T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

「ひとでなし」を読み終えて-2!ー610回ー

2011-10-23 09:57:28 | 読書

「四年目の客」

 4年前に受けた恩の礼に立ち寄った店は地上げに遭い、店主が変わっていて騒動に巻き込まれ、その客が地上げ屋から命を取られようとする話。

 源十郎と丁稚の鶴太は用足しの帰りに一膳飯屋に寄った。

 客の一人が過って徳利を割ったら、それも支払ってもらうということから店側と喧嘩になった。そして、数人のならず者が入ってきて他の客は出てくれという。

 数日後、鶴太は奉行所の牢に牢扶持を持参した。ところが独居牢に一膳飯屋出会った徳利を割った客がいた。

 通常は番屋に突き出され詫び金を払えば済むことなのに、牢も独居牢に入っているのはおかしいと菊太郎や源十郎に告げた。

 菊太郎は銕蔵に何故独居牢に入っているのか調べるように言って、自分は一膳飯屋に出かけた。

 銕蔵が調べた結果、丹波の陶工の藤蔵といい、人を傷つけてもなく無銭飲食したわけでもないのに、町代の金物問屋笹屋の喜右衛門に頼まれ、坂田という評判が良くない同心が奉行所を通さずに牢に入れたとのこと。

 菊太郎は、藤蔵が司直の手に渡り調べられると、喜右衛門が一膳飯屋の娘を誰かに犯さすなど悪どい方法で一膳飯屋を含めた近辺の土地の乗っ取りを行ったことがばれるので、坂田やならず者にも甘い汁を吸わせていて、内密に牢に預けておき、夜のうちに牢内で殺すことを考えていると推測した。

 悪事を隠ぺいする目的で牢内での殺人とは言語道断だと、藤蔵の身を守るため自分も牢に入り、そのことを藤蔵にも話をする。

 藤蔵は4年前にぐれていたところを前の店主に懇々と諭され、仕事に励み、一人前の陶工になったお礼に立ち寄ったとのことだった。菊太郎は前店主が中風で口もきけぬ有様で寝込んでいることも知らせた

 菊太郎が牢に入ったことで、藤蔵を殺すことが難しくなったので、もしかして牢を放火して逃げ出したところを襲う方法もあるだろうと、菊太郎は銕蔵にそのあたりの手配も命じていた。

「廓の仏」

 自分の行いのために妻子を死なせた老人が遊郭の風呂焚きをしながら人を助け、また菊太郎たちに助けられる話。

 北野遊郭の林屋の風呂焚きをしている市蔵は60半ばだか、彼からは妙な迫力を感じる。

 子供たちの虐めにも積極的に説教するが、子供達から好かれていて、一人一人に竹とんぼを作ってやっている。

 その竹とんぼを見た菊太郎は只者ではないと感じて一度会いたいと呟いた。

 市蔵は昔西国一円を荒らし回った盗賊の一味のだったが、足を洗おうとする矢先、奉行所の捕物に遭い、一人やっと逃げ延びて、後日、女房や娘を探したら、牢内で女房が娘を殺し女房は首つり自殺をしたことを知った。

 竹とんぼを作りながら、自分の胸の中には娘の泣き叫ぶ声が哀しくよみがえってくるのだ。

 市蔵は、それまでの勘から遊女の霧里が糸問屋の手代と心中をしようかとも思いつめていることを感じ、逃げるのであれば一旦自分の長屋に逃げてきたらあとは何とか逃がしてやると話をした。

 菊太郎が市蔵に会うために遊郭に行ったら、用心棒たちに霧里と手代と市蔵が捕まり林屋に向かう一行を遠巻きにした数十人の子供たちが三人を助けるために用心棒に口々に悪態をついている一団にあった。

 菊太郎はこの窮地を助けねばと、用心棒の子頭を叩き付け、他の用心棒の髷を次々に切って、それがあちこちに飛び散った。

「悪い錆」

 実の息子に放逐同様の憂き目を見る隠居をお信の長屋の連中が助けて、菊太郎が無法息子を懲らしめる話。

 お信が住んでいる長屋にいる大工の武助が修繕している空家に、夜になると老人が住むようになって七日余り。

 あまりにも汚いが何処か威厳のあるその老人を長屋に連れて帰り、頭の虱を取ってやったり着物を取り換えてやったりした。

 お信が汚れ物を洗い桶に入れると、立派な煙草入れと根付を見付けた。

 老人の身元を知る手掛かりになるかもと、お信はそれを鯉屋に持ち込んだ。

 菊太郎が、この根付は大阪の雲甫可順の作品と思うので、どこの店の依頼で彫ったものか調べるところから始めようといった。源十郎が大阪の同業者のところに喜六をやって手伝ってもらうことにした。

 菊太郎はお信の家に出かけた。ついて間もなくして、老人を預かっている武助の家の前で、二人の男が老人を殺したら二百両になるのだからしっかり遣ろうぜという話をしていた。

 菊太郎は二人の男を気絶させ鯉屋の座敷牢に入れた。

 座敷牢の中で二人が話していることを纏めると、伏見の造り酒屋の雁金屋で息子が身代を譲られると、にわかに父親を邪険に扱うので公事宿に頼んだが、息子が金を使って自分に有利に裁きを終わらせた。そして、部屋に閉じ込んでしまう始末に父親は家を出てしまったということである。

 源十郎は伏見の雁金屋に、菊太郎は長屋の老人のところに行って殺しの企ての話をした。

 帰宅した二人に吉左衛門が結果の話を急かすと、菊太郎は、雁金屋主人は短刀で首を切ろうとしたので源十郎がようやくにして留めた。老人にそのことを話すと、事件にはしないで親子の縁を五百両で切ることで話を付けてほしい。根付は使ってくれ、そして、殺人を依頼された男の身についた悪い錆を落としてやってくれとのことであったと話す。

 菊太郎はひとり言で錆を落としてやるのも公事宿の務めだろうし、根付もそのため手放すことになるだろうと。

「右の腕」

 密かに春画を描いて莫大な金子を持っていたために強盗一味で捕えられた禁裏絵所預・土佐家の門人が名誉のために口を閉ざす話。

 法華の清五郎という強盗の一味の捕物が、ある夜、なされたが、奉行所は失敗した。

 その現場の近くで、一味でないかと、禁裏絵所預・土佐派の高弟の一人である吉信が疑われ捕えられた。

 吉信は御蔵米公家の庶子で収入も数十石程度だが百三十両もの大金を持っていたので、どこからその金を手にしたかを聞いても、全く口を閉ざしていた。そのため拷問蔵へ入れられた。

 菊太郎は顔見知りの絵師であったので、何かの手掛かりを得られるかもと取調べへの立ち合いを願い出た。

 与力組頭の許しを得て、吉信に、このままでいると釣り責めの刑を受けることになるが、そうなると右手が使えなくなり絵が描けなくなるぞというと、初めて吉信の胸の奥深くで何かが激しく揺れ動いた。

 数日して奉行所の溜り部屋に吉信を呼んで菊太郎は与力と一緒に聞きだした。吉信、そなたは春画を描いて金子を稼いでいたのだろう。それは師匠や宮中への聞こえが悪いだろうが、強盗の一味として一命を失えば大切な名誉も守れない、春画ごときは、ご定法では一応禁じられているが気にすることはないと言う。

 与力たちは、それは言い過ぎだが、冤罪者を出さずに済んだと菊太郎に礼を言った。

コメント
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