、伊勢エビのミソといい、魚どころの魚介料理はこうした珍味もなかなかの実力。新春会席を満喫して、締めの椀物を頂いていると、子供たちは先にごちそうさま、と、店の入口にある押し花製作や塗り絵のコーナーへと遊びに行ってしまった。一年の計は元旦… の翌日となってしまったが、今年もおいしい魚を食べて、いい酒飲んで、面白いルポを書いて? もちろん家族もみんな元気で、と、充実したいい一年になりますように。(2007年1月2日食記)