スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第三部諸感情の定義三六&延命治療

2018-06-18 19:00:20 | 哲学
 第四部定理四五系一で悪malumといわれている感情affectusのうち,怒りは欲望cupiditasの一種で,第三部諸感情の定義三六で定義されています。
                                
 「怒りとは我々の憎む人に対して,憎み心から,害悪を加えるように我々を駆る欲望である」。
 この定義Definitioから分かるかと思いますが,これは僕たちが怒りという語で一般的に示そうとする感情とはやや違っています。たとえば第三部諸感情の定義七にあるように,憎しみodiumは基本感情affectus primariiのうち悲しみtristitiaの一種で,これは僕たちが憎しみという語で示そうとする感情に相通ずると思われますが,怒りもまた僕たちは悲しみの一種と解するのが一般的で,欲望とは解さないであろうからです。また,これも定義から分かるように,怒りという欲望は人間が人間に対する欲望に限定されます。たとえば僕たちはある種の動物に怒りを感じるとか,自然災害に怒りを感じるというようないい方はしますが,スピノザの哲学ではそれは成立しません。僕は第三部諸感情の定義二一の買い被りについてはスピノザの定義よりも広く用いますが,怒りについてはスピノザの定義に則して用います。動物に対して害悪を与えることは可能ですが,自然災害に対しては不可能であり,広い意味で用いるとかえって混乱を招くことになるからです。
 僕たちはある人を憎めばその人に怒りを感じます。それは僕たちが喜びlaetitiaを希求し悲しみを忌避する現実的本性actualis essentiaの下に生きているからです。このために第三部定理二八により,僕たちには悲しみを齎すと表象するimaginariものを破壊しようとするコナトゥスconatusが働きます。よって憎んでいるものに対しては積極的に破壊しようとする,いい換えれば害悪を与えようとするのです。
 重要なのは,怒りという欲望はこのようなメカニズムを通してのみ僕たちのうちに生じるということです。いい換えれば僕たちは理性ratioに従う限りでは怒らないのです。他面からいえば,僕たちが何かに対して怒りを感じているときには,必ず憎しみに捉われているということができるのです。

 9月12日,火曜日。この日も母が妹を通所施設まで送って行きました。事情は7日と同じです。
 9月13日,水曜日。この日は消化器内科の診察がありました。今後の治療方針の伝達のためでした。医師からは家族の同席を求められていなかったのですが,母から要望がありましたので僕が同行しました。これは母の体力面からの問題ではなく,医師の話を僕にも聞いてほしいということであったと理解しています。予約時間は11時半なので,妹を送ってから行くこともできましたが,時間に余裕がありすぎます。Kさんが送って行くことは可能でしたので,お願いしました。
 消化器内科の診察室の前で呼ばれるのを待っている間に,母の方から,抗癌剤を用いての延命治療はしたくないという話が僕にありました。僕はそうしたことは本人が決定できるのであればそれが最善という考えです。ですから母がそうしたいということであれば,それでよいと返事をしました。そうするのが母にとって最も後悔が少なくなる可能性が高いと僕は考えるからです。ここで後悔というのは,第三部諸感情の定義二七における意味であると考えてください。
 抗癌剤を用いる治療に関しては,受けることもできますし受けないということもできると判断するのが普通で,受けないという判断は,精神mensの自由な決意によってなしたと信じるような事柄に属すと僕は考えます。信じる,というのは実際にはこうした決定も自然法則lex naturalisによって決定されているのであって,意志voluntasの自由libertasなるものは実際には人間には存在していないという意味においてです。ですからこの決断に対して母が後に後悔することになる可能性はあるのです。ただ,どちらを選択すればよいのかを僕に尋ねたのではなく,すでに延命治療をしないという判断を僕に伝えたのですから,それ以前には母にも迷いがあったかもしれませんが,この時点ではそのようにしたいということは決定していたのです。こういう場合は別の意見opinioを述べてまた迷わせ,決断を鈍らせるのは,後に後悔を惹き起こす可能性を高める行為であると僕は考えます。なのでそれでいいと言ったのですが,母の説明には納得できない点がありました。
コメント
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