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農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(2)

2024-06-26 17:35:56 | 社会問題
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(2)
家族農業と小規模農業そしてFood Loss とFood Waste、それぞれを明確に定義し区分けし、そして世界の農業およびFood LossとFood Wasteの実態を考える

前回、農業問題を通して世界の潮流を考える、との表題で国連主導の「家族農業の10年」運動の話題を提供しました。

今回は第2回目になりますが、まずは表題を少し膨らませてみました。
理由は、農業という重要な問題をトータルに考えると、入り口の『農業』だけでなく、付随する、食べるという『食』の問題・課題も同様に重要なものとして存在しており、表題が『農業』だけでは不充分と考え『食』も表題に加えた次第です。

今後、様々な視点から「農業と食」絡みの我々が直面する課題に、光をあてたいと考えます。

問題・課題が多彩であり、また数多くあることから、話の順序や統一感や公平・公正感に懸念が出る恐れがあると考えております。この点をご了解ください。

統一感や公平・公正感に懸念が出る恐れを思う理由は、以前紹介したAGRA対AFSAの状況を思い出してもらえば容易に理解頂けると思います。

即ち、『農業と食』という問題課題を考えていく際に土台になる情報には、AGRA的情報とそれに対するAFSA的LaViaCampesina的情報が拠り所となります。

ここでAGRA的情報とは、『大規模な単一種栽培を指向し、肥料・農薬・種子メジャーらが支え、ビル&メリンダ・ゲーツ慈善基金らが応援し、世界銀行やアフリカ開発銀行の指導の下、アフリカの各国政府が取り組んでいる実態であり、従ってこのAGRA型農業システムに関わるステークホルダーはふんだんにあり、しかもそれぞれ力が強い所からの発信である。彼ら推奨の農業システムの実態を紹介する情報はふんだんで、詳細・精密を極めてその上、ある意味説得力ある主張が為されているのである。
【ここに、narrative言説・物語等の市民を誤誘導する強者側の1つの武器が見えている】

これに対してAFSA的情報に関しては、AGRA型で見られる応援団体・支援団体・多国籍巨大企業や各国政府の力の提供が殆どないことから、AFSA型農業の実態を紹介している情報の量と質に大きな期待が出来ないというハンデが、そもそも存在している。
そしてAFSAやLaViaCampesinaが力を注ぐ相手のアフリカの小規模農家(アフリカという条件を付ければ小規模農家イコール家族農家となるだろう)の実態は、当該国家・政府・行政自体からしても完全に実態を把握しきれていないのが実情である、という。

よってAFSA型の状況を、AGRAと同等に捉えること自体が困難であり、現在我々の眼前に出ている情報を頼りに『農業と食』という重大事項を考えて行く場合には、情報の質と量および迫力に差があるということを、先ずは認識しておくことが必要だと考える。

世界の『農業と食』に関して、少なくとも2つの大きく対立した考え方が存在していると思う。それら双方を平等に取り扱い、検討を行いたい思いはあるものの、入手できる情報自体にそもそもギャップがある状況下での比較検討になると感じている。

第2回目の本題に入ります。

第1回目に、国連の主導する「家族農業の10年」の紹介をしました。その紹介の中で、「家族農業」と共に「小規模農業」という言葉がふんだんに使われています。
しかもその二つを同列として扱い、同じ意味を持つ相互に交換可能なものであると、思わせるような表現が為されておりました。

その該当部分を抜き出すと、
○『国連では家族農業と小規模農業をほぼ同義語と把握しており、基本的には「家族農業・小規模農業」として包括的に使われている』としており、国連自体が「家族農業」と「小規模農業」を同義語扱いにしている。
○『労働力の過半を家族労働でまかなう農業漁業と定義される家族農業(即ちFAOの考えでは小規模農業とも置き換え可能)はFAOの調べで世界の農業経営組織の90%を占め、食糧生産規模的には80%を担っている』。

この国連FAOの「家族農業」と「小規模農業」についての認識および小規模農業が80%に達する食糧生産規模を持っていると思わせる記述の故に、様々な人が様々な議論をこのFAOの主張をもとに展開している状況がある。
が、しかし実はここに間違いがあるとする報告があり、今回は先ずその紹介から始めたい。

出典は、「小規模農家は世界の食料の1/3を生産しており、多くの論説が主張する生産割合の半分以下が実態である(Smallholders produce one-third of the world’s food, less than half of what many headlines claim.)」 Our World in Data 2021年 8月6日 Hannah Ritchie氏記す

Ritchie氏の情報の要点のみを記します。

世界の大半の農家は、小規模耕地栽培者(smallholders)。彼らは往々にして最も貧困状況にある。世界の食糧生産において、彼ら小規模耕地栽培者はどの位の貢献を果たしているだろうか?

