非国民通信

ノーモア・コイズミ

7割じゃ収まらないと思う

2008-11-03 22:02:53 | ニュース

派遣労働者:製造業の7割「消極的理由で」--NPO調査(毎日新聞)

 製造業で働く派遣労働者の70%以上が「正社員になれなかった」などの消極的理由で派遣を選んでいることが、製造業で働く非正規労働者で作るNPO法人「ガテン系連帯」(東京都)の調査で分かった。

 7~9月、東京や京都など11都府県にある自動車、電機、食品などの製造工場などで派遣労働者243人から聞き取った。

 その結果、全体の71%、173人が「正社員になれなかった」「地元で職がなかった」など消極的理由で選んだと回答。「さまざまな仕事ができる」「好きな時に働ける」といった理由で積極的に選んだ人は23%にとどまった。

 また、派遣労働者として働くことについて、全体の75%、182人が「いつ解雇されるか分からない」「将来の見通しが立たない」などと不安を抱いていた。

 派遣労働者の70%以上が消極的な理由で派遣労働者になった――派遣労働者になるしかなかったそうです。これ、本文には書かれていませんが性別や年齢、世帯の収入は問わずに集計した結果ですよね。調査対象が240人程度と少ないだけに、これをさらに分類すると全体の傾向よりも調査対象者の「個性」が色濃く出てしまうのかも知れませんけれど、もっと掘り下げてみれば70%どころか90%以上の回答者が「消極的な理由」を挙げるような気がします。

 「好きな時に働ける」などの積極的な理由で派遣労働者の道を選んだ人が20%程確認されたわけですが、このように回答する人はどのような層なのか、そこを考えてみる必要があります。推察するにそれは、自分一人で家計を支えなくても済む人、自分の小遣いなり家計の補助なり、そういうレベルでの収入を求めている人ではないでしょうか。積極的な理由で派遣労働を選べた理由は、収入の確保よりも「好きな時に働ける」ことに優先順位があったからと考えられます。学生だったり、配偶者に十分な収入のある人などがそうですね。

 逆に言えば、自分の収入で世帯(一人でも)を支える必要に迫られている人で、積極的に派遣労働を選んだ人がどれだけいるのか、そこまで踏み込んでみると、とても70%には止まらない結果が出てくる気がするのです。まぁ物事を単純化して「正社員か派遣社員か」みたいな選択になってしまうと、「1時間当りの給与はバイト以下」の名ばかり正社員の座に押し込まれたりする危険性もあるわけですが。

 新しい問題には注目度も多少は高いですが、昔からある問題には社会も鈍感です。ここで取り沙汰されているのは派遣――ブルーカラーの派遣労働者ですが、アルバイト、もっと言うなら「パート」の場合はどうなのでしょうか? 雇用形態はアルバイトと同じなのに、アルバイトやフリーターとは呼ばれず「パート」と呼ばれる人々はどうだったのでしょう? 派遣社員の待遇の悪さは(有効な解決策が打ち出されていないとはいえ)それなりの注目を集めている一方で、いわゆる「パート」の低賃金が問題視される機会は格段に少ないものでした。その賃金は低いもの、低いままで構わないものという社会的な合意があるかのように……

 「パート」の多くを占めていたのが、自身の収入だけで世帯を支える必要のない、あくまで家計補助的な労働者であったならば、パート従事者にとっては収入もさることながら「好きな時に働ける」ことの方が重要になります。そうであるならパート労働者からの待遇改善要求も切迫したものにはなりにくいでしょうし、周囲もパート労働者の低賃金をさしたる問題ではないとばかりに注視してこなかった、結果として格差も放置されてきたわけです。ところが、この「パート」的な待遇の適用範囲が、働く人の望むところを超えて拡大しているのが昨今でもあるとしたら、どうなのでしょうか?

 家父長的なものを「標準」とする社会ですと、世帯主=父親の雇用や待遇は重視されますが、女性の労働はあくまで補助的なもの「+α」「おまけ」ぐらいにしか扱われず、その賃金格差は看過されてきました。ところが諸々の要因で、従来は「女性の仕事」と見なされてきたものに男性が参入する必要が出てくると途端に問題は顕在化します。例えば職業としての「介護」がそうですね。かつて女性の仕事と見なされてきたものは賃金が低く据え置かれたまま放置されてきたわけですが、いずれ男性もそこに参入せざるを得なくなってくる、そうなって初めて待遇の悪さが問題として表面化するものの、気付いたときには既に泥沼の中……

 そこまで極端ではなくとも、非正規雇用とはあくまで主婦や学生向けの補助的なもの、だから低賃金でも構わないと格差を放置してきた結果が今の派遣労働者の待遇にも少なからず繋がっています。今や非正規雇用と言っても決して家計補助的な労働者ばかりではなく、自身の収入で世帯を支えなければならない人々が多数派を占めるに至るわけですが、非正規雇用に対する扱いが変わるには、もっと長い時間が掛かるでしょう。一方「俺が一番かわいそうなんだ」とばかりに、(例えば派遣社員やフリーターなどの)自分が属する集団の待遇改善を主張しながら、一方で自分がそこには属さない社会的弱者(例えば女性、障害者、外国人など)への差別的取り扱いには無関心どころか、それを肯定するような人もいます。でも女性の仕事、外国人の仕事と思っていたものを、自分達がやらなければならなくなる日は遠からずやってくるわけで、そうなったときに手痛いしっぺ返しを受ける――というより、既に受けているのが今なのではないかという気がするのです。

 

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6 コメント

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管理人さんのご意見に同感です (Bill McCreary)
2008-11-03 22:38:48
常識的に考えて、給料、身分保障その他の問題から考えても、積極的に派遣労働者になる人が2割強というのは多すぎる数字ですね。自分だけで食っていかなければならない立場の人間だったら、そんなにのんきなことは言っていられないはずです。

>ところが、この「パート」的な待遇の適用範囲が、働く人の望むところを超えて拡大しているのが昨今でもあるとしたら、どうなのでしょうか?

