ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん64…北海道・旭川 『葡萄屋』の、道産・上川牛のステーキ

2006年10月13日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 「旅で出会ったローカルごはん」が、旅行専門雑誌の「旅の手帖」にて紹介されることになりました。今月号(11月号)の書評欄ですが、見本誌をいただいてビックリ! 何と、1/2ページ以上もさいて頂いて、中身を細かく取り上げて頂き、うれしいやらちょっと気恥ずかしいやら。でも、「ローカルごはんの醍醐味は、その土地の風景を愛でながら、街の喧噪を感じながら、人々の顔を見ながら食べることではないか」というくだりは、よくぞ伝えたいことを書いて頂いた、と感動モノ。編集長を始め編集部の方々、どうもありがとうございました。

…と、何だか書評の書評になってしまいましたが、そんな訳で今日はこの本からのこぼれネタにて。 

 北海道で見かける牧場といえば、白地に黒のまだら模様の牛がのんびりと、草を食んでいる風景が頭に浮かぶ人が多いだろう。このように、道内を旅行して見かける牧場のほとんどが、酪農王国・北海道らしく乳牛の飼育が中心である。その一方で、石狩牛に十勝牛、大雪牛などといった、肉食用の銘柄牛もいくつか挙げられるように、ステーキや焼肉に良し、しゃぶしゃぶやすき焼きに良しの、品質の良い和牛の産地が道内に数多いのも見逃せない。カニにサケ、ウニにイクラなど、北海道を旅行している間は魚介類に食事が偏りがちになってしまうが、訪れた土地でおすすめの洋食屋やステーキハウスで、ご当地の銘柄牛のステーキを注文してみるのもまた、北海道の味覚のひとつの楽しみ方である。

 道北の稚内方面を旅行して旭川に宿泊したときも、寒い中生魚など鮮魚中心の食事が続いたおかげで、少々栄養が偏った上に胃腸の調子が今ひとつ良くないようだ。ここはひとつ、温かくてスタミナのつくものを食べようと、三条七丁目のレストラン『葡萄屋』へと足を運んでみた。店に入ると旭川屈指の老舗レストランらしく、店の中はやや控え目の照明がぼんやりと灯った落ち着いた雰囲気。予約をしていなかったのに、ウェイトレスがレジの近くに整列して出迎えてくれたのには驚いた。どうやら、自分がディナータイムが始まってから最初の客のようだ。赤いチェックのテーブルクロスがきりっと敷かれた卓へと、ウェイトレスのキビキビした案内が気持ちいい。さすが熟練の接客、言い換えればベテランつまりおばさんが多く、メイド風のエプロンや衣装が可愛いような、人によってはやや無理があるような。

 メニューによれば、道産牛のほかにも松阪牛のヒレ、サーロインなど、予算に応じて肉の銘柄や部位が異なる仕組みだ。道産牛は道内のどこ産の肉なのかと、先ほどのウェイトレスに尋ねると、旭川の東にあたる上川地区で飼育されている、いわば地元産の牛肉だとの返事。松坂牛も魅力的だが、せっかくだから訪れた土地のものを頂くことにして、道産牛のフィレステーキにガーリックライスとコンソメスープをセットしてもらった。待つ間にどうぞ、とウェイトレスが置いていった週刊誌を眺めながら、焼き上がりを待つ。何だか床屋で順番待ちしているかのようだ。

 先に運ばれてきた、大皿にいっぱい盛られたコンソメスープをまずは平らげて、胃が暖まって食欲が戻ったところで、ずんぐりと厚みがあるステーキが登場。肉の上にはバターとレフォール(西洋わさび)がのっていて、ウスターベースとクリームベースのソースを好みで使ってください、と説明があった。まだ鉄板の上でジュージューと音を立てている肉に、さっそくナイフを入れると、切り口からはほとんど肉汁がしみ出てこない。かむと、しっかりひきしまった歯応えが印象的で、肉の旨みと繊維が舌に感じられる。脂のとろりとした甘みはほとんど感じない。この、脂肪が少ない身の締まった赤身肉が上川地方の牛肉の特徴で、霜降りの松阪牛や神戸牛などとはまるで違った、しっかりとかみごたえのある食感が身上だ。だから脂の濃厚な旨みがない分、肉自体の味が純粋に楽しめるステーキである。脂身がたっぷりの肉をむさぼり喰いたい人には、ちょっと物足りないかも知れないか。

 焦げたニンニクから香ばしい匂いが漂う、ガーリックライスをひと口食べて、肉をひと切れ食べて、とどんどん頂いていると、みるみるうちにスタミナがついてくるよう。またたく間に、すっかり体力回復だ。店を出るとちらちらと小雪が舞い始めた様子で、体調の様子見で無理をせずホテルに戻っておとなしく… なんてことはなく、ステーキの恩恵で復活した元気とともに、北の魚介を肴にいざ「さんろく街」飲み歩きと行くか。(2月上旬食記)