漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

蜘蛛の家

2007年04月27日 | 読書録

 「蜘蛛の家」 ポール・ボウルズ著 四方田犬彦訳
 ポール・ボウルズ作品集Ⅳ 白水社刊

 を読了。

 それほど沢山の作品を読んでいるわけでもないが、ボウルズの作品には、いつでも絶大な信頼がある。僕にとってボウルズは、替えがきかない作家の一人だ。
 初めて読んだボウルズ作品は、人から勧められた「優雅な獲物」という短篇集。次が、映画化した「シェルタリング・スカイ」、そのあと「世界の真上で」(これは英語の勉強をかねて、ペーパーバックで読んだ)。それから、短篇集「遠い木霊」、そしてこの、ボウルズ最大の長編「蜘蛛の家」である。どの作品をとっても、乾いた、優雅なグロテスクさが影のように纏わりつく、魅惑的な作品ばかりだった。
 この「蜘蛛の家」は、モロッコの街と人に真正面から向き合おうとしている点、政治的な激動を描いている点などで、他の作品とはやや趣が違う。だが、やはりボウルズはボウルズだ。彼の語り口は、常に心地よい不安感を味わわせてくれる。そして、いつものような、突き放したようなラストまで、本を置く事ができなくなる。ボウルズは、いつも女性には辛辣な視点を持つが、だからといって、女性から支持を受けないといった作家ではないはずだ。
 この作品には、ウィリアム・バロウズから名前を取った、アメリカ人”女性”が登場する。以前、ボウルズに憧れてモロッコまで尋ねてきたバロウズに本を貸したところ、麻薬を打つときに跳ねた血で汚されて、酷く怒ったという話を聞いたことがある。そうしたエピソードを知っていると、ちょっと面白かったりもする。