ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん56…高知・土佐久礼 『田中鮮魚店』の、一本釣りのカツオにハガツオ

2007年01月27日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 カツオの一本釣り漁で日本屈指の水揚げを誇る、高知県の土佐久礼を訪れ、町の中ほどにある『久礼大正町市場』でおみやげにカツオを物色。通りの外れにある『田中鮮魚店』の店頭には、地物のカツオや小柄なハガツオをはじめ、丸一本のままや刺身用のさく、たたき用のわらやきのさく、さらに生節に角煮など、様々な品々が揃っている。生節を3本買ったところで、おばちゃんとあれこれカツオについての話をしていたのを聞いていたらしく、奥から店の親父さんが登場。「カツオのことなら俺に聞け」とばかり、店頭のベンチに腰掛けて久礼のカツオのレクチャーをして頂くこととなった。

 土佐久礼の漁業は、カツオ漁で成り立っているといっても過言ではない。土佐久礼の沿岸には、カツオが北上する黒潮が流れているため、漁場である土佐湾沖合までは船で1〜3時間ぐらいと近く、カツオ漁にうってつけの立地にある。「土佐久礼のカツオは、漁場が近いから鮮度がいい」と親父さんは胸を張る。カツオといえばフィリピン近海を皮切りに、沖縄沖から鹿児島・宮崎沿岸、さらに土佐沖から和歌山沖、静岡沖を経て、三陸沖へ至った後に南下する回遊魚。土地土地によって、旬の時期が様々なことで知られている。ちなみに土佐沖のカツオは、3月に入った頃に黒潮にのって北上してきて、4月上旬から7月にかけてが最盛期だ。この時期には小型〜中型船を中心とする船団が、夜中の3時ごろにカツオの群れに向かって出漁し、その日の夕方には帰港して水揚げするため港は大賑わい。また沖泊まりで漁を続けるのではなく日戻り漁のため、鮮度はさらによくなるのだという。

 そして土佐久礼のカツオといえば、俗に「一本釣り」と呼ばれる漁法が大きな特徴だろう。ひと言で言うと、竿で一尾一尾釣り上げる方法。船団が群れを見つけたら散水器で海面に水をまき、そのさざなみを小魚の群れと間違えて寄ってきたカツオを、疑似餌をつけた針でどんどん釣り上げていく。カツオはほか、巻き網漁で漁獲することも多いが、巻き網漁は群れごと囲い込んで網ごとひいてくるから、カツオ同士が押し合いへしあいで身がくずれてしまう。都会のスーパーなどで安く流通するカツオは、巻き網漁のがほとんどらしく、「あれは身がつぶれてグズグズ。土佐久礼のカツオはすべて一本釣りで、身がサクッとしている」のだとか。とはいえ親父さんによると、カツオは十人十色ならぬ「10本10色」で、同じ漁場でとっても群れの状態や、とったあとの処理(氷の効かせ方)によって、身の状態や味が全然違うという。いわば割ってみる(おろす)まで分からないが、「しっかりと見ればいいカツオを選ることができるはず。どのように選んで、お客に提供するかが大事」。日夜、選別方法を磨くことの繰り返しと、言葉にも力が入る。

 そんな訳で、8月のこの時期にはカツオは最盛期をやや過ぎ、またマグロの漁期にはやや早い。この時期盛んなのが、クロマグロの幼魚を狙った漁である。体長50センチほどの「マヨコ」ほか、それより若い20センチぐらいの「シンコ」、さらにカツオやスマソーダ(ヒラソーダガツオ)のシンコも狙うという。シンコは成魚に比べて独特の甘味があり、この時期はメジカ(マルソーダガツオ)のシンコが特に味がいいなど、漁師の間では珍重されている。夏の時期はカツオ漁の代わりに、シンコを専門に狙う漁師もいるほどとか。ただしシンコは傷みやすく足が早いため、釣ったその日にしか食べられない貴重品。だから一本釣りで釣り上げたらすぐに氷をあてるなど、傷まないように取り扱うことが肝心、と親父さん。カツオの旬が過ぎた後の、夏の土佐久礼の代表的な地魚、といったところだろうか。

 せっかくだからおすすめのシンコを頂いていこう、と、親父さんに話の礼を述べて再び店頭へ顔を出したが、この日は台風の影響で漁にはほとんど出ておらず、あいにく店頭にも並んでいない。少々がっかりしつつ、おばちゃんに勧められて店の向かいの休憩コーナーでお茶を頂いていると、気の毒に思ったのか何と、刺身の皿を持ってきてくれた。アジとハガツオとのことで、値段を聞いたら「サービスよ」。ハガツオは店の店頭にも並んでいて、カツオよりも魚体が細長く縞模様もちょっと異なる外観が印象的。歯が強いためにその名が付いたとされ、漢字では「歯鰹」と表すとか。これもシンコ同様、鮮度落ちが激しいため、刺身は水揚げ地でしか味わえない貴重な品だ。淡いピンク色をした身をひと切れ頂くと、カツオよりも身に水分が多いようで、フワフワ、トロリと柔らか。ほんのりと甘味があり、くせがなく瑞々しいからなかなか後をひく。

 そんなこんなで、この市場で買い物やら試食? やらでのんびりしているうちに、そろそろ高知へと向かう特急列車の出発時刻が迫ってきた。おばちゃんがさらにサービス、と差し入れてくれた文旦(夏みかんのような柑橘類)のアイスを慌しく平らげ、さっき買った生節の袋をバッグに詰め込んだら、再び自転車をこいで駅へと急ぐ。瀬戸内から四国の沿岸の漁港の町を巡る旅も、今夜の高知でいよいよおしまい。名残の酒は土佐の「酔鯨」に「司牡丹」、肴はカツオをはじめとする土佐の味覚の数々と、暑く熱い南国高知の夜を、存分に楽しむとしよう。(200年8月6日食記)