ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん39…小田原 『小田原漁港』で、定置網でとれた相模湾の地魚を見物

2006年10月21日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 低気圧の接近で大荒れとなった小田原の夜から一夜明けると、朝から澄みきった青空が広がっている。昨晩、会食の席で地元の漁師の方が話していたように、この分なら普通に漁が行われ、市場も水揚げや競りで賑わっているのは間違いないだろう。釣船で沖合まで釣行に出かける一行のクルマに同乗して、小田原市街から城下町を抜けて海沿いの道へ。昨日、会食の会場である店へ行く際に通ったときは日が暮れていたので真っ暗闇だったが、今日はベタ凪の穏やかな海が、はるか水平線まで広がっている。西湘バイパスに沿ってしばらく走ると、沿道は次第にトラックやフォークリフトが行き交い賑やかに。魚料理の店や海産物の直売店、釣り船の船宿も並び、漁港らしい雰囲気が漂ってくる。

 小田原市街からクルマで15分ほどで到着した『小田原漁港』は、早川の河口右岸に位置する、相模湾西部の漁業の拠点だ。相模湾でもっとも盛んな定置網漁をはじめ、刺し網、一本釣りの漁船を中心に、県内外の漁船が水揚げにやってきて未明から賑わいを見せている。釣り船に乗るため船宿へ向かう一行と別れ、港を囲む臨港道路からスロープを降りていくと、製氷工場の先に漁船が接岸しているのが見える。定置網漁は夜中の2時に出漁・網揚げをして、未明の4時半ごろから小田原漁港に帰港して水揚げ、6時半からの競りに備えるため、7時前の今は接岸、水揚げをしている船は数えるほど。ちょうど漁から帰港した漁船が魚槽から魚が運び出しているのを見かけ、行ってみると船の周囲には魚が詰まったスチロール箱がいくつも並んでいた。通年漁獲される、腹に斑点があるゴマサバをはじめ、箱いっぱいにびっしり入ったイワシ、今が旬のカマスや緑ががった魚体に黄色いラインの小イサキあたりは、定置網でとれる魚種の中でも常に上位を占める漁獲だ。大柄で立派なカンパチも、2本仲良く並んで箱に収まっている。

 魚を眺めながら水揚げ岸壁をそのまま進んでいくと、漁港に隣接する卸売市場へと続いていく。相模湾など県内をはじめ県外でも水揚された生鮮魚介を中心に、1日の取扱量は50トン、取り扱い金額は3500万円。鮮魚のほか水産加工品や冷凍品も含め、流通する品々のほとんどが小田原市を中心とした周辺地域で消費される、地元に密着した生活市場なのである。場内は区域によって扱う品が決められており、その日に小田原漁港で水揚された魚介を扱う2番売り場では、水揚げ後に選別にかけられた漁獲が運び込まれ、入ってきた順に競りにかけられる。突然鐘が鳴り響き、放送で競りの開始が案内されたので岸壁そばの活魚の競りへと向かうと、ずらりと並ぶ水槽のへりに立った競り人を囲むように、仲買人が10名ほど集まっている。水槽の中にはカワハギ、イセエビ、ヒラメ、大きな黒鯛などが悠々と泳ぎ、買い手を待っている様子。遠巻きに様子を伺っていると、競り人のがなり声とともに分かりづらい符丁が飛び交うのではなく、魚種や漁場、量などを読み上げている。集中して聞いていれば、言っていることがちょっと分かるかも。

 この時間では競りはほぼ終わっていて、場内は荷分けや運搬の真っ最中である。あちこちにスチロール箱入りの魚が並べて積み上げられ、トラックで運び出される準備万端整った、といった感じだ。箱を覗いて歩いていると、先ほど水揚げの際に見かけた大衆魚以外にも、変わった容姿の魚や珍しい魚も見かけて面白い。深紅で大柄のキンメダイ、おでこがでっぱったシイラ、面長なウマヅラハギ、白黒の縦じまの小イシダイなど。そして最近話題になっている高級魚のヤガラも、真っ赤で細長~い顔を箱からグイッとはみだしている様子がユーモラスだ。

 それにしても、さっきから場内を走るフォークリフトや軽トラックの勢いのものすごいこと。中にはゴマサバを満載した大コンテナを持ち上げたフォークリフトが、えらいスピードで疾走していくなど、地方の魚市場と比べて勢いがあるというか、テンポが速いというか。小田原は首都圏に位置するからか、漁家の家業の世襲が比較的なされているらしく、この市場で働く人も漁師も若い人が多いような気がする。一方で、地方の漁港の持つ素朴でのどかな雰囲気があまり感じられず、少々ビジネスライクなムードでもある。だから見物者は少々お邪魔物らしく、真剣な様子で行き交う仲買人や漁師に向かって、魚についてあれこれ質問できる雰囲気でないのがちょっと残念か。

 小一時間歩き回ったらもう8時前、場内の取引はほぼ終わってしまった様子で、すでに片づけを始めている一角も見られる。こちらもそろそろ引き上げて遅めの朝ごはんといきたい… という訳で、市場食堂で朝ごはん編を次回にて。(2006年10月7日食記)