ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん75…ラフォーレ修善寺 『日本料理四方山』の、猪鍋に沼津魚市場の魚介

2007年01月10日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 リゾートホテル「ラフォーレ修善寺」で過ごしたお正月も、いよいよ夕食を頂いて帰るのみとなった。イベント広場で餅つきやビンゴゲームを楽しみ、温泉プールの「ぷーろ」で子供たちを遊ばせ、冷えた体を隣接の温泉浴場で温めてほっとひと息。1日目の夜のメイン料理が海鮮だったのに対し、今日のメイン料理は猪鍋の予定という。そういえば今年は亥年、猪鍋を頂いて今年も新春から猪突猛進、と縁起をかついでみるのもいいかもしれない。今夜の食事会場は昨日泊まったゲストハウスと別棟の、ホテル棟2階にある日本料理『四方山』という食事処。座敷の個室席にみんなで集まり、帰る時間が遅くならないように17時半からと早めにお疲れ様、の乾杯である。

 この日も料理は「四方山会席料理 鼓見」と称する会席で、メインの鍋料理にいたるまでにやはり海鮮料理がいくつか並ぶ。先付け、前菜の盛り合わせと続き、酢の物は鮟鱇の肝豆腐、いわゆるアンキモである。小鉢には丸々大きなアンキモがゴロリと、昨日の鮑の肝煮といい、「肝モノ」の肴はやはり日本酒が欲しくなってしまう。帰宅前の名残酒、とばかり、昨晩に続いて修善寺・万大醸造の地酒「あらばしり」を、この日は燗酒で注文。濃厚なアンキモが柚子ポン酢仕立てになっているため、意外に淡白な味わいで食べやすい。「あらばしり」の杯をぐっとやって口をすすぐと、ほんのりと旨味が広がってなかなか。この後さらに、沼津魚市場直送の魚介や、相模湾や駿河湾でとれる地魚を使った料理が数品続いていく。

 まずは昨晩に続いて、沼津港魚市場直送の魚介を使ったつくりから。5点盛りの内訳はマグロにホタテ、ボタンエビとヤリイカまでは分かったが、今日もまた白身のもう1種が分からない。仲居さんに尋ねたところ「スギ」との返事が返ってきた。スズキの仲間で、天然物の漁獲は少ないが養殖もされており、一般的には練り物の素材として位置づけられている。白身の味はブリやカンパチに近く、沖縄では「黒カンパチ」、また一部では「トロカンパチ」とも称されるほど。回転寿司でも、これらの魚のいわゆる「代用魚」として出回っているという。確かに、ブリの脂ののりをやや控えたような味わいで、白身ならではのほのかな旨味を楽しむ、といった感じ。昨日のヤガラに続き、またもや珍しいつくりを頂くこととなった。

 仲居さんによると、このホテルでは沼津港魚市場をはじめ、伊豆半島沿岸の様々な漁港で揚がる魚介を、旬や水揚げに応じて臨機応変に使っているという。「使っているのは主に、沼津魚市場から仕入れた魚介。魚によっては、よその土地から市場に入ってきたのも使います」。ちなみに煮付けに使っている赤い魚は、駿河湾でとれたカサゴだ。カサゴは丸ごと唐揚げにして出されることが多く、煮付けにしても白身がたっぷり、甘辛い煮汁がよく染みてホクホクとうまい。身離れがよく、中骨についた身も頭の中も、ばらしてすっかり頂いてしまった。また唐揚げのメイタガレイは西伊豆の戸田でとれたもので、ゼラチン質のねっとりした食感が独特。こちらは丸ごと食べられ、かみしめるたびにじっくりといい味が出てくる。

 カサゴの頭をつついているうちに、先ほど火をつけた小鍋がくつくつと煮えてきて、ちょうど猪鍋が食べごろになった様子。さっき火をつける前は肉が見事な紅色で、その花に似ているため別名「ぼたん鍋」と称される由縁である。これを白菜、水菜、シイタケ、エノキなど、天城山の各種野菜と一緒に、信州味噌で濃い目の味付けで煮込んだもので、見るからに温まりそうだ。鍋は熱いうちに、とほかの料理をひと休みして、まずは肉からひと切れ頂く。見た目は固そうだが歯ごたえはほど良く、獣肉独特のくせがなくなかなか食べやすい。味噌味がよく染みた野菜やキノコと一緒に頂くと、まさに山の幸満喫、といった気分か。食べ進めているとさっきの温泉での温もりも戻ってきたようで、次第に額が汗ばんできた。

 そもそも伊豆半島の天城山周辺は、古くから猪猟が盛んな地域で、現在も地元の猟友会を中心に毎年11月から3ヶ月ほどの猟期を設けて、猪猟が行われている。地元では「天城の猪」と称され、兵庫県の丹波篠山、岐阜県の郡上と並んで珍重されており、主に地元の料亭や旅館、民宿に卸されている。しかし野生の猪は希少の上に値段もかなり高いため、店によってはよその地域のものや養殖物、中には外国産の猪を出しているところもあるのだとか。そして猪肉の特徴は何といっても、低脂肪低カロリーの健康食材であること。ほかの獣肉に比べて脂身が少ない分、肉の味がしっかりと濃く、煮込むほど柔らかくかみ締めるたびに旨味が出てくる。寒い屋外から帰ってきたら温泉で温まり、風呂上がりには猪鍋に熱燗でさらに温まり、が、修善寺や湯ヶ島など中伊豆の冬の旅の醍醐味なのだろう。

 熱々の鍋を平らげて、締めくくりのご飯は釜飯だ。これまた伊豆の名物である、キンメダイのほぐし身がたっぷりの釜飯である。キンメダイは東伊豆の稲取漁港で水揚げされるものが代表的で、特に東伊豆で揚がったものが脂がよくのり、魚体の赤色が鮮やかという説もある。実際には伊豆半島の沿岸で広く水揚げされる魚で、時期によっては南伊豆の下田や西伊豆の土肥、戸田のものも身の味がいいのだとか。醤油で甘辛く煮魚にするほか、身肉まで脂が回っているため刺身にすると絶品、さらに生の切り身をさっと湯にくぐらせていただく「キンメのしゃぶしゃぶ」なる贅沢な料理もあるのだとか。そんな旨味たっぷりの魚を、釜飯の具に使っているのだから、飯粒のひとつひとつにキンメの味がしっかりとしみこんでいて、これがまたうまい。釜飯にすることで余計な水分がとび、旨味がさらに凝縮された感じ。最後にご飯物をしっかりと頂き、お腹も充分に落ち着いた。

 伊豆の海と山の味覚を存分に楽しみ、あとはもうひと風呂浴びて部屋でゆっくり、といきたいところだが、明日所用があるため我が家だけこれにて失礼させて頂く。それにしても1泊2日の旅は、中日がないからあっという間。フロントに問い合わせたところによると、のんびり食事したためUターンラッシュのピークは過ぎているそうで、この分だと2時間もあれば帰宅できそう。クルマのため、ここではあまりじっくりと酒は飲めなかったけれど、自宅に帰ったら蒲鉾と数の子を肴に、正月の名残酒を楽しむとしようか。(2007年1月3日食記)