佐藤亜紀衝撃のデビュー作「バルタザールの遍歴」を読み終わりました。
バルタザールの遍歴 (文春文庫) | |
佐藤 亜紀 | |
文藝春秋 |
公爵家に生まれた体が一つで人格が二人の双子、クレヒオールとバルタザール。
普通は二重人格と呼ぶのかもしれませんが、二人は常に対話をし、互いに得意分野をゆずり、すくすくと成長していきます。
さらには、二人は幽体離脱というか、体を抜け出して生活する能力を持っていることが分かります。
ただし、抜け出したほうはパッと見には肉体的実体をもっているように感じられます。
影が無いことと鏡に写らないことを除いては。
ナチが台頭するウィーンを舞台に彼らの少年時代が描かれ、父の死後、パリに長期滞在し、大酒を喰らい、女と遊び、博打を打つ、放蕩三昧の生活を送ります。
金が無くなってくるとアフリカに渡り、安宿に泊まっては放蕩を繰り返す不良貴族です。
ここまで、ナチに付け狙われたり、ならず者に身ぐるみ剥がされたり、散々な目にあいます。
諧謔に満ちた格調高い文章で、SFっぽい驚くべき世界が描かれます。
そして物語は、「バルタザールの遍歴」と言うよりは、「クレヒオールとバルタザールの没落」とでも言うべき様相を呈します。
それでも二人はどこまでもドライで、自分たちの転落を面白がっているようにすら見受けられます。
諧謔が過ぎ、ややもすると読みにくい面は否めませんが、私は興味深く読みました。
できることなら、「戦争の法」のような、わが国が舞台で日本人が活躍する物語を紡ぎ出して欲しいものだと思います。
戦争の法 (文春文庫) | |
佐藤 亜紀 | |
文藝春秋 |
佐藤亜紀という作家、女性ながら硬質で骨太な、男らしい人を想像させます。
興味深いながら、真剣に読まなければならない分、少々疲労する読書体験ではありました。