ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん67…銀座 『らーめんむつみ家』の、期間限定黒みそラーメン

2006年10月07日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 それにしても、昨晩(金曜)の暴風雨はすごかった。こんな日に、小田原の先の根府川近くの食事処でちょっとした会があり、夕方に東京発の東海道線で出かけてきました。途中、風の影響で何度も列車が止まり、何とか小田原についてクルマで店へ向かったはいいけれど、これが相模湾に面した真鶴道路沿い。刺し網でかかった朝とれのアンコウ鍋に舌鼓はよかったけれど、大風に店が大波でもかぶったらどうなるだろう、と気が気ではありませんでした。幸い、夜遅くには風も雨もやみ、ついでに1泊して今朝は小田原の魚市場、そして朝3時から行列が出来るという名物・朝市を見物してきました。横浜に住んでいると小田原みたいな近場には泊まる事ないので、なかなか新鮮でしたが(箱根や伊豆も、泊まる事があまりない…)。

で、昨晩は投稿休み。とり急ぎ、本日の投稿はまた日々の食からラーメンですが、今月は各地の魚ネタ強化月間にしたいとは思っております。 



 日本の国民食であるラーメンは、立派な郷土料理でもある、という説がある。地域の日常食であり、ハレの席でも出されるという喜多方ラーメン。市場で働く人向けに早くゆであがる細麺、そして替え玉が特徴の長浜ラーメン。酷暑の盆地で生み出された、氷をゴロゴロ浮かべた山形の冷やしラーメンなどなど。その土地の風土に根ざし、食文化にかかわりの深いラーメンは、見たところ結構あるようだ。近頃はこだわり職人オリジナルのラーメンが話題を呼んでいるようだけれど、愛着がわくのは「ご当人ラーメン」よりもやはり「ご当地ラーメン」。ラーメンをテーマにしたフードテーマパークが全国で人気を呼んでいるのも、そんな「おらが町のラーメン」の魅力あふれる個性がウケているのではないだろうか。

 そして北海道のご当地ラーメンといえば、歴史の面でも知名度でも味噌ラーメンが筆頭に上げられる。最近になって函館の塩ラーメン、旭川の醤油ラーメンが話題となる中、熱々の味噌スープにコーンなど野菜をたっぷり載せたラーメンは、古くからの定番ラーメンでありほっとする味わいだ。その北海道味噌ラーメンを看板に、近頃首都圏をはじめ全国へチェーン展開をしているのが、『らーめんむつみ家』。東京にもすでに15軒ほど展開しており、仕事場に近い銀座のはずれにも店舗を構えている。銀座の外れ、といってもほとんと八丁堀で、先日遅い昼食をとろうとぶらりと暖簾をくぐってみたのだった。

 テーブル席について壁に掲示されたメニューを見たところ、さすがに味噌ラーメンのメニューが豊富なよう。ニンニクとラードがマッチした赤みそらーめんと、野菜の甘みが濃厚に出た白みそらーめんが週替わりで出されるほか、キムチだれを加えたみそキムチらーめん、酒かす入りの濃厚みそらーめんなんて変わり味噌ラーメンも。中でも期間限定の黒みそラーメンは、2種類の味噌を合わせ、2年間かけてじっくり熟成した黒味噌を使っていると品書きにあり、「限定」の文字にも誘われてこれを試してみることにした。味噌ラーメンのほかにもアスパラやコーン、玉ネギ、バターに牛乳を使った「北海道スペシャルラーメン北の恵み」、そして何とジンギスカンラーメンなど、「新世代北海道ラーメン」を標榜するだけに、なかなか個性的なご当地メニューが揃っているようである。

 「むつみ家」も、かつて神楽坂の「天下一品」を書いたときに紹介した、ラーメン職人をとりあげたマンガ「一杯の魂」で紹介されている一軒である。今では全国で100店舗を超えるラーメンのチェーンをベースに、ジンギスカンや餃子、クレープなど様々な業態の店を経営する総合外食グループだが、もとは社長の竹麓輔氏が、北海道の月形町のログハウスで始めた店がルーツである。チェーンでありながらも独自のスープの味にはこだわりを見せ、創業店舗があった月形と当別にあるスープ工房で、全国全店舗で使用するスープをていねいに仕込んでいるという。工場にずらりと並ぶ大鍋で、豚と鶏に野菜、昆布、煮干しを加えて直火で炊きあげること10時間あまり。豚のゼラチンで膜が出るぐらいまで、しっかりとしたコクが身上だ。スープだけでなく、中細で水分が多めの黄色い麺も、札幌ラーメンならではの特徴。中には有機農法の北海道産はるゆたか小麦を使った「春豊ラーメン」という特別バージョンもあり、腰が強めのツルツルの麺が「通」好みのメニューとなっているとか。

 しばらくして運ばれてきたラーメンは、予想はしていたがスープの色が濃い茶色をしている。丼を覗くとドロッとした感じで、学生の頃札幌の人気店で食べた味噌ラーメンは、確かにこんな黒に近いこげ茶色をしていたのを思い出す。だから黄色い中太麺も、スープに染まって見た目が真っ黒。追加した味玉も、白身黄身とも真っ茶色だ。さらにスープにしっかり絡めてから、麺をひとすすり。食べてみれば見た目ほど辛くなく、コクの中にほんのりした甘みと香りが漂ってくる。長期間寝かせたおかげで味噌独特の角が取れた丸い旨みで、刺激的な辛さも渋みもない優しい味。味噌ラーメンは北海道特有の寒さの中、体が温まるようつくられたもので、確かにこれは厳しい冬の寒さの中で食べると味わいひとしお、といった感じだろう。具はたっぷりのモヤシ、そしてチャーシューはビール酵母を使って柔らかく仕上げたこだわりの品。薄いが腰があり、仕上げに焙煎しているから香ばしさにあふれ、まるで上出来のベーコンのようである。一緒に頼んだチャーシュー丼にはトロトロの皮付きトンポーローがのっていて、チャーシューの食感と対称的だ。

 北海道ラーメンのチェーン・フランチャイズといえば、かつて子供の頃に食べた赤い看板の「どさん娘」を思い出す。同じ味噌ラーメンでも、当時のラーメンに比べてずいぶん洗練された味になったなあ、と、真っ黒でコクと深みのあるスープを丼から飲み干しながら思い返す。まだ秋口で日差しはやや強く、体が温まるというかすっかり汗だくになり、額の汗をぬぐって、ごちそうさま。次回に来るときには、また違ったタイプの味噌ラーメンにチャレンジしてみたいが、週替わりの赤味噌にあたるか、白味噌になるか、ちょっとしたお楽しみである。(2006年9月20日食記)