筒井康隆の新作短編集「世界はゴ冗談」を読みました。
御年80歳の大先生、ほとんど言葉遊びのような作品から、かねてご執心のメタフィクションを取り上げたものまで、多彩なラインナップで楽しませてくれます。
これほどの大家になると、何を書いても許されるし、売れるのですねぇ。
うらやましいかぎりです。
メタフィクションは、フィクションのフィクションなどと呼ばれ、登場人物が自分が虚構の存在だと自覚しつつ読者をフィクションに取り込むような、実験的な小説群のことで、私はあまり得意ではありません。
どうしても物語の破綻が避けられないからです。
メタフィクション―自意識のフィクションの理論と実際 | |
結城 英雄 | |
泰流社 |
21世紀に入ると、インターネットのゲームなど、物語の享受者に、物語への参加を促す、メタフィクションが極限にまで高められたパラフィクションという概念が登場します。
あなたは今、この文章を読んでいる。:パラフィクションの誕生 | |
佐々木 敦 | |
慶應義塾大学出版会 |
しかしパラフィクションの登場により、読者を物語に参加させると、より一層作者の絶対性が高まるという矛盾が提起されるようになってしまいました。
科学の進化は不可逆的であろうと思いますが、文学や芸術の世界は必ずしもそうとは言えないでしょう。
メタフィクションやパラフィクションの壮大な実験は、結局擬古典的なかっちりした物語の復興を促すものと、私は願望を込めて思います。
それにしても御大は実験的な作品からブラックユーモアの作品、はては少年少女向けのノスタルジックな作品など、じつに才能豊かな人だと実感させられました。
もう十分楽しませてもらいました。
筆の衰えは隠しようもなく、思考の停滞も見られます。
このうえは、筆を折って引退されたらいかがかとさえ、思わされました。
世界はゴ冗談 | |
筒井 康隆 | |
新潮社 |