カティンの森事件については、高校の世界史の授業で触れられたけれど、その時はただ第二次世界大戦中に起きた事件ということしか学習しなかったような気がする。捕えられたポーランド人捕虜がソ連の内務人民委員部(NKVD)によって銃殺された事件、とはその当時は知らなかった。冷戦終結後、ゴルバチョフが初めて公式にソ連の仕業と認めたんだと友人が教えてくれたが、それは1990年のことだった。
自身の父親もカティンの森事件の犠牲者の一人であったというワイダ監督の手になるこの作品は戦争の残酷、悲惨、不条理etc.etcを目の前に恐ろしいまでに率直に暴き、曝け出させる。拭うことのできない悲しみ、戦争によって狂わされるその後の人生。そして何より戦争後のポーランドを再生させ担っていくはずであった知識層にあった人々がここで虐殺されたことで大戦後のソ連支配に組み込まれ(まさにそれこそがスターリンの狙いであったのかと思わされるのだが)そしてカティンについて語ることさえ禁じられてしまうような国家体制にさせられてしまったポーランドの悲劇に慄然とする。
様々なシーンが記憶に残ったが、特に深く刻まれたのは捕虜収容所でのクリスマスの日に大将が一緒に囚われているポーランド人捕虜に呼びかけるシーン「・・・生き延びてくれ。君たちなしで自由な祖国はあり得ない・・・」という彼の言葉とその後に続く荘厳な歌詞の歌が全員の歌う男声大合唱になるところ。忘れられないシーンだった。
友人にあの歌は国歌なの?と聞いたら、あれはポーランドで古くから(18世紀)歌われているクリスマス・キャロルの中でも最も愛されている神の生誕を祝うキャロル『Bóg się rodzi』(英語: God is born)だと教えてくれた。