ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん78…京橋 『優希寿司』で、寿司屋でお手軽忘年会

2007年01月16日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 お正月や冬休みの話を続けておきながら、いきなり去年の末の話に逆戻り。昨年末は例年になく、数多くの忘年会へと声を掛けられた。多い週には3~4回と集中し、これだけ連ちゃんだとさすがに翌日は二日酔い、日によっては翌1日使い物にならないぐらい悪酔いしたことも。仕事がらみの飲み会が多いせいもあり、年忘れというよりは、少々苦い話題も多かったからだろうか? そんな合間をぬって、気の置けない仲間とこぢんまりと飲みにいく機会に恵まれた。場所は何と、京橋の一角にある寿司屋だ。京橋とはいえ銀座の延長。銀座の寿司屋というと少々敷居が高い、値段も高いイメージがあるが、ひとり5000円もあれば、寿司も肴も酒も充分満喫できる、と仲間のひとりが大絶賛していて、当日はまだ明るいうちから気分が高まってしまう。今日のところは仕事の話題はお休み、心ゆくまで飲んで、寿司食って、そしてたわいのないお気楽な話で盛り上がることにしよう。

 そんな訳で師走のとある夕刻、仕事を早々に切り上げ、京橋交差点近くにあるお目当ての『優希寿司』へと足早に急ぐ。店は銀座から続く中央通りに面していて、地下鉄銀座線の京橋駅からも近い。階段を下って地下へと下りたところに暖簾がゆれていて、店内はカウンターのほか、テーブル席が2、3客とこぢんまりした印象。飾り気のないシンプルな内装に、かえって清潔感が感じられる。カウンター内の板前さんと、フロアの女将さんに気持ちよく迎えられ、どうぞ、と予約したテーブル席へと通された。隣ではすでに先客がひと組、忘年会らしくテーブル席で盛り上がっている様子。こちらもさっそくビールを頼み、今年もお疲れ様、の乾杯である。

 すぐに女将さんが席へやってきたので、まずは酒の肴、とつくり盛り合わせを頼もうと、今日のお勧めを尋ねてみた。するとカウンター奥のホワイトボードを指差して、「今日のお魚です。お好きなのを選んでください」。ボードに書かれた文字を見ながら好き好きに選び、あとは適当にお任せしたところ、すぐに運ばれてきた大き目の丸皿にはホンマグロの中トロ、シメサバ、アジにシマアジなど、かなりのボリュームだ。貝好きの自分が選んだのは、ホッキ貝に青柳。ホッキ貝は主に北海道で水揚げされる、大柄の二枚貝で、近頃は寿司ネタとしても知られている。身は柔らかいのに歯ごたえがシャキッとしていて、かみ締めるたびに甘みがしっかりと出てくる。一方、青柳は東京湾の木更津や富津が特産の、俗に言う「バカ貝」のこと。「舌切り」と呼ばれる具足の部分で、潮の香りが強くホッキ貝と対照的な味わいだ。ほかにもアジは脂がコッテリ、シマアジは身がシコシコと腰があり、中トロはほど良い脂ののりで甘みが抜群と、お目当ての握りへの期待をもたせてくれる。

 つくりを肴にすぐにグラスのビールが空になったので、酒の追加は焼酎に変更。そして料理の追加もどうぞ、と女将さんが運んできたのは、これまた大柄の鉢いっぱいの煮つけだ。キンメの頭の部分だけのいわゆる「アラ煮」で、皿にとると頬や胸鰭のあたりに身がたっぷりとついているのがうれしい。箸をかけると煮加減がほど良いので身離れがよく、口に運ぶと醤油とみりんの味付けが染みた、実に優しい味だ。特にうまいのが胸鰭の付け根で、しっかり動いている部分だから身が締まっていて味が深い。さらにこれはサービスよ、と芽くわいの揚げ物も登場。皮ごとカラリと仕上がっており、小振りだから塩をつけて丸ごと口へポイ、と放り込める。ネットリした食感で土の香りが強く、海の幸に対して豊かな大地の恵みも満喫、といった感じで、これは焼酎のお湯割りが進んでしまっていけない。まだ寿司にたどり着く前なのに料理の数々に感服してしまい、寿司を頂くのが楽しみなような、それまでに満腹になってしまいそうで心配なような。

