ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん67…新潟・上越 『バッカス街道』の、岩の原ワインに新井地ビール

2006年10月24日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 本筋の「バッカス街道」の旅は、まずは越後杜氏の里・三和村にある「米と酒の謎蔵」からスタートとなった。怪しい名前だが、ここはいわば日本酒の資料館である。稲作と酒造の歴史や技術を紹介した展示をざっと眺めたら、早々に勉強は切り上げて、県内外の224種の地酒が飲める、お目当ての試飲コーナーへと向かう。高価で普段あまり口にできない銘柄を中心に、新潟の地酒をどんどんいただく。中でも「越の寒梅」、「峰の白梅」と並び称される、新潟の銘酒「三梅」のひとつ「雪中梅」は、この三和村に蔵元がある地酒だ。試飲コーナーでも、一番の人気とか。

 鮎正宗酒造に続いて、ここでも結構な量の日本酒を頂いたら、次はワインの登場である。上越市にある「岩の原葡萄園」へはクルマで10分と、酔いの覚める間もない。ここは23ヘクタールの敷地にはブドウ畑と、醸造施設にワイン貯蔵用の石蔵、そして売店やレストランなどが点在する、広大なブドウ園だ。受付で頂いたパンフレットによれば、創設者の川上善兵衛氏は「日本のワイン葡萄の父」と呼ばれ、欧米からブドウの苗木を何種類も取り寄せて、かけ合わせて日本に合う種を作り出すなど、この地のワイン造りに並々ならぬ情熱を注いだ人物とある。このワイナリーは、ワインの自家栽培・自家醸造では山梨よりも歴史が古く、日本酒どころの新潟にあって、意外にも日本の本格的ワイン発祥の地なのである。

 ブドウ園の案内係に従って、まずワインを貯蔵する石蔵へと足を運ぶ。薄暗くひんやりした蔵の中には、熟成中のワインが入った木の樽が、いくつも並んでいるのが見える。中の温度は夏でも20度、冬は8度と、ブドウの発酵に適した低温に保たれているとのこと。機械による空調は一切使わず、室内に生息するカビが、温度と湿度を保持する仕組みになっている。かつては、冬の間に降った雪を雪室に貯えておいて、夏に取り出して蔵の冷却に使っていたという。この石蔵こそ、当時の技術でワインづくりに適した低温の環境を整えた、川上善兵衛氏の努力の賜物である。

 売店でいただいたのは「ペルレ」という、まだ発酵途中のワインで。炭酸がきつく、発泡ワインのようだが、まだ発酵の途中だからかブドウの味が強い。普通のワインよりも、フルーティーな味わいだ。白ワインに仕上げる場合、このペルレをさらに1ヶ月、赤ワインだとさらに2年寝かせるという。ブドウ園限定ラベルのワインを、おみやげに赤白それぞれ1本買って駐車場へと戻る。ここはワインの醸造所なのに、ドライブの客も結構多いようで、中には助手席に赤い顔の人が座っているクルマもちらほら。

 日本酒とワインをしこたま飲んだ挙げ句、バッカス街道最後の一杯は地ビールだから、しっかりチャンポンになってしまった。新井市へと引き返して、スキー場に隣接するレストラン「フォレストサイドヒル」へ。隣接する「新井ビール工場」で醸造した、地ビールの「新井ビール」を頂いた。ここのビールはベルギーテイストで、現地から直輸入したモルトとホップを原料に、仕込みには地元・新井の水を使っているのがポイントだ。焙煎麦芽を使った香ばしい味わいの「ダーク」、焙煎しないピルスナーモルトを使った「ブロンド」、発泡酒で、甘く苦みのない「ブロンシェ」と、三種三様の飲み口と味を楽しみながら、バッカス街道制覇の祝杯とした。

 街道を巡っていて出会ったいずれの酒も、仕込みに使う水に、米やブドウといった原料、そして雪国ならではの気候と、新潟の豊穣な風土に根付たものばかり。そう考えれば、バッカス街道も観光街道とはいえ、新潟の酒文化を結んだ立派な「食の街道」である。そういえば、ビールのつまみのピリッと辛いソーセージも、チョリソかと思ったら唐辛子を塩蔵した新井名物・かんずり入りのソーセージだ。つまみもしっかり、新潟の風土に根付いているという訳か。(10月上旬食記)