このご指摘が、まさに本質を鋭く貫いていると思います。他人事とほっておくととんでもないことになる。それは低学歴者の話だ、女性の話だ、外国人の話だ・・・なんて甘く見ていると自分がその立場になる。雇用に限らず世の中その繰り返しだとも言えそうです。極端な例を挙げれば、ナチスや戦前の日本も、はじめは「自分はユダヤ人ではない」「共産主義者ではない」とか考えていた人が少なくなかったわけですからね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2008-11-03 23:51:07
>Bill McCrearyさん

 書かれてはいませんが、積極的に派遣になったと回答した人の大半は家計補助的な働き方の人で、自分の収入だけで暮らしている人の9割以上は、消極的な理由から派遣として働かざるを得ない人だと思うのですよね。一方で昔からあった「正社員」と「パート」の是正されていない格差が、今の派遣社員にも適用されているわけで、格差や貧困は自分だけの問題では済まされない、他人の権利を守ることも自分の権利を守ることに繋がっているのだと、そんな理解が広がってくれればと常々。
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批准だけはしていたのですね (kurosuke)
2008-11-04 00:44:16
パートで働いていた主婦の知人から、年収を配偶者控除が受けられる100万円以内に抑えないといけないと聞いたのはもうずいぶん前でした。夫がまともに働いていてさえくれれば、家事育児もこなさなければならない主婦の立場としては、賃金は低くとも日中の短時間の拘束ですむパートはそれなりに魅力のある働き方ではあったようです。

でも今はどうなんでしょう?夫の収入も必ずしも当てにはならない、あるいは結婚生活自体が破綻していたら、これまでのパート労働の賃金ではとても厳しいでしょう。実際に子供を抱えて離婚した女性が昼夜掛け持ちで働いているというのもよく聞く話です。

同一労働同一賃金の実現については、日本ではそれについての条約をとうに批准しているにもかかわらず、

 同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約(第100号)
(日本は1967年8月24日批准)

その実効がならないので、国際労働機関(ILO)から再三勧告を受けているそうです。

「いずれかの国が人道的な労働条件を採用しないことは、自国における労働条件の改善を希望する他の国の障害となる」(ILO憲章)
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Unknown (BR-S)
2008-11-04 03:08:32
「今、社会を自由形で泳ぐ奴らがいる!!」
以前私が見た90年代初頭の雑誌にはこんな文句が踊っていました。公務員になりたがる者などおらず、正社員は皆いわゆる社畜であり、フリーターがとても素敵なものだと認識されていた時代は確かにあったのです。実際、同時期に独立独歩のバイク便で月に60-70万稼いでいた、という人がいました。今でもある年齢よりも上の世代においては、この頃にまき散らされた「義務や責任から逃避できる」といったイメージに囚われたままの人々が確実に存在しています(この場合は雇用する側ではなく、フリーターや派遣労働者自身の側の事になります)。

個人的には正社員か派遣か、というよりも、労働をも含めたありとあらゆる事柄の価値や代価が下がってきている事が問題なのだと思います。別に韓国や中国の企業と競争しているわけでもなく、既に他の店が追いつけない状態なのに鉄道模型を35%引きで売るのが常態化し、売れ残ると半年後に半額かそれ以下で投げ売りする某模型店ですとか。
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Unknown (kensyou-R)
2008-11-04 22:49:04
結局の所、昨今の労働環境の劣化は労働者自体の主体性の無さが一番大きいと言わざるを得ません。

マスコミやTVによる「労働組合は悪」というミスリード(これには当然経営者側の強烈な後押しがあった訳ですがね、CM料という形で・・・。)

殆どの国民が「労働組合は悪」というミスリードに溜飲を下げていたら気が付けば自分自身の労働条件及び労働環境を破壊されていた訳です。

で、その時になって失策に気づいてもその時は既に労働者自体が度重なる分断工作によって弱体化した挙句
、正当な要求すら「悪」のレッテルを貼られる始末です。

正直、今の労働者はもう少し「要求」や「交渉」の意義を問い直すべきだと思いますね。

会社ばかり繁栄した所でそこで働く労働者が使い捨てにされる様なら存在意義が無いですからね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2008-11-04 23:30:46
>kurosukeさん

 年収を100万以内に抑えようとするのは、それがあくまで「補助」だからこその発想ですよね。「補助」であるためにはむしろ低賃金の方が労使双方に好ましいとばかりに均等待遇から背を向けてきたわけですが、そういう働き方ばかりではなくなってきている今、放置されてきた問題に火が付いたとも言えるでしょう。しかしまぁ、条約批准は40年前まで遡りますか、問題を解決する意思のなさが窺われますね……

>BR-Sさん

 そういう時代もありましたね、昔の人生ゲームなど見てみますと「公務員」はハズレ扱いだったり。今や昔ですが、そういう時代のフリーター観を否定的な意味で持ち続けている世代の存在もまた問題から目を逸らすのに一役買っているのでしょうか。

>kensyou-Rさん

 労働者自身の選択として、こうなった観も否定できないところはありますね。労組など労働環境を守ろうとする人々、運動へのネガティヴなイメージを受け容れたのもまた労働者である国民ですから。自分自身のために何かを要求することが「モンスター~」「ごね得」などと誹りを受けることがなくならないといけません。
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