 キンメの煮つけをほじり、焼酎を傾けながら酔いも回って話が盛り上がっていると、数組の客がおあいそして仕事がひと段落したらしく、板前さんが自分たちの席へと顔を出した。お得意様? である仲間のひとりと軽く挨拶を交わすと、グラスを片手に自分たちの席に落ち着き、談笑の輪へと加わることに。さっきのつくりの話やら、煮付けのキンメの話やら、魚談義になるとさすが、板前さんの話にも力が入る。キンメはこの近辺だと、伊豆半島の稲取温泉で水揚げされるものが有名ですね、と話を向けると、ここで使っているキンメは銚子で水揚げされたもの、との返事が返ってきた。「稲取はキンメの本場だけど、使ってみたら脂ののりがイマイチ。また千葉の勝浦で揚がったのがいいと聞いてこちらも使ってみたけど、身がパサパサ」。銚子のは身のつき方も脂ののり方もひと味ちがう、とこだわりを見せる。この店を開く前は、六本木の名店・松葉寿司や、全国チェーンの寿司田などで修行していたそうで、何と寿司田のニューヨーク店で働いていたこともあるとか。アボガドやマヨネーズを使った「カリフォルニアロール」を巻いてたよ、郷ひろみと二谷友里恵夫妻が来店したこともあったなあ、などと、修業時代のこぼれ話で座が盛り上がっていく。

 と、寿司の話題が出たところで、我々もそろそろお待ち兼ねの寿司を頂きたくなった。板前さんに今日のお勧めのネタをひとつ選んでもらうと、挙がったのはやはり「銚子のキンメ」。そこでキンメを全員1カンずつ、ほかはつくりの時と同様、各々が好みの握りを注文することにした。自分はつくりでうまかったアジのほか、またもや貝尽くしにしてツブ貝にホッキ貝、といきたいところがホッキはもう品切れで、代わりに青柳に変更。するとしばらくして、酢飯がやや少な目の上品な握りが、角皿に行儀よく並んで運ばれてきた。まずは板前さんおすすめのキンメから頂くことに。タネはほんのりピンク色をしており、口に運ぶとフワリと柔らか。脂は見た目ほどきつくなく、くどさがないギリギリのバランスの甘さが絶妙である。煮つけで頂くよりさっぱりしていて、これはこれで後を引く。

 キンメの後はアジ、青柳とどんどん平らげ、続いてはお好みで頼んだツブ貝だ。身が厚めでゴリゴリとした歯ごたえが楽しめ、鮮烈な潮の香りがまさに貝の味の醍醐味。キンメと対照的な、野趣あふれる味わいである。さらに、サービスでつけてもらったメジマグロに鯨の握りにも手を伸ばす。メジマグロはタネが大きめに切ってあり、赤身なのに脂ののりがトロリとなかなか。そして珍しい鯨の握りは、獣肉の風味が牛肉のタタキや馬刺しを想像させる、どっしりと食べ応えがある握りだ。この日は寿司は5カン程度だったが、握りの前に様々な料理を頂いたので、お腹のほうはこれにて充分満足。ホワイトボードにあるちょっと気になる魚は、また次回に来店したときのお楽しみに、ということにしよう。

 ちなみにこの日のお勘定は、やはりひとり5000円前後。あまりの安さと旨さに自分だけ楽しんだのが申し訳なくなり、家内にもお土産の寿司折を注文、好物であるイクラの軍艦巻きを忘れずに入れてもらった。イクラといえばこの店、軍艦巻きの「こぼれイクラ」、つまり文字通り、皿にこぼれおちるほどに特盛りのイクラをのせたのが名物だそう。次回に来るときはスタートから寿司にして、ご自慢のタネをあれこれとしっかり味わってみよう。仲間同士で気楽な話で盛り上がり、うまい肴に寿司を満喫したおかげで、今日のところは悪酔いも酩酊もすることなく無事終了。寿司折を片手でぶら下げて地下鉄の駅へふらふらと向かう様子は、まさにニッポンの酔っ払いおとうさんのよう? (2006年12月18日食記)