スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

鶴田のひとり急所打ち&第三部定理二八

2018-02-27 19:23:46 | NOAH
 三沢と鶴田の試合の前に,ジャンボ・鶴田に対する馬場の説得があったということは事実であったにせよ,その説得の内容について柳澤が『1964年のジャイアント馬場』の中で示している推測は誤りであるということの根拠をここに示しておきます。何度もいっていることですが,この推測は柳澤が著書の全体の中で論述している内容とは矛盾しているのであり,よってこの推測が誤りであるということは,むしろ著書全体の正当性を補強することになります。
                                
 ごく単純にいえば,もしも柳澤の推測が正しいと仮定するなら,鶴田は試合を決着させる方法としての「ひとり急所打ち」というギミックを,馬場から説得されるまで知らないでいたということになります。ですがこの仮定自体が誤りなのです。いい換えれば鶴田はそういうギミックの存在をすでに知っていました。なぜなら現に鶴田自身がそれ以前に,この「ひとり急所打ち」を用いることによって試合に負けていたという事実があるからです。
 これはネイチャーボーイがNWA王者時代で,鶴田がフレアーに挑戦した試合です。その試合は三本勝負で,たぶん一対一となった後の三本目で,鶴田がドロップキックのような飛び技の攻撃を仕掛けたときにフレアーがそれを避け,鶴田はトップロープに急所を打ち付けて悶絶。そのまま3カウントを奪われてタイトル獲得に失敗しました。僕の記憶の中にはあやふやな部分があり,おそらく1981年10月4日の蔵前国技館での試合ではないかと思いますが,もしその試合でなくとも,フレアーがNWAのチャンピオンで,鶴田がそれに挑戦した試合の中に,このような結末を迎えた試合があったことだけは確実です。
 ですから,馬場が鶴田を説得するとしても,このような説得をすること自体があり得ないですし,まして鶴田が初めてそれを知って受け入れたということは絶対にないです。そもそもこれはこの試合の柳澤による解釈に沿ったもので,僕の解釈とは異なるのですが,もし柳澤の解釈が正しいとしても,説得に関する推測は誤謬です。

 第三部定理三九は,人間の現実的本性actualis essentiaは喜びlaetitiaを希求し悲しみtristitiaを忌避するということを理解していれば証明Demonstratioは難しくありません。スピノザの論証にはこの現実的本性を示す定理Propositioとして第三部定理二八が援用されていますので,ここでもその定理をみておくことにします。
 「我々は,喜びをもたらすと我々の表象するすべてのものを実現しようと努める。反対にそれに矛盾しあるいは悲しみをもたらすと我々の表象するすべてのものを遠ざけあるいは破壊しようと努める」。
 スピノザが努めるconariというときには,努力するという意味であるよりそういう傾向を有する,あるいはそういう現実的本性を力potentiaとして有するという意味で,コナトゥスconatusについて言及しようとしています。つまりこの定理は,僕たちは喜びを齎すと表象するimaginariことを希求し,悲しみを齎すと表象することに対してはそれを忌避する,あるいは破壊するという現実的本性を有しているということを含意しています。
 憎しみodiumは第三部諸感情の定義七にあるように,外部の原因cause externaeを伴った悲しみです。つまり僕たちが憎しみを感じるということと,そのときに表象されている外部の原因が自分に悲しみを齎していると認識されるということは,それを感情affectusとしてみるか認識cognitioとしてみるかというだけの相違しかありません。よってAを憎むということはAを悲しみの原因として認識しているということであり,この定理に従えば,僕たちはAを忌避しまた破壊しようとする現実的本性を有しているということになります。これで第三部定理三九の前半部分は証明されています。
 ただしこのとき,Aを破壊することによってAを憎むこと以上の悲しみが自分に降りかかる,いい換えればAの存在以上の害悪を自分が被ると表象するなら,僕たちはAを忌避しまた破壊することを断念します。なぜなら小さな悲しみより大きな悲しみの方が避けるべき悲しみであるなら,大きな悲しみが到来することを忌避するのが僕たちの現実的本性であるということも,この第三部定理二八によって明らかだからです。
 なお第三部定理三九でいわれている愛amorについては,外部の原因を伴った喜びであるということから同じ仕方で証明できます。
コメント
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