ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

月光

2015年05月22日 | 文学

  月光夜を照らす。
 その光妖しかれども煌々たり。 

 我独り、マンションのベランダに出で、月光を浴びたり。
 手には二合徳利と杯。
 一口二口酒を含めば、月光いよいよ妖しく光りたり。
 酒にか月光にか、我酔いたる心地して、陶然たり。 

 知らず、人の道。
 なお知らず、生死の意味。
 知りたくも無し、労働の甲斐。

 ただ我、一瞬の愉楽に沈むばかりなり。

 皐月半ばを過ぎ、田、青々と稲穂を揺らす。
 さりながら宵には外気凛冽として、酒の温め有難し。 

 月あまりに巨大なれば、我、酒の酔いも手伝ひて、月光に飲み込まれたる心地す。

  さあれば、月に住まいするかぐや姫との逢瀬を楽しみたき欲わき出づる。

  我、気づけばはるか天空を駆け、月にいたる。
 かぐや姫が住まいする宮殿はいずこにや。

 あな怖ろし。

 月に流麗たる宮殿を見ず。
 かぐや姫の花の顔(かんばせ)も見ず。

  げに怖ろしき死の気配充満したるを感得し、我、恐怖に打ち震え、落涙滝の如し。

  はしるはしる、我が狭小たるマンションのベランダを目指し、ひたすら天空より落下す。

  気づけばベランダにて、二合徳利を抱えおる。
  さらに一杯二杯の酒を含み、再び月眺むれば、相も変らぬ妖しき光を放ち、我を誘惑す。 

 我が家の狭小たるを嘆かず、月に住まいせざることに安心覚ゆ。
 ベランダにて月光を眺めるの愉楽こそ良しと得心したり。

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