暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

選択の時

2008-05-17 | 狂おしい
さあ、白灯油を

疲労した獣の臭いから
奴らは後を追ってくるぞ
くだらない仁義はいらない
お前の命は大切だろう
さあ、白灯油を

脳天を貫く饐えた臭いが
奴らの鼻をくるわせる
お粗末な同情は何も助けない
瓦屋を燃せばすべてが助かる
さあ、白灯油を

一人がこわいのだろう
誰かが欲しいのだろう
誰がそれを望めと言った
お前の後ろを見るがいい
吐き気を催す醜い道程
すべて燃やせ燃やしてしまえ
さあ、白灯油を

さあ、白灯油を
躊躇いを教えたおぼえはない
それとマッチがあれば事足りる
いい加減に気付くがいい
奴らに食われれば皆が助かる
それでもお前は逃げるのだ
口を交わしたものの屍
お前こそが死ぬべきだ
そうだ、それでも
逃げるのだろう?
ならば燃して消してしまえ
お前の痕跡を消してしまえ
それ以外に価値などない
それ以外は死ぬしかない
さあ、白灯油を掲げ
どちらを燃やすが決めるのだ

擬似自殺による他殺

2008-05-16 | 狂おしい
ちらちらと映画の一瞬に挟むポルノ広告のような
閃光の中に骨肉が躍る
のぼりたつ湯気に包まれて
おれはたたずんで声を待っている

悲鳴が耳にこびりついて離れない、
いくら洗っても/洗っても
下水に似た腐敗臭でさえ
浄めることはできるというのに
そいつの顔を思い出す
鏡に映る奇妙な生き物
おまえは今何をかんがえているのだ

なあ、膵臓は綺麗だと思うんだ。
膵臓って……どこだっけ。
(Beep!)

映画みたいな恋に溺れ
映画のように愛し合い
結末は下品なフラッシュの先
よく似ていた、おれとそいつは
目玉をそれぞれ入れ換えたみたく
よく似た瞳がおれを見た
濁って腐るくろい瞳孔、
鏡に向かったおれが死んで
膵臓だけはきっとちがう

そいつの顔が思い出せないんだ
悲鳴はいつでも離れないが

実体を求める

2008-05-15 | -2008
泉は、こんこんと
湧く
ゆえに、

あなたの循環器から湧く
それは泉ですか?
温い、それら:不可欠な窒素

醒い、醒い、醒い

たんぱく質のあなたを
愛します。
有機もしくは無機のあるなしにかかわらず
それらは喪失を示唆する。

実際を選ぶための追跡
死体ではありませんか?

おまえのことは殺しているよ

2008-05-14 | -2008
いつの間にか麻痺していく
内臓の腐り落ちる音それすらも聞こえない
肩についていたはずの対となる骨と肉そして皮たちは
どこかへ消えてしまったなくなってしまった
しかし知覚するだけの器官すら麻痺し
ただひたすらに意識だけが取り残され
まるで思念体へ変化するように有機が溶けていく
痛覚のないこと?
それのみが麻痺をさすわけでないのだろう
わたしの血肉が拡がり人々は悲鳴をあげるだろうか
それでも数日後には彼らも麻痺するのだろう
変化もやがて日常に変化するばかりで
時間は生まれた瞬間から麻痺しているばかりだ
腐り落ちた肉の塊は空間へ飛び出し
時間の軸でぐるぐると回る
のせられた麻痺する空間で静かに液化しながら
そのものが原子へかえることを期待している
全身の細胞が悲鳴をあげた結果わたしはこうなり
今はただ意志以外のすべてが主に反抗し死をさけんだ
わたしの液化死体を見ながら人々は平然と肉を口に運び
犬は乾いたその土を踏み新たな臭いをつける
しかしそれでもその液はまだわたしそのものだ
なぜなら麻痺していようとわたしはまだ生きているのだから
わたしの意志はここにあって知覚することなく知覚している
どろどろに腐敗し還元された汁を再構築すればわたしが生まれる
誰もがわたしの存在を麻痺し日常へ化していく
つまりは生きていようと死んでいようと人間は人間なのだ
だからわたしは麻痺したまま死にたいと願う
もしくはこの姿のまま蘇りひとしきり叫びつくして
麻痺した神経をしこたまに傷めつけるのだ 人々の
麻痺しきった神経を
けれどわたしは麻痺したまま死にたいと願う

強要

2008-05-14 | つめたい
要らないと笑いゴミ箱に捨てた
ああぼくは
たしかにその顔をおぼえている
いとしくて同時に憎いその顔を
やわらかく歪んだ顔をおぼえている

捨てられた物の気持ちがわかったなどと
言えばみなが笑うだろう
ゴミ箱にほうり捨てられたものたちは
収集業者がむしろ聖母のように見えてくる
破滅と死のみがもたらされる
本当なら悪魔にだってとれるそれらが
まるで本当に聖母のようだった
かたくしかめられた顔をぼくは
ぼくはおぼえている

