スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第三部諸感情の定義二七&フェルメールの認識

2015-12-05 19:27:26 | 哲学
 第三部諸感情の定義二五の自己満足acquiescentia in se ipsoの反対感情は,第三部諸感情の定義二六の自己嫌悪humilitasです。しかしスピノザは,自己満足にはもうひとつ別の反対感情があると説明しています。それは次の第三部諸感情の定義二七の後悔poenitentiaです。
                                 
 「後悔とは我々が精神の自由な決意によってなしたと信ずるある行為の観念を伴った悲しみである」。
 第三部諸感情の定義二五は,自己満足を自分の働く力を観想するagendi potentiam contemplatorことによって生じる喜びLaetitiaであると定義しています。ですが,僕たちが自分の精神mensの自由な決意decretumによってなしたと信じる行為の観念ideaを伴うことによって喜びを感じるとき,それも自己満足であるとスピノザは考えているのです。このように考えることはきわめて自然でしょう。現実的に僕たちが自己満足を感じるのは,単に自身の能動的な力を観想する場合より,自分の行為を観想する場合の方が圧倒的に多いであろうからです。ですから同じような観想によって悲しみtristitiaを感じるなら,それは反対感情になります。その反対感情をとくに後悔と定義していることになります。つまり後悔とは自己嫌悪の一種であると理解するのが妥当でしょう。
 この悲しみが後悔といわれることについては異論は出ないものと思います。後悔の反対感情は自己満足の一種である何らかの感情affectusと本来はいわれるべきだと僕は考えますが,その感情を示す適切な語句がないのです。スピノザが自己嫌悪と後悔のふたつを共に自己満足の反対感情として定義しているのはそういう理由からだと思います。
 人間は精神の自由な決意によって何らかの行為をなすことはできません。これは第一部定理三二からも第三部定理二からも明らかです。だからこの定義Definitioでは精神の自由な決意によってなした行為とはいわれず,そう信じた行為といわれています。

 ライプニッツGottfried Wilhelm Leibnizがスピノザに書簡を送ったのは1671年10月です。つまり「天文学者De astronoom」が描かれた3年後です。したがって,その1671年10月の時点ではスピノザは自身が光学の有識者であるということが世間に知られていると自覚していたと僕は判断しますが,このことは,「天文学者」を描く以前のフェルメールJohannes Vermeerが,スピノザは優秀なレンズの職人であるということを知り得たということの状況証拠にはならないのです。ただ,ライデンLeidenにファン・ローンJoanis van Loonを訪ねた1660年の時点では間違いなくスピノザはレインスブルフRijnsburgのヘルマン・ホーマンHermann Homanの家に寄宿していたのであり,その寄宿先にはレンズを研磨するための専用の小屋あるいは部屋があったのですから,レンズのことに関してもフェルメールがスピノザの技術のことを知り得たという可能性を排除する必要はないだろうと思います。僕はマルタンJean-Clet Martinがいうように,スピノザは哲学者としてよりレンズ職人として知られていたとは判断しません。それでもフェルメールがレーウェンフックAntoni von Leeuwenhookを介さずにスピノザにカメラ・オブスキュラcamera obscuraのレンズに関する相談ないしは依頼をするということはあり得たろうと思うのです。つまり僕が作った物語のうち,フェルメールがレーウェンフックの秘密裏にスピノザにレンズの作製を依頼するということは,史実として絶対にあり得ないとは考えません。
 もうひとつの問題,すなわちレーウェンフックにはなし得なかった,フェルメールを満足させるだけのレンズの製作を,スピノザがなし得たかどうかということの方が,たぶん僕の物語にとっては重要です。というのも,スピノザがフェルメールに協力するということは,必ずしも直接的な依頼でなくても成立はします。物語には登場しない別の人物を介してもよいのですし,仮にレーウェンフック自身の仲介があったと考えても,物語の全体が壊れてしまうわけではありません。ですが「天文学者」は「少女Meisjeskopje」より高性能のレンズを用いて描かれたというのは,僕にとってもマルタンにとっても物語の根幹をなしているといえるからです。そしてマルタンと違い僕は,レーウェンフックの協力も必ずあったという考えなのです。
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