唯識に学ぶ・誓喚の折々の記

私は、私の幸せを求めて、何故苦悩するのでしょうか。私の心の奥深くに潜む明と闇を読み解きたいと思っています。

第二能変  第二・ 二教六理証 その(15) 六理証 その(Ⅵ)

2012-03-19 22:55:29 | 心の構造について

 横道にそれますが、「無明」について『法相二巻抄』巻下に学んでみます。良遍は、

 「 而ドモ。我心ヲツカウ事不能。無明ノ迷ハ闇ノ如クニ暗ク。薩伽耶見ノ執ハ石ノ如クニ堅ケレバ。觀ズト云ヘドモ明ナラズ、久シカラズ。譬バ深キ闇ノ風ハゲシキニ。幽ナル燈ヲ以テ行ガ如シ。須臾ニシテ滅シ。闇昧ニシテ拙シ。何ニ況ヤ眼ヲ佛教ニヘダテ。生ヲ邊界ニ受ル輩ヲヤ。何ニ況ヤ地獄・鬼・畜ノ衆生ヲヤ。此故ニ無上大覺ノ種子。徒ニシヅミ埋レテ。現行ヲ生ズル事アタハズ。栴檀ノ種ノ土ノ中ニアリテ。サマザマノ草ノ穢シキ物ニ埋レテ。未ダ生出セザランガ如シ。」(大正71・118a)

 と述べています。現代語訳は『唯識とは何か』(横山紘一著・春秋社刊、p359~p360)を引用します。 (「しかしながら、自己の心でありながら自己の心を支配することができず、無明の迷いは闇のごとくに昧く、薩伽耶見による執着は石の如くに堅固であるから、(真理を)観ようとしても明らかに、しかも長く観ることができない。それはちょうど、深い暗闇のしかも風の烈しいなかを、かすかにともったたいまつを持って歩いて行くようなものである。たちまちに(たいまつの灯は)消えて、まっ暗やみとなり、どうしていいかわからなくなる。(仏教にふれている人でもそうであるのに)ましてや仏教に会う縁がなくて、辺境の地に生まれるひとびとはなおさらである。また、ましてや地獄・餓鬼・畜生のひとびともなおさらである。このゆえに無上大覚を生ずる種子は、いたずらに(阿頼耶識のなかに)沈み埋もれて、現行して生ずることができない。(香りある)栴檀の種子が土の中で、さまざまの草の臭い穢物に埋もれて、いまだ芽をふいていないようなものである。」)

 「伽陀に説けるが如し。「真義の心のみ当に生ずべきを、 常に能く為に障礙して、 一切の分に倶行す、 謂く不共無明ぞという。」(『論』第五・九左)と説かれる『論』の主張に呼応するように良遍は私たちに語りかけてきます。『論』はつづけて「是の故に契経に説かく。異生の類は、恒に長夜に処して、無明に盲(めし)いられ、惛酔して心を纏(まとわ)れ、曾って醒覚(せいかく)すること無しと云う。」(『論』第五・九左)と、その問いかけに答えていますが、良遍もまた、無上正覚を生ずる種子をもちながら、その種子が現行しないのか、という問に答えているのです。巧みな喩を引いて、我癡・我見という末那識相応の煩悩がその原因であると述べています。末那識は「四の煩悩と恒に倶なり」といわれているのですが、厳密には根本煩悩は無明である我癡と、我癡から生ずる我見(薩伽耶見)によって生死に流転し、菩提を得ることができない、と語りかけているのです。

 「下は正しく難を申す。小乗等の説かく」と。後は小乗への批判を行う。初は(小乗の説が)経に違することを述べる。

 「若し異生の位に暫くも此の無明を起さざる時有らば、便ち経の義に違しぬ。」(『論』第五・九左)

 (もし、異生の位に、しばらくでも、この無明を起こさない時があるならば、それはすなわち経典の内容に相違する。)

 経典の内容に相違するということは、異生の位には恒行不共無明が起こることを意味しているのです。この無明を起こさない時はないということを示唆しています。

 「論。若異生位至便違經義 述曰。下正申難。小乘等説經言恒者謂多分説。實理亦有不起時故。今以違教爲彼宗過」(大正43・410a)

 「述して曰く、下は正しく難を申す。小乗等の説かく、経に恒と言うは、謂く多分の説なり。実には理を以ては亦起こさざる時有りるが故に。今教に違するを以て彼の宗の過と為す。」(『述記』第五末・十七左)

 経に「恒」というのは多分によって言われるのであると。これは小乗の反論を想定して述べられているのです。小乗では恒というのは多分で解釈されているのである、と。多分とは長時という意味になります。時間的に長いので恒というのだというわけです。この場合には間断のないという意味ではありません。長時という意味ですから、間断する時もあるということを含意しています。そうであるならば、恒ということを以て長時を説明するときには、長時でない時には、異生は無漏智を起こしていることになり、経典の記述と相違することになる、と破斥しているのです。経典には「異生の類は、恒に長い夜に身をとどめ、智慧の眼は恒行不共無明のために閉ざされ、惛酔して恒行不共無明に心を纏われ、曾って醒覚することな無い」と述べられている内容に相違する、と述べられています。 

 

 


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