非国民通信

ノーモア・コイズミ

試金石

2010-04-24 23:02:40 | ニュース

あしなが募金に理解を 高校無償化… 育英会が影響懸念 (産経新聞)

 ■奨学生、授業料以外の支払い困難

 交通事故や病気で親を亡くした遺児たちの進学資金支援を目的とした「あしなが学生募金」が、24日から全国で行われる春の活動で40周年、通算80回を迎える。一方、主催する「あしなが育英会」(東京)では、今回は高校授業料無償化の影響で募金が減るのではないかと心配している。授業料以外にもさまざまな教育費が必要になるにもかかわらず「募金はもう必要ないのでは」という声も寄せられているといい、担当者は「引き続き必要だということを理解してほしい」と呼びかけている。

 あしなが学生募金は、昭和45年に前身の「秋田大学祭募金」として行われて以降、年2回のペースで続けられてきた。近年は不況の影響が心配されたが、平成21年度の募金額は18年度の1・2倍となる3億6275万円。一方、21年度の奨学金申請者数は、18年度より239人多い2819人に達した。

 40年間の募金総額は約91億円で、延べ約8万人の遺児の進学を助けてきた。だが、高校授業料無償化の政策が具体化するとともに、あしなが育英会には寄付の必要性を疑問視する声や、支援者から「無償化を機に辞退したい」という連絡が寄せられているという。

 同会によると、奨学金を受けている遺児世帯の約6割は、すでに授業料免除の措置を受けており、無償化の直接的な恩恵はない。一方、教育費としては授業料以外にも、通学定期代や教材費、修学旅行の積立金などさまざまな費用が必要となる。文部科学省の平成20年度調査によると、授業料以外に必要な教育費は、公立高生で年間平均約25万円、私立高生で約47万円にのぼるという。

 「授業料が減免されている家庭では、授業料以外の費用の支払いが困難なため、奨学金を受けている。無償化になってもこれまでと現状は変わらない」と、同会の工藤長彦理事。「制度自体がきちんと理解されないまま、無償化という言葉だけが先走りしているのではないか」と懸念する。

 高校「授業料」無償化に関しては、元から授業料免除の対象になるような貧困世帯には恩恵がないと以前より指摘がありました。高校が実質的に義務教育化している(最低でも高卒でないと就業面で著しく不利になる)ことを鑑みれば、高等教育の無償化は当然のことと言えますが、貧困層への就学支援としては無償化とは別の対策が求められます。しかるに「無償化」というイメージが一人歩きした結果として「募金(奨学金)はもう必要ないのでは」という声も寄せられているそうです。

 日本以外の、高等教育が実質的に無償化されている国では似たようなことが起こっているのでしょうか? 国によって多少の差はあれ、概ね日本よりも奨学金制度が充実している、金額が大きい、貰いやすい、貸与ではなく給付が多いとも聞きます。高等教育の授業料負担が軽いだけでなく奨学金制度も整っている国がある一方で、日本では授業料が無償化された途端に奨学金への支援が途絶えるとしたら、たぶん美しい国ならではの何か特殊な事情があるのでしょう。

 最近、局所的にベーシックインカムの話題が盛り上がったそうです。政府が全ての国民に対して毎月最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で支給するという構想ですね。アイデア自体は悪くないですし、麻生内閣時代の定額給付や現政権の子ども手当がベーシックインカムに発展していったら面白いなとも思ったものです。しかし、今回の授業料無償化とあしなが育英会のエピソードを見ると、日本でベーシックインカムが機能するには色々と課題があるように感じます。

 冒頭に引用した例からもわかるように、授業料の無償化だけでは不足する人がいる、授業料以外の面でも援助が必要な人がいるにもかかわらず、一律の授業料無償化だけで就学支援が打ち切られてしまうと、かえって経済的な事情による落伍者を増やすばかりです。同様にベーシックインカムによる給付分だけでは不足する人もいるのではないでしょうか。つまり、自身もしくは家族が障害や疾病を抱えている場合など、最低限の生活費用だけではなく医療などプラスアルファの費用が必要になる人もいるわけです。しかるに社会保障相当分が全てベーシックインカムによる一律給付で賄われるとなったらどうでしょう? ベーシックインカムによる給付が増えても、それと入れ替わりで社会的弱者向けの保障が打ち切られてしまうと、むしろセーフティネットからこぼれ落ちる人の数は増える可能性が出てきます。

 ベーシックインカムは国民(対象は住民にまで広げられるべきですね)の当然の権利であり、それとは別に社会的弱者への個別の保障が必要だと見なされる社会であればベーシックインカムも機能するのでしょう。しかしベーシックインカムさえ給付すればその他の社会保障が「もう必要ないのでは」と思われてしまうような社会では、ベーシックインカムは福祉の否定、社会的弱者の切り捨ての役割を果たします。そこで今回の授業料無償化は、日本社会の試金石となっているのかもしれません。授業料が無償化されたのだから「募金はもう必要ないのでは」と考える人が多数に上る(結果として貧困層の就学機会が狭められる)ようであれば、日本社会には一律給付型の社会保障は向いていないと考えられます。むしろ一律の保障によって「手打ち」を行い、一律の保障では網から漏れる弱者を見捨てることになるのですから。

 

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<あしなが学生募金>あすスタート 遺児の進学、就職「八方ふさがり」(毎日新聞)

 学生募金は70年に始まり今年で40周年を迎えた。あしなが育英会が今年2月、同会の奨学金を利用する高校3年生(1036人)の進路を調査したところ、大学・短大への進学率は41・2%で、前年同期の3年生に比べ9・3ポイント下がったことが分かった。就職率も23・5%で前年より4・3ポイント下がった一方、進路未定者の割合は8・4%で前年の1・9%から大幅に上昇した。


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3 コメント

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授業料以外にも金がかかる (ヒイロ)
2010-04-25 14:53:13
制服代とか教科書代とか修学旅行費で親に金を出させたクチでした。「制服や教科書あたりは上級生からの譲渡が出来ないのか」と今としては、浅はかな考えですが、当時は疑問に思いました。
そんなことがあり、「授業料の無償化」には簡単には喜べません。
育英会などの奨学金制度は存続され且つ資本を提供されて然るべきことです。奨学金が必要な人を悪し様に言う資格は誰にもないはずで。
それにも関わらず多面的に考えられない人は、と思います。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-04-25 18:56:36
>ヒイロさん

 授業料「以外」の学費は結構な金額に上りますよね。制服にしろ教科書にしろ、そして小中学校の給食費や修学旅行の積立金など、実質的に強制であって選択の余地がないものが有償である限り、現行の「無償化」とは甚だ中途半端なものでしかありませんから。しかるにこの中途半端な無償化で就学支援が打ち切られてしまうとなれば、貧困家庭は教育を諦めざるを得なくなってしまいます。
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訂正箇所 (やか)
2011-01-31 01:49:08
高等学校は高等教育ではなく、中等教育です。
名前が似ているので紛らわしいですが…
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