非国民通信

ノーモア・コイズミ

世論と世論に阿る人

2008-02-01 23:26:47 | ニュース

死刑制度、世論が支持=鳩山法相 (時事通信)

 鳩山邦夫法相は1日午後の参院予算委員会で、国連が昨年12月に死刑執行の停止を求める決議を採択したことに関し「それぞれの国に考え方や世論がある。わが国は凶悪犯罪に厳しく当たるべきだというのが世論の大勢だ」と述べ、死刑制度は国民に支持されているとの認識を示した。社民党の福島瑞穂党首への答弁。 

 そうですねぇ、たしかに「わが国」では世論の支持があるでしょうか。それぞれの国に考え方があるそうで、アメリカ、中国、北朝鮮、そして日本の教育を高く評価しているという中東諸国ではまだまだ根強い人気があるようです。お互い相通じるところが、似通ったところがあるのでしょう。より詳しく言えば、アメリカ全体で執行された死刑の6割をたった一つの州で執行しているテキサス州民に、そして民主的ではない中国や北朝鮮の政府、中東の王族やアフリカの軍事独裁政権の指導者に日本人は考え方が似ている、と。

 とりあえずこの場合に指摘すべきは、世論の支持があれば許されるのか、と言うことです。なるほど「ユダヤ」の虐殺にも世論の支持はありましたし、人種差別も長い間、世論の支持がありました(日本では今なおそうでしょうか)。後世には蛮行と非難されるような事柄も、その当時はむしろ誇らしげに行われるものです。世論を言い訳に使う法相もアレですが、その世論にどこまで正当性があるのでしょう?

 有権者の選択を批判すると「上から目線」と一部では非難されるようです。なるほど徹底した民尊官卑の国では、民は尊く官は卑しい、国民は正しく、何か好ましからぬ結果に陥ったとすれば、それは「官」が悪いからだと、そう相場が決まっています。何か事態が悪くなれば、それは「官」が腐敗しているからだと。誤っているのは「官」であって「民」ではない、「官」を批判すべきなのに「民」を批判するとは、お前は何様だ!と言うところでしょうか。

 ここで「官」のトップが例外的に人気があった場合、その事態の悪化の原因は「官」のトップに向けられず、「反日国家」などの仮想敵が新たに創り出されるなど、時に「官」のトップが失政の責任を免除されることはあります。しかしいずれにせよ「民」の側が批判されるケースは稀なことです。

 とは言え、死刑愛好仲間である北朝鮮や中国、中東諸国やアフリカの失敗国家と違って、日本は制度上は民主的な国なのです。その民主的な制度に則って「官」に権力を与えているのは誰なのか、それを忘れてはなりません。社会が悪くなったと感じるとき、その原因は何なのか、政治が悪い? ではその政治の代表者を選んだのは誰なのか?

 自分で選んだ代表者に権力を託しておきながら、その結果を嘆くばかりだとしたら、それは無責任です。自分とは無関係などこかに悪い奴がいるせいで、それで今の社会が出来たと考えるのか、それとも自分達の選択の結果としてこうなったと考えるのか、前者の立場をとっている人の方が多いでしょうけれど、ではどうして「悪い奴」がいなくならないのでしょうね? 

 「国民の声を聞く」と言えば聞こえはいいですが、国民はいつも正しいとは限りません。いつも正しいと思っている人がいるだけです。自分自身の経験としてもそう、間違った決断を下したことぐらい、いくらでもあるでしょう? そして時には国民のためになることと、国民の欲することが異なることもあります。例えば、子供のためになることと、子供の欲することは必ずしも一致しないでしょう? それと同じことです。

 むしろ思うのですが、国民の声を無視したからではなく、国民の声に阿ってきたからこそ、今の日本があるのではないでしょうか? 国民の声は常に正しいと断定し、何か不都合が起これば「自分とは無関係な誰か」のせいにする、これではいつまで経っても12歳の子供に過ぎません。こうなったのは自分達の選択の結果なのだと、これは我々の問題なのだと自覚する必要があります。そして「官」もまた12歳の子供の歓心を買うことではなく、何が本当に国民のためになるのか、それを考えるべきなのです。

 

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6 コメント

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Unknown (Bill McCreary)
2008-02-02 01:07:09
法の名のもとに国家が人を殺す、そんなことを支持する国民も国民だし、そんなことを死刑制度維持のための理由付けにする法務省や法相も、なんともお粗末というか、精神が徹底的に貧しいと思います。

