漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

フランケンシュタインの子供

2017年11月29日 | 読書録

「フランケンシュタインの子供」 風間賢二編
角川ホラー文庫 角川書店

を読む。

 風間賢二さん編集による、「フランケンシュタインもの」のアンソロジー。全12編。
 メアリ・シェリーによるオリジナルの「フランケンシュタイン」という作品は、様々なアプローチが可能で、非常に現代文学的なテーマを内在しているとぼくは思っている。そういう意味では、もっといろいろなフランケンシュタインもののアンソロジーが出ていてもよさそうなのだが、いざ探すと、これというものが意外と見当たらない気がする。解説で風間さんも書いているけれど、「」フランケンシュタインテーマ」といえば大抵は人造人間テーマを指し、実は「フランケンシュタイン」というよりは、リラダンの「未来のイヴ」に近いことが多い。実際このアンソロジーに収録されている12の作品のうち、「新フランケンシュタイン」を始めとする少なくとも5編は、「未来のイヴ」直系であり、同じ物語のバリエーションであると思う。フランケンシュタインを「人造人間/ロボットもの」の元祖とする考え方も違うとは言わないけれども、ぼく自身の印象では、オリジナルの「フランケンシュタイン」はやや哲学的で、アイデンティティーの問題を扱い、文学性の高さに重きを置いており、むしろ「ドッペルゲンガーもの」、あるいは「ゾンビもの」に親和性が高い気もする。そういう点で、むしろ非常に現代文学的だと思うのだ。
 冒頭に収録されている、メアリ・シェリーの短編二編は、このアンソロジーの白眉だろうが、最初の「変身」はドッペルゲンガーもの、「よみがえった男」はゾンビものの、バリエーションであるという点は、「フランケンシュタイン」という作品の出自をよく表している。ちなみに「変身」は、自分中心的な男が財産を食いつぶした挙句、悪魔との取引によってしばらくの間身体を取り替えるが、結局そのことで自らの非を悟り、心を入れ替えるという話で、「よみがえった男」は、雪山で氷漬けになっていた男が100年の時を経て蘇るという物語である。メアリ・シェリーという人は、あまり知られてはいないが、「最後のひとり」という世界の終わりの物語を書いていたり、来年早々に彩流社から翻訳出版される予定の、近親相姦を扱った「マチルダ」という作品を書いていたりと、かなり興味深い人物。オリジナルの「フランケンシュタイン」が、名声の割に読まれていないという統計もあることだし、もう少し再評価が進んでもいい作家なのではないか。
 このアンソロジーに収録されている作品の中で、最もオリジナルのフランケンシュタインに近い味わいがあって、完成度も郡を抜いて高い作品は、おそらくラヴクラフトの名作「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」だと思うが、個人的には、他に面白かった作品を挙げるなら、ヴォネガットのシナリオ作品「不屈の精神」である。これは、死なせてもらえない老婦人のグロテスクな物語で、よく出来ていると思う。

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