今日はとても魅力的な小説を読みました。
「夜行秘密」です。
作りは、いわゆる群像劇になっています。
登場人物が次々と一人称で告白し、それがやがて一つの物語になっていく、という。
天才映像作家、その熱狂的なファンの女、MVを作ってもらうことになった新人アーティスト、新人アーティストの恋人、天才映像作家のマネージャーを務める美女など。
それらの人々がそれぞれの立場で告白し、それらが大きなうねりと小さな誤解とを生んで、悲劇的な物語へと昇華します。
物語の終わりが近づいて、もう新人ではなくなったバンドのヴォーカルが独白します。
おれが思い出すのは大抵、楽しかった記憶とかじゃなくて、後悔の記憶だ。あの時、ああしていれば良かったと、記憶を巻き戻してみては、選ばなかった方の人生を想像してしまう。どうしても輝いて見えるBルートを想像しては、そっちの未来を願ってしまう。
非常に印象的です。
おそらく、後悔の無い人生なんてあり得ないと思います。
あの時、こっちではなくてあっちを選んでいたら、と空想するのは誰にでもあることです。
私など、そんなことがあまりにも多くて、後悔と言われれば、後悔だらけで54年11カ月生きてしまいました。
今月で55歳になります。
この小説は極めて緻密で読みやすい文章で作り上げられた上質なエンターテイメントであり、さらに上のような人生の真実を突いた告白が散りばめられた愛おしい物語です。
是非ご一読ください。