第三能変 別境 ・ 護法正義を述べる（２）

　第三能変　別境　・　護法正義を述べる（２）

　四境に対して別境が一つ・二つ・三つ・四つ・五つを起す場合がある、その総数は三十一種あるといわれます。先にその内訳を説明します。

1. 一つが生起する場合、　所楽の境に対しては欲の心所が起こり、乃至所観の境に対しては慧の心所が起こる。これは五通りあります。
2. 二つが倶起する場合、これは境が二つある場合について述べます。四境の中から二つを用いる組み合わせです。所楽と決定との境の組み合わせに於いては、欲と勝解を起す（１）。所楽と曾習との境の組み合わせに於いては、欲と念が起こる（２）。所楽と所観との境の組み合わせに於いては、欲と定が起こる（３）。所楽と所観との境の組み合わせにおいては、欲と慧が起こる（４）。このように所楽と他の一つの境との組み合わせは四通りになります。また次に決定の境と他の境との組み合わせは三通りになります。決定と曾習との境との組み合わせに於いては勝解と念が起こる（５）。決定と所観の境との組み合わせに於いては、勝解と定が起こる（６）。決定と所観との境の組み合わせに於いては、勝解と慧が起こる（７）。次は曾習と他の境との組み合わせは二通りになります。曾習と所観との境に於いては、念と定が起こる（８）。曾習と所観との境に於いては、念と慧が起こる（９）。次は所観の境との組み合わせになりますが、所観の境は二つの別境の心所の対象になりますので、一通りになります。一つで定と慧の二つが起こる（１０）、ということです。（これを十箇の二といわれています）
3. 三つが倶起する場合には、十通りあります。（十箇の三）即ち、所楽と決定と曾習の境との組み合わせに於いては、欲・勝解・念が起こる（１）。所楽と決定と所観との組み合わせに於いては、欲・勝解・定が起こる（２）。所楽と決定と所観との組み合わせに於いては、欲・勝解・慧が起こる（３）。所楽と曾習と所観との組み合わせに於いては、欲・念・定が起こる（４）。所楽と曾習と所観との組み合わせに於いては、欲・念・慧が起こる（５）。所楽と所観との組み合わせに於いては、欲・定・慧が起こる（６）。次は決定と曾習と所観との組み合わせに於いては、勝解・念・定が起こる（７）。決定と曾習と所観との組み合わせに於いては、勝解・念・慧が起こる（８）。決定と所観との組み合わせに於いては、勝解・定・慧が起こる（９）。次は曾習と所観とのくみ合わせです。念・定・慧が起こる（１０）。
4. 四つが倶起する場合には五通りになります。所楽と決定と曾習と所観との組み合わせに於いては、欲・勝解・念・定が起こる（１）。所楽と決定と曾習と所観との組み合わせに於いては、欲・勝解・念・慧が起こる（２）。所楽と決定と所観との組み合わせに於いては、欲・勝解・定慧が起こる（３）。所楽と曾習と所観との組み合わせに於いては、欲・念・定・慧が起こる（４）。決定と曾習と所観との組み合わせに於いては、勝解・念・定・慧が起こる（５）。
5. 次は総じて五の別境の心所が倶起する場合。一通りですね。

　この総数が三十一種になるわけですね。五の別境に於いて三十一の生起の仕方があるということです。この理由に由って、別境の五は、有部の教学である、十大地法に説かれる遍行の十の中に摂められるものではないと論破しているのです。

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　「或いは所観の於に唯専注のみを起す。謂く愚昧の類いい散心を止めんが為に所縁に専注すと雖も、而も簡択すること能わず、共に、彼は定のみ有って慧無しと知れり」（『論』）

　ここは（１）の四の境（所観の境）について述べています。「四の境の於に唯専注にみを起す。問。定と慧とは境同なるを以て二必ず倶に有るべし。何ぞ別に生ずることを得るや。答。謂く愚昧の類の極めて愚癡なるは、麤動の心を摂斂せんと欲する為の故に。専注して念を繋ぐとも、諸法の道理を簡択すること有るに非ず。但だ、眉間等を縁じて心を住すること学す。此の時の中に於て、都て慧有ること無し。世間の人皆共に彼は定のみ有って慧無しと知り。若しは爾らば此の境を何ぞ所観と名づくる。所観の言は慧の境なるが故に、本論に定は所観を縁ずという、必ず慧の境なるを以ての故に」（『述記』）

　所観の境に対してはただ定のみを起す。その他の別境の心所は生起しない。ここに問いが立てられています。所観の境は定と慧が共有するものであるので、この二は倶に活動するものではないのか、というものです。この問いに対して、定と慧は同一の境をとりながら、別々に生起するのであると、説明されます。　（未完）