まあ支持ということを言い出せば、ヒトラーだって東条だって安倍だって石原だって、大きな支持があったし、あるいは今だってありますからね。

余談ですが、かつて一瞬でも安倍晋三を支持して今は彼を馬鹿にしている人は、たぶん日本に1千万単位でいると思いますけど、少しは自分たちの不明を恥じているのでしょうか。
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死刑に代わる方策は? (tatu99)
2008-02-02 14:14:51
死刑反対より殺人などの凶悪事件防止を叫ぶほうがまだましです、その具体策はありませんけど。

死刑といったって年間の死者の数から見たら九牛の一毛ですから、自殺者だけでも年間3万人オーバーです。
人間も単なる生物界の一員として見るなら毎年生まれる人数と死者数が釣り合っているのが自然です。

死刑判決が確定したならば法務大臣のサインなしで即実行が三権分立に近づきます、三権分立といわれても立法司法は行政の下位にあります。
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Unknown (非国民通信管理人)
2008-02-02 15:49:38
>Bill McCrearyさん

 失敗から学ばないと言いますか、失敗を認めないお国柄なのでしょうかね。今は安倍晋三を非難するけれども、ほんの1年前に安倍晋三を支持したことは全く気にしていない、実に無責任ですが、こんなのが当たり前なのが日本の「世論」の大勢を決しているわけで、何ともやりきれません。

>tatu99さん

 破綻を恐れぬコメントをどうも。まぁ、凶悪犯罪に関しては今のままでも減少傾向にあるので、今まで実行されてきたものが具体策に当たるのではないでしょうか? ただ叫ぶことが目的であるか、もしくは凶悪犯罪が増加しているどこか遠い国のことに言及しているのなら、話は変わってきますけれどね。
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Unknown (カックエイ)
2008-02-02 19:24:49
世論というのがトリックですね。
統計でウソをつくそのものなきがします。

まず世間は死刑制度について
どれだけの理解をしてるのか?
どれだけ死刑制度についての
情報を与えられてるのか?
が問題になると思います。
しかし現状多くの人が死刑制度についてたして
考えたことがないというのが実情でしょう。

よく目にする被害者感情も疑問です。
マスコミは死刑を望む被害者の声は
伝えてるが死刑を望まない被害者の
声は伝えてないのではないか?
死刑を望まないという
被害者もたぶんいると思うんですけどね。

こういった情報環境のもとでの
世論など意味なしといえます。
情報の与え方次第で
世論などいくらでも動くからね。
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恐ろしい (怪人20面相)
2008-02-02 21:12:27
ベルトコンベアー式発言に象徴されるように、鳩山法相は国家による殺人を大量に行いはじめました。
本来だったらああいった発言をした法相は罷免を免れないのですが、罷免されないどころか支持する国民が多数いることが驚きです。
そうです世論の支持がないと一昨年のクリスマスから続く大量処刑はとうていできないでしょう。死刑の大量執行を支えているのがメデイアの犯罪報道、裁判報道が作りだした世論でしょう(その代表格が光市裁判騒動のように思います)。
世界が死刑廃止に向って進んでいる中で、それに背を向け唯一死刑大国としての道を歩み続ける日本。
戦前、世界に背を向け戦争への道をひた走った姿と重複します。
ちなみに今や世界の少数となった死刑存置国においても日本以外は死刑執行を控える傾向にあります。
日本という国は本当に恐ろしいと国になってしまったと思います。
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Unknown (非国民通信管理人)
2008-02-02 22:51:56
>カックエイさん

 ただ日本が、せめてロシア並みの報道統制があって、それで情報が制限されている、その結果としての世論であればまだ救いはあるのですが、制度上は統制されていないのに扇情的な報道に終始するメディアや、公開された情報にすら特に目を向けない国民が作った世論がこれですから。情報があっても、自ら盲目になろうとする世論では……

>怪人20面相さん

 死刑存置国と言っても、その大半は独裁政権が国民を抑えつけるために死刑制度を活用しているところばかりでもあるわけですが、日本は国民の支持によって死刑制度が乱用されているわけですから事態は深刻です。独裁政権が倒れれば死刑がなくなるであろう国の方が、まだしも希望があるようにすら見えてしまいますね。
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