ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん40…小田原漁港 『魚市場食堂』の、地アジのたたきつき上さしみ定食

2006年10月23日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 早朝から行われている競りは終わり、競り落とされた品の積み出し作業も山を越えたらしく、小田原漁港に隣接する卸売市場は次第に落ち着きを取り戻しつつある。取引が佳境だった7時頃に比べて人の往来も減り、すでに片づけを始めている一角もあるよう。自分も市場散策をこのあたりで終了、とほっとした瞬間、朝食を食べずに歩き回っていたおかげで無性に腹が減ってきた。市場に来る際、周辺に「地魚料理」の看板を掲げた料理屋をいくつも見かけたのを思い出し、漁港のそばの魚料理屋で朝ごはんにしようか。市場を後にしようとしたところ、場内の大きな柱のそばに「魚市場食堂2階」との案内板を発見。市場で働く人向けの食堂かと思ったら一般の利用もできるらしく、「お気軽にどうぞ」の文字が誘ってくれる。

 案内板のすぐそばに2階に向かって伸びる小さな螺旋階段があり、薄暗い中を気をつけて登ると、場内を見下ろす回廊へと出た。まだスチロール箱が積まれた一角も見える場内を上から眺めつつ回廊を進んだところに、その名も『魚市場食堂』があった。回廊に面したガラス窓から中を伺ってみると、テーブルがずらり並ぶ店内には市場で働いているらしい客がちらほら、盆にのった料理に箸をのばしながら新聞を広げているのが見える。セルフサービス式らしく、料理を受け取るカウンターに数人の客が並び、できあがりを待っている様子。そして受け取り口の上や壁に手書きのメニュー、そして横の黒板には「本日のおすすめ品」と書かれた魚メニューがズラリ。相模湾アジたたき定食、カマスフライ、相模湾金目の煮魚定食、イナダ刺身…。市場の職員御用達の雰囲気に入るのをちょっと躊躇したが、品書きを読んでいるともうたまらず、ガラリと戸を開けて中へと飛び込むことに。

 小田原漁港は相模湾の定置網漁で揚がった漁獲の水揚げが中心なだけに、卸売市場にあるここの料理ももちろん、地魚料理のオンパレードだ。とれたて、新鮮な地魚料理が手軽な値段で味わえるとあり、この食堂は市場関係者以外にも結構知られており、平日の昼時は地元客で、休日になると伊豆や箱根へ向かう途中に立ち寄っていく観光客で賑わうという。刺身や焼魚、煮魚、フライなどの定食ほか、地魚の一品料理も種類豊富で、相模湾アジのたたき、キンメダイの煮つけ、ほか「地イカフライ」「地アジフライ」と頭に「地」とついた料理が食欲をそそる。そして卓上のメニューには大きく「朝からお刺身!」との文字、市場で頂くならやはり、鮮度抜群の刺身だ。メニューによると刺身丼や普通の刺身定食のほか、「上さしみ定食」なるものがあり、ちょっと値が張るけれど「地魚ほか」との添え書きにひかれてしまう。券売機で食券を買い、カウンターに出して引き換えに番号札をもらい、窓際のテーブル席へと落ち着いた。窓際、といっても漁港や海が見えるのではなく、景色は回廊越しの場内。時折、働く人の声も響いてくる。

 ややたってから手持ちの札の番号が呼ばれ、受け取り口にとりにいくと、4種の刺身が盛られた皿にご飯、味噌汁、小鉢がのった盆が手渡された。刺身はマグロ、ホタテ、イナダに、目玉は何といっても大盛りの地アジたたきだ。ワサビと別におろしショウガの小皿が添えられていて、醤油で溶いたらさっそくたたきを箸でガバッと漬けて、ご飯といっしょにバクッと豪快に頂く。朝とれの地アジだけあり、鮮度がいいからサクサクとした歯ごたえに舌ざわりがツルツル、雑味のない爽やかな甘みが後からジワリ。アジは相模湾の定置網漁の漁獲量ナンバーワンの、まさに相模湾を代表する地魚。たたきひと箸でご飯がザクザクとかき込める、飯のおかずに無敵の刺身だ。ほかにも脂がトロリとのったイナダ、ふわりと柔らかな食感のマグロと、赤身の刺身3種はそれぞれ対照的な味わいが楽しい。

 アジのたたきのおかげで飯が進み、すっかり平らげて店内のテレビを見ながらお茶を頂いてひと息。まわりにはいつの間にか、地元の人らしい家族連れやおばちゃんグループの姿もちらほら見られ、休日の朝にちょっと早起き、ちょっとぜいたくな朝ごはんを楽しんでいる、という感じだろうか。港の朝市が始まるまでには少々時間があるようだから、もう少しゆっくりしていくつもりだが、店内のあちこちで目に入る魅力的な品書きのに誘われて、つい朝酒に走ってしまうかも。(2006年10月7日食記)