『小規模耕地栽培者らは世界の食糧総生産量の70%を、なかには80%を生産している』と、時に報告されている。これらの主張は、国連FAOによっても為されており、この主張をもとに農業や開発の政策が組み立てられているのである。

しかし、この主張は間違っている。最近の研究によると、この70~80%という数値は高すぎであって、実態は世界食糧総生産量の約1/3であり、今までの推計の半分以下なのである。

指摘されている最近の研究結果(Vincent Ricciardi氏らのGlobal Food Security, 17,64-72,2018年)を示すと次のようになる。

農家の耕地面積規模ごとに対応する食糧生産量のデータ:
【耕地2ha未満の小規模農家】
世界の耕地面積に占める割合:24%
世界の総生産量に占める割合:29%
【耕地2ha以上20haまでの農家】
世界の耕地面積に占める割合:25%
世界の総生産量に占める割合:25%
【耕地20ha以上1000haまでの農家】
世界の耕地面積に占める割合:39%
世界の総生産量に占める割合:41%

即ち、小規模農家(耕地面積2ha未満)の世界の総生産量に占める割合は29%である。

また家族農業という観点で括ると、耕地2ha未満の小規模農家に加えて、耕地2ha以上1000haまでの下の2つの階層のかなりの部分まで網羅しているのが実態であり、家族農業の世界の総生産量に占める割合は70~80%となるのである。

何故この食い違いが出てきたかの理由は、「家族農業、family farms」と「小規模農業、smallholder farms」との2つの言葉をそれぞれ厳密に定義し、区別して使うことが行われておらず、時に混乱していたことが原因なのである。

「家族農業」の耕地面積には1haや2haといった制約はなく、それ以上に大きい様々な耕地面積で、「家族農業」事業者らは耕作を展開しているのであり、「家族農業」と「小規模農業」とがイコールだとの先入観が間違いだったのである。【世界の5.7億の農家の84%(4.8億)を占める「小規模農業」の耕作面積は2ha未満という制約が条件とされている】

権威ある国連FAOが提供している基礎データ資料の見方・読み方・捉え方次第で、実態の認識に大きな違いが起こることがあり得る、ということを示す例であり、今後『農業と食』の問題を議論していく際に、使用する用語の定義・意味を厳密に捉えておくことが極めて重要であり、必要なことである、ということを示す事例と考えます。
定義と意味するところに注意を必要とする『農業と食』に関する別の言葉に、『Food Loss』と『Food Waste』があると思う。

まずSDGsの12番目の目標を読んでみます。SDGs12.3は、原文で次になる。
「By 2030, halve per capita global food waste at the retail and consumer levels and reduce food losses along production and supply chains, including post-harvest losses」
外務省訳は、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」。
「food waste」を「食料の廃棄」に、「food losses」を「食料の損失」と訳している。

上記のSDGs12.3の原文と和訳を正確に捉えるのは、殊に「waste」と「losses」の正確な違いを意識せずに読んだ場合難しさがある、と思います。
そして先の「家族農業」と「小規模農業」と同様に、「waste」と「losses」との組み合わせも、ほぼイコールであり、相互に交換できる、と捉えてしまう可能性が大いにあります。しかし「waste」と「losses」との組み合わせにも、厳密にそれぞれが定義され、区別されているのです。
従って、SDGs12.3の原文と和訳を正確に理解し読み取るには、これら「waste」と「losses」の定義を知っておくことが求められる訳です。

『農業と食』という、我々にとって非常に大切な問題(例えば世界で6.9億人もの人々が飢えに苦しむ中、毎年13億トンもの食べ物が無駄に捨てられているという我々に突き付けられている課題)を考えていくことは非常に重要なことであり、よってこの違いを心得ておくことが必要となる訳です。

では「food waste」と「food losses」の定義と違いを紹介し、その上で食べ物が無駄に捨てられている話題についての情報の紹介に移ります。
参考とした情報は2つ。

一つ目は、『Food LossとFood Wasteとの違い(What is the Difference Between Food Loss and Food Waste?)』PopulationEducation.org,2020年9月29日、Andrea Moran氏記す。
二つ目は、『ReFEDが新たな食品廃棄物推定値を発表し、食品システムによる対策強化を呼びかける(ReFED Releases New Food Waste Estimates and Calls for Increase Action by Food System) Refed.org,2023年4月19日。

『Food Loss』と『Food Waste』の定義と違いについては、一つ目の情報からになります。

2つの用語の定義と意味するところの違いを理解することは、実は簡単です。
必要なことは、食べ物が生まれ、様々な過程を経て最終的に人々に食べられるまでに辿る食べ物の道筋を想定して、ある段階までに廃棄されるものを『food losses』とし、それ以降は『food waste』とする、ということになります。

