[ 登場人物とあらすじ]
「夜警」と「満願」、このふたつの短編について、ミステリー部部をポイントに粗筋を纏めた。
※「作品のポイントになる文章」を薄緑色の蛍光ペンで彩色する。
※「私が補足した文章・単語」を薄青色の蛍光ペンで彩色する。
※「心に留った文章」を薄黄色の蛍光ペンで彩色する。
短編集なので、短編ごとに「登場人物」を記述する。
「夜警」
「登場人物」
◎ 柳岡巡査部長
主人公。ほとんど一人称、<俺>で記述されている。
緑1交番の交番長。
◎ 川藤浩志
警察学校出たばかりの緑1交番の新米巡査。小心者。
勇敢な職務遂行で殉職したことで、警察葬になる。
◎ 梶井巡査
緑1交番の警察官。柳岡交番長の2年後輩。
人当たりがよく、苦情対応に得難い才能がある。
◎ 田原美代子
バーのホステス。緑1交番への通報常連者2号。
田原勝の妻。
◎ 田原勝
田原美代子の旦那。傷害で2度検挙されている。粗暴で危険な男。
◎ 川藤隆博
浩志の兄。父親代わりで面倒を見ていて、浩志の性格をよく知っていた。
「あらすじ」
1. (警察葬にもなった川藤巡査を、柳岡は「彼奴は警官に向かない男」だった」と呟いた)
川藤浩志巡査は勇敢な職務遂行で殉職したことを賞されて二階級特進し、警察葬による葬儀が行われた。
その川藤の殉職事件は、こんな風に報じられた。
―—ー11月5日午後11時49分頃、市内に住む40代の女性から、夫の田原勝(51歳)が暴れていると110番通報があった。現場に駆けつけた交番の警官3人が説得を試みるも、田原は短刀で警官たちに切りかかったため、川藤巡査(23歳)が拳銃を計5発発砲。胸部と腹部に命中し、田原はその場で死亡した。川藤巡査はきりつけられ病院に搬送されたが、6日午前0時29分死亡が確認された。
世間は最初、このニュースをどう取り扱うか戸惑っているかに見えた。新米巡査が被疑者を制圧できず射殺してしまった不祥事と見るか、勇敢な警官が自分の命と引き換えに凶悪犯をやっつけたと見るかで。時間とともに、ニュースの扱いは「適正な拳銃使用だったと考えている」として、後者に傾いていった。
しかし、川藤巡査の上司であった交番長の柳岡巡査部長は、「あいつは所詮、警官に向かない男だった」、と独り言を言っていた。
2. (川藤は小心者で、叱られるのを怖がり誤魔化そうとする男だった)
警察学校を出た川藤は、最初に緑1交番に配属された。
交番勤務は3人1組の3組交代制で行われる。川藤は柳岡交番長の組に入り交番長の2年後輩の梶井との組になった。
◇
川藤の交番初勤務の日、交番の近くのスナック「さゆり」から、客の男ふたりが口論になり、角瓶を振り回し始めたとの通報があった。
緑1交番の3人の警察官が出向き、梶井が中に割って入り、引っ張るぞと脅しておしまいにした。
当直があけて、次の組と交代し、帰る前に俺は喫茶室に行く。すると、梶井が先に入っていて、昨夜の「さゆり」へ出向いたときのことを話し出した。
梶井から「客と対応したときに、川藤の手が腰の拳銃に伸びた」と告げられ、俺は、スナックの客同士のトラブル程度で腰の拳銃に手が出るようでは、警官としては厳しいと感じた。
川藤が交番に配属されてから1週間ほどしたある日の午前中、俺は川藤に交番の管轄内の道を教えるため、自転車で川藤をパトロールに連れ出した。
小学校のそばの脇道に入ると、そこは一方通行になっている。そこへ軽自動車が逆行してきた。
俺は、川藤に違反切符を切ることを指示した。
川藤は自転車の後部の箱の鍵を開け、交通反則切符とクリップボードを取り出し、車から降りてきた運転手に甲高い声で言った。
「おい、わかっているだろうな。違反だよ」
俺は、川藤の頭を殴り付けたい衝動に耐えなければならなかった。そんな口の利き方は、よかれあしかれ、この仕事に慣れきってしまったものがするものだと、舌打ちがでた。
警邏を終えて交番に戻り、昼飯を済ませたあたりから川藤の様子が変わってきた。
川藤から、もう一度、ひとりでパトロールに行かせてくれと申し出があった。警邏はふたりで行くのが原則だと𠮟りつけたら、川藤は謝り自転車を見つめるだけだった。
俺は変に思い、川藤が休憩のときに、川藤が使った自転車を見ると、後部の箱の鍵がかかっていなかった。川藤は、俺や梶井に見られずに鍵を掛けようとしたのだ。
川藤は小細工で誤魔化そうとしたのだ。
あれは小心者だ。ただ単に、叱られるのが怖かったのだ。子供のように。
臆病者なら使い道がある。臆病が転じて慎重な警官になるかもしれない。上手く育てれば、臆病が転じて慎重な警官になるかもしれない。無謀な者よりは余程いい。内勤にまわせばそつなくやっていくだろう。だが、川藤のような小心者はいけない。あれは仲間にしておくのが怖いタイプの男だと思っていた。
◇
むかし刑事課にいたころ、三木という体格に恵まれた部下が入って来た。顔つきもいかめしくて、押し出しが強い刑事になるだろうと期待していた。
だが、見掛け倒しだということがすぐ分かった。何か不都合があると他人に責任を押しつけることをためらわない。こいつを刑事にしておくと必ず問題がおきると直感し、俺は三木に厳しく当たった。
1年後、三木は辞めた。その3か月後に首をつって死んだ。
◇
川藤も警官には向いていない。あいつは、いずれ必ず問題を起こすだろう。
だが、俺には罪悪感があり、もう部下を殺したくなかった。
3. (11月5日、川藤が殉職した日は朝から変なことが続いていた)
川藤が殉職した日は、朝からおかしなことが続いていた。
交番に行くと、常連の通報者である田原美代子が待っていて、話を聞くと、旦那の田原勝が最近刃物を買って、何もしないのに「浮気しているだろう」と言われ、殺されるかもしれないと言いだした。交番の電話番号を教えて十分警戒してくださいと言って帰した。
午前の警邏に梶井を連れ出した。徘徊老人の捜索も視野に入れての警邏でもあったので、梶井が適任だと考え、川藤は留守番にした。
12時半過ぎに交番に帰ると、川藤から話しかけてきた。
「交番長。さっき、工事現場で人が倒れました。僕は机に向かっていたんですが、交通整理の誘導員が頭を押さえて倒れたとのことでした。見に行ったら、車が小石を跳ね上げて頭に当たったと言っていました。ヘルメットに派手な傷がいましたが、すぐに起き上がりました」
工事現場を見ると、その交通誘導員は、普通に誘導灯を振っていて、たいした怪我はしなかったらしかった。
そこから夜までは普段通りだった。
午後11時10分、隣同士でいがみ合っているとの常連の通報があった。現場に向かい、交番に戻って、午後11時49分という時刻を記録した。
(そのすぐ後に、署の本部から交番に、田原家に事件が発生したとの通報があった。本部の)記録によれば、署に110番通報(田原美代子から)があったのも同じ午後11時49分となっていた。
第4章以降に続く