それ以外はみんな嘘だ
それ以外を知らないのだから

どのみちぼくは死んでいる
なぜだか生きてはいるけれど
どのみちぼくは死んでいる
だからどれでも同じだろう
どのみちぼくは死んでいる
それならもう一度死ねばいい
ぼく以外の何か
ぼく以外の誰か
少なくともそれまでゴミ箱に捨てられたことのない
あの顔のような
それともそれらすべてが
もう一度死ねばいい
なぜならぼく それ自身が
二本足で立っていた人間だったから

レスレスレス

2008-05-12 | 暗い
意味をなくして宙ぶらりんのまま
時間は不可侵に貪られていく
何のためにここにいるのだ
何のために見ているのだ
本当なら動けば解決するだけの問題ですら
手をつけることもせず茫然と見るばかり

許容量だなどとふざけたことを言うものだ
実際にためしたこともない愚か者

不安なるものを見せびらかしたところで
消去される方法は見つからない
精一杯の自虐と自己満足
自らを慰めふける痴態の放送
それもまた価値があると自己解釈をかさね
その実 現にうごけもしない

現在位置の特定で忙しいのだ、
現在位置の特定で

疲労した.

2008-05-11 | 暗い
耳鳴りのような
吐き気がしている
視認できるできないにかかわらず
問題は思った以上に深刻だ
目の前のものを片付けることさえ覚束ないのに
遠回りをすすめて自滅を狙っている
そうでなければ理解すらできない
まるであなたたちは蛇のようだ
そしてわたしは生きた屍
腐り落ちる前の鶏卵
獲物はすでに死んでいても
平らげるのがあなたたちなのだろう
それとも目の前で瀕死をいたぶる
飼い慣らされた蛇なのか
耳鳴りが頭痛の隙間に侵入してくる
それでは問題を片付けよう
一生をかけて片付けよう
それ以外には人生などないのだから

原始の夢

2008-05-07 | -2008
眠りの箱に揺られつつ
君はもつれる まぶたを閉じ
見えないあいだに変質しては
箱の中でくるくる回る 虹色の偏光を
体じゅうにまとって

鏡の中でもがくしぐさ
正反対の大気で生きている夢を見て
首振り子を揺らしてうたう 幼子に連れられて
かえれなくなるよ、
それじゃあここでかえるから。
現の声にもまたひかれ
君の世界が理性を宿す
原始の夢に別れを告げたら
法則の体をちいさく動かし
肌色のまぶたがひらかれて
現の象徴が私を見つめる

陸に海猫

2008-05-04 | -2008
造船所では
こっそり猫を飼っている
その猫は
青い目をしていたが
耳の聞こえない雌猫で
時折工場の屋根に上がり
何かじっと耳を澄ましていた
ここにはない波の音を
探そうとしているかのように
わたしたちの作る箱に飛び乗り
猫は知っているかのように
身体をひとり波に揺らす
まるで踊り子のような可憐さ
灰色がかった毛が
なめらかに光る

あれは、雲の隙間
それは、山々の息吹
これは、嵐の水面
雌猫の背後で景色が揺れる
褪せた工場に彩がやどる
海にたゆたう青い瞳
その向こうで潮が鳴っていた

工場の者は猫を愛した
賢い雌猫を愛していた
硝子のように細やかな声
まるで海の女神のようだ
アークに焼けた男が笑う
猫はただ尾を揺らす
いつしかお前に船をやろう、
そこがお前のかえる場所だ

今日もおそらく聾唖の猫は
潮の夜泣きを聴いている

カフカ

2008-05-03 | -2008
日傘を持った綺麗なご婦人
おおいやだと蜘蛛を潰した
それでもなんとか生き延びて
今度は酒場に行ってみた

蜘蛛はほんとは王子様
みんなが敬う王子様

世間知らずの蜘蛛が一匹
忍び込んだらさあ大変
見たこともない酔っ払い
酒瓶片手に騒いでる
あれやこれやの喧嘩商売
のぼり白めくたばこの煙
酒の臭いに酔わされて
蜘蛛はぜひぜひ逃げ出した

蜘蛛、君はもう
人間ですらない

蜘蛛は森へはかえらない
だって町こそ彼の配下
城が棲みかの蜘蛛だから
蜘蛛は森へはかえらない
いろんな人が生きていて
蜘蛛はもれなく疎まれた
それでも森へはかえらない
死んでも蜘蛛は王子様
町の隅で息絶えた
潰され蹴られ弾かれ避けられ
無惨な蜘蛛を魔女が拾う
高笑いの気狂い女を
みんながみんな見ていたけれど
王子様には気付かない