境目は、農業や漁業の現場で生産され、次いで様々な加工業者の手による加工作業を経て商品となり、次いで配送流通業者が様々な小売店販売店レストラン飲食店等のフードサービス業者らに食品を配送し、以降小売店販売店レストラン飲食店等のフードサービス業者らを通じて消費者が食品を入手し消費していくという食べ物が辿る工程において、『配送業者』と『販売業者・フードサービス業者ら』との間に、今考えている切れ目がある、とするということです。

換言すると、農業漁業生産者と加工業者・輸送業者らが責任を持っている部分から出てくる廃棄物が『Food Losses』とされ、販売店やフードサービス業者や消費者らが責任を持っている部分から出てくる廃棄物は『Food Waste』とする、ということです。

『Food Losses』と『Food Waste』に対応する日本語は、政府が使う言葉、即ちlossesを『損失』、wasteを『廃棄』を基本に今後取り扱っていくことを考えています。

この定義を踏まえて、再度SDGs12.3を読んでみると、国連の目標がよりはっきりと捉えられると思います。

『農業と食』という重要な課題のいろいろな面を今後考えていく予定ですが、先ずは食べ物の『losses、損失』と『waste、廃棄』に関わる話題を更に紹介してみます。

ReFEDからの情報になります。因みにReFEDという組織は2015年に設立されているアメリカ国内の食料の無駄の削減を目指す非営利団体ということです。30社以上の企業・非営利団体・基金・行政府主導者らが参加しています。要点だけの紹介です。

ReFEDによると、2021年にアメリカでは9100万トンの「余剰食品」が発生していた。
【余剰食品(surplus food)とは、栽培農地から始まり、加工場・販売店を経て消費者へと繋がる食品サプライチェーンにおいて、売れ残ったり・食べられなかったものを指す】

この量はアメリカの食料供給量の38%分に相当し、年間温室効果ガス排出量の約6%に相当するという。余剰食品の約50%は家庭からのものであり、20%はフードサービス事業者からのものである(即ち70%はFood Waste食品の廃棄分と分類される)。

「余剰食品」が存在することで、発生する問題はGHG排出だけではない。例えば淡水の22%及び耕作地の16%の無駄も付随しているのであり、また「余剰食品」の栽培・収穫・輸送・冷却・調理そして最終的な廃棄に要する費用も発生するのである。
ReFEDの分析によると、「余剰食品」の経済価値は2021年分として4440億ドル(アメリカのGDPの約2%に相当)。

そしてこの「余剰食品」の量は、1490億食分に達するという(ほぼ全ての日本人が、日に3度の食事が出来、1年間続けられる量。世界で飢えに苦しむ8億人の人々に2日に一回食事を提供できる量でもある)膨大な量なのである。

ReFEDの事務局長のダナ・ガンダースさんは、「食品廃棄量の削減が進んでいることが確認できる分析結果を期待していたが、残念ながら2019年と比較してほぼ同じレベルと確認されている」として、「食品システムに関与する人々が、さらに真剣に取り組み、成果が期待される取り組み方へと変更を行っていくことが重要だ」と指摘している。

ReFEDの報告では、食品廃棄に関わる問題のパラメーターが詳細に説明されている。そして食品廃棄課題解決に関わる42種のモデル化を試みており、どのモデルが食品サプライチェーンにおけるそれぞれの事業分野に対して最も効果的にFood LossとFood Wasteを削減できるか、を求めようとしている。

これらの解決策を全ての領域において実践していくには、年間約180億ドルのコストがかかると見られる。しかし、この実践を行うことができれば、その経済的利益は740億ドルが見込まれ、コストの4倍の利益になると予測される。その上に、毎年1.09億トンのGHG排出削減が出来、6兆ガロン(約270億トンの水)の淡水節約ができ、そして10年間に6万人の新規雇用が期待できるという。

これら解決モデルを積極的に導入すれば、余剰食品の2100万トン(23%に相当)が削減できることになると見積もっている。

以上、食べ物の損失と廃棄の現状をアメリカの事例から見た情報を紹介しましたが、現状の大きな課題は、Food LossとFood Wasteとの状況を適切にモニターするという、『食べ物の無駄の見える化』システムが出来ていない・用意されていない点であると思います。ReFEDの事務局長のダナ・ガンダースさんも指摘しているように、無駄の削減の兆候が認められていない要因の一つはこの辺りになると思っています。

『見える化』が為されれば、より効果的な削減プランやアイデアは自ずと出てくるのではとも思います。

もう一つのポイントは、アフリカや中南米・アジアに散在している5億世帯にも達する小規模農家の活動や彼らが置かれている状況にもっと光を当てることが大切な視点だと思っております。彼らへの注目を拡大していけば世界の『農業と食』に関する課題の解決策は自ずと出てくるのではと思っております。

次に続きます。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
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