(第9章「ロスジェネの逆襲」)
(1・2) 誤った稟議書からは誤った結論しか出てこないと、支援は却下される。
取締役会の追加支援議題の席上、内藤部長から、電脳による東京スパイラル買収が世間に評価されるか疑問があるので、異例だが半沢に断片させることを巨おしていただきたいと、頭取の許可を貰う。
半沢が説明をし出した。「買収成功ありきのもとに、電脳に2000億円もの無闇な支援を稟議しておられるが、常識なバンカーが行う妥当な支援といえるでしょうか。同社の財務状況に関する分析をおろそかにしたまま、ただ買収の成功ありきという態度は、収益機会を得るどころか逆に、御行の信用に傷をつけ巨額の損失をもたらす原因になりかねない。誤った稟議書をもとに議論しても誤った結論しか導き出すことはできないでしょう。ゴミ箱からはゴミしか出てきません」と言い切った。
副頭取は、稟議書も見ないで何故そんなことが言えると、ひやりと冷たい刃のような目を向けて来た。怒りに燃える伊佐山は稟議書を半沢の前に叩きつける。
半沢は、内容をざっと見て、これだけですか、この稟議書には、電脳へのゼネラル電設からの営業譲渡と資金還流について一言も触れられていない。何故ですかと言い。お解りになっておられないようなので説明させていただきますと、東京中央銀行宛てになっている資料を配布した。
2年前、電脳は、電脳電設と言う新会社を設立し、ゼネラル産業のゼネラル電設から社員もろとも営業譲渡を受けています。資料によると、評価総額100億強のゼネラル電設を300億円で購入して子会社を設立したのです。しかも、その後、2年に亘って決算を粉飾しています。電脳が東京スパイラル買収に固執するのは、業績の順調な東京スパイラルと一緒になることで、本業の窮状を知られることなく、粉飾の事実を闇に葬るための隠れ蓑として必要だったからです。これが平山社長の真の目的ですと説明した。
中野渡頭取が裏は取れているのかの問いに、電脳の元財務担当役員の玉置氏から昨日、商法違反まで秘匿する必要はないはずだとの指摘から真相を語ってもらったと回答した。
中野渡は、追加支援は見送りにする、よろしいですかと言って会議室を出た。
(3) 半沢は伊佐山の側の諸田に「倍返し」をした。
三笠副頭取の言葉は抑えられない怒りのため震えていた。「早急に本件について、顛末を纏めたレポートを上げてほしい。」との叱声に、伊佐山の背筋を冷たいものが流れた。それは、全ての責任を被れと言われているに等しいからだ。
頭取を目指した男・三笠の野望がまさに今、終焉を迎えようとしていた。
伊佐山の背後を歩く諸田とすれ違った半沢は、「諸田」と声をかけ呼び止めた。「おれたちに、何か言うことがあるんじゃないか。 仲間を裏切っておきながら謝罪もなければ反省もない。それでいて、電脳の真相に迫ることもできず、中途半端な仕事ぶりで迷惑をかける。君にとって仕事ってなんだ。」との鋭い声に、諸田の顔面から血の気が引いて行った。
伊佐山は、諸田に、電脳へ行く、アポを入れろと命じた。
(4) 東京中央銀行は電脳への支援を打ち切る。
伊佐山は平山に500億円の支援は通りませんでした。申し訳ありませんと言いながら、実は反対意見を述べた者からこういう資料が出てきました。事実なんですか?社長と言うと、平山は、会計士に任せているとか、ゼネラル産業との取引資料を見せてくれと言うと、信用できないならアドバイザーから降りても貰うと返答した。
伊佐山は、銀行として、今後本件を含めて支援することはできないし、これまでの支援分は、いつ返済していただけますでしょうかと、銀行として最期の言葉が出た。
(5~7) 森山から問われて、半沢は仕事に対する信念を告げる。
電脳が東京スパイラル買収断念を発表した。 アドバイザー業務で親会社が子会社に敗北したことも併せて報道された。
岡社長主催の祝勝会の後、別行動の二次会での居酒屋で、半沢は森山から仕事に対する信念を教えてくれと言われた。
「簡単な事さ。正しいことを正しいと言えること。世の中の常識と組織の常識を一致させること。ただ、それだけのことさ。」と答える。
しかし、ひたむきで誠実に働いた者がきちんと評価される、そんな当たり前のことさえ、今の組織はできていない事があるが、「それは自分のために仕事をしているからだ。仕事は客のためにするものだ。ひいては世の中のためにする。その大原則を忘れた時、人は自分のためだけに仕事をするようになる。自分のためにした仕事は、内向きで、卑屈で、身勝手な都合で醜く歪んでいく。そういう連中が増えれば、当然組が腐っていく。組織が腐れば世の中も腐る。」と言う。
(8) 電脳再建のための後任人事が決まる。
人事の話で、中野渡頭取は人事部長を連れて、三笠と伊佐山を待たせている中華料理店に入った。
頭取は君たちにも言い分があるだろうと思ってねと、二人の言い分を求めた。
伊佐山は、ゼネラル産業グループは営業本部の管轄で、半沢は前職時代に知悉していたが、証券本部としてはそこまでの情報に接する機会が無かったと言い、三笠も証券部門は優秀な人材が揃っていますと助言した。頭取は、「そう、証券本部は頭でっかちの集団だ。君たちは問題と答案用紙が配られたら、誰にも負けない点数を取るだろう。だが、今回の試験は、先ず解くべき問題を探してくるというところから始まっていたようなものだ。その結果、君たちは間違った問題を解き、間違った答えを出した。東京セントラル証券は正しい問題を把握し、導くべき結論を導き出した。と伊佐山に答えを告げた。
三笠が、電脳を再建させ、債権回収の万全を図るために、電脳の内容に詳しい半沢を取締役財務部長で調整したらどうかと言う。頭取は、それに答えて、「もし支援を決裁していたら、我々は電脳の粉飾に手を貸したことになり、あなたも引責を免れなかっただろうから、副頭取などといった肩書をぶら下げていられるのは誰のお蔭か。そのあたりをのことを考えたらどうか。」と答え、電脳の財務部長には問題を良く把握したであろう伊佐山を、平山社長の退任は既定路線だろうから後任を三笠君に頼みたいと言う。三笠が私が出向くほどと言うと、規模は問題でない、全責任を取るからスキームを含めて一任してほしいと言ったのは君だろうと一蹴した。
(9・10) 半沢は、頭取から辞令を受け取り、たった半年で、元の営業第二部次長に戻った。
瀬名が財務を頼みたいと言うが、森山は証券会社の一社員として力にならして欲しいと瀬名に頭を下げる。瀬名も仕方ないが、コペルニクスの事業展開もあるので助けてほしい、そして、半沢部長にも計画書を見てもらってくれと頼むわと言う。
半沢の再出向の人事異動が独り歩きしていたが、その予定の日に、人事部長が半沢を頭取室に連れて行った。出向中の行員を呼び出し、頭取から営業第二部第一グループ次長を命ずると辞令を読み上げられた。前例のないことだ。そして、「出戻りだ。今回の件良くやった。皆が待っているぞ。早く顔を出してやれ。」と言われた。
終