非国民通信

ノーモア・コイズミ

食べ物を燃やす?

2007-05-11 23:24:04 | ニュース

ブラジル大統領、ローマ法王にバイオ燃料の必要性力説(朝日新聞)

 ブラジル訪問中のローマ法王ベネディクト16世は10日、同国のルラ大統領と会談した。地元メディアによると、ブラジルが推進するバイオ燃料について大統領は「アフリカを貧困から救う道だ」と説明し、理解を求めた。

 ブラジルは「エネルギーの自給とともに雇用も増える」として、アフリカ諸国にもバイオ燃料の生産を勧めている。カトリック教会は、バイオ燃料の拡大について環境保護や食糧の安定供給の面から懸念を示していた。

 前日に到着した法王は歓迎式典で中絶や安楽死を批判したが、これらの微妙なテーマについて会談では触れられなかった模様だ。ルラ大統領が「ブラジルは宗教に縛られない世俗的な国家であり続けたい」と述べたのに対し、法王は理解を示したという。

 シスの暗黒卿ことベネディクト16世がブラジルを訪問中です。フォースの暗黒面のパワーによって中絶や安楽死を批判したものの、ルラ大統領はこれに反論した模様で、陰ではライトセーバーがうなりを上げているものと予想されます。

 さて、中絶や安楽死に関しては支持する立場なのですが、バイオエタノールに関しては、そう簡単に頷けない面もあります。確かに将来的な枯渇が予測される石油に替わる代替燃料、それも生産可能な燃料の登場は一つの希望ではありますが、かと言って良い面ばかりでもないわけです。

 当然のこととして、バイオ燃料の原料、トウモロコシなどの穀物が食料ではなく燃料として消費されることは食料生産の面ではマイナスに作用するわけで、日本ではマヨネーズの値上げという現段階では可愛らしいものであるながら、既に影響は出始めています。もちろんマヨネーズがなくても人は生きていけますが、これが調味料ではなく主食、生活必需品の値上がりに繋がるようであれば事態は深刻であり、それは十分に考えられることでもあります。

 値上がりしても、まだ食料を買える人はマシな方です。家計には痛手ですが、その支出は石油資源を浪費してきた代償として受け容れるべきなのかもしれません。しかし、世界全体で見れば食料がそれほど余っているわけではありません。余っている食料を燃料として有効活用するのであれば歓迎すべきことですが、現時点でも決して十分ではない食料を燃料に転用しているとしたらどうでしょうか?

 「エネルギーの自給とともに雇用も増える」「アフリカを貧困から救う道だ」、そのようにルラ大統領は説きます。しかし考えてみてください。食料を燃料に転用すれば、エネルギーの自給は増えるかもしれませんが、人間のエネルギーすなわち食糧自給率はどうなるでしょうか? 今なお飢餓の存在するアフリカの貧困国で食料を燃料として輸出することがどんな事態を招くか、そこに私は悲劇的な将来しか予測することは出来ません。

 「飢餓輸出」という言葉があります。調べてみると色々な事例があるようですが、要するに外貨獲得を優先して国民の食べる分も輸出に回してしまう事態を指して飢餓輸出と呼びます。自国で消費される分を十分に残した上で、余剰をバイオエタノールの原料として輸出する限りにおいてはその国の商行為の自由ですが、国民の食べる分すらも海外に売ってしまうなら、それは飢餓輸出となるわけです。そしてバイオエタノールの原料作物に高値が付く昨今では、その誘惑も強くなってくるわけですが・・・

 ある意味で、アフリカ近代史=飢餓輸出の歴史であるのかもしれません。ブラジルにしたところで、飢餓輸出に陥り、抜け出せなくなる危険はありました。つまり自国で食べるための食料生産を減らして、外貨を獲得するための商品作物の生産に切り替えることで、自国に飢餓状態を招く可能性はどこの国にもあるわけです。幸いにしてブラジルはコーヒーを育てても、自分のところで食べるだけの食料を生産する余裕があったようですが、しかしアフリカは?

 いくつかの国では、輸出の開始と同時に飢餓が始まりました。アフリカの飢餓が深刻化したのは近代に入ってからのことです。もちろん、医療技術の流入によって多産多死のモデルが単なる多産となり、人口爆発によって食料を分配しきれなくなった面もあります。しかし同時に、自国で食べるための食物生産が外国へ輸出するための商品作物生産へと切り替えられた影響も少なくありません。そして尚深刻なのは、商品作物を売った金では自国に必要なだけの食料を買えない場合があると言うことです。いくら商品作物を輸出しても、安く買い叩かれてそのリスクに見合う対価は支払われないまま、それがアフリカの貧困国なのです。バイオエタノールがそんな状況を改善するどころか深刻化させたとしても、それは驚くには当たらないでしょう。

 

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5 コメント

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Unknown (これお・ぷてら)
2007-05-12 06:18:05
おはようございます。
リンクをはっていただき、ありがとうございました。
われわれが生きていくために食べ、食べるために働いている以上、あらためて食の問題をとらえなおすことが必要ですね。そんなことを考えさせる、バイオエタノールとマヨネーズ値上げです。
取り急ぎ、お礼まで。ではまた。
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食料を燃料に転化するのはアホの所業 (y-burn)
2007-05-12 10:13:31
 おいらは下手すりゃいくらでもバイオエタノールに転化出来るサツマイモの産地にいる、と言うか、焼酎工場が近くに腐るほどあるような場所に住んでいますが、何か?

 家庭菜園をやっている立場から言わせていただければ、トウモロコシはこういった燃料への転化は不向きと考えます。というのも(たまにここにいらっしゃるnakayoshi様はもしかしたら分かると思いますが)、病気で簡単に畑全体が全滅しやすいんですね。それも一夜にして、です。それに加え、害虫にも決して強い作物とは言い難い作物なんです。それを安定供給しなければならないとなると実際難しい気が・・・。

 今以上に食料を削ってまで産業を発展させないといけない時代じゃないだろうに。この問題、今の日本の農業のあり方にすら影響が出る、と考えます。心ある人は今のうちに食料を自分の周りで、出来れば金を使わずに調達できる方策を考えなければ。いくら金を持っていても、自分で食料が調達できない人間は死ぬしかない、そんな時代にもなりかねません。

 産業の発展のために人が泣く、人が死ぬ、それを良しとするローマ法王・・・?イエス様が天国で泣いているぞ、呆れて。
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Unknown (非国民通信管理人)
2007-05-12 22:41:14
>これお・ぷてらさん

 早起きですね~、自分は休日になるとなかなか起きられません。リンクはどこかのニュースサイトに貼ろうかとも思いましたが、新聞社系のサイトは掲載期間が短いこともありまして、ならばしっかりとした意見を述べているところに・・・と言うことでリンクさせて戴いた次第です。ではまた。

>y-burnさん

 日本がバイオエタノールに手を出すとなると、アルコール分100%の芋焼酎になるんでしょうかね? トウモロコシを育てるのは難しいようですが、そうなると今度は燃料用の品種改良が起こるかもしれませんね。遺伝子組み換え技術も駆使して、食用には適さないが育てやすくバイオエタノールの原料に適した新品種が開発されるかもしれません。それをやる前に、アフリカの飢餓地域でも育てやすく食用に適した品種を開発して欲しいところですが。
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バイオエタノールは一つの可能性ではあります (ワンダラー)
2007-05-13 04:07:43
要は、芋やトウモロコシなどの食料を原料にしたバイオエタノールが適切ではないというだけのことで、稲藁や麦藁のセルロースや、サトウキビから糖分を抽出した後の廃糖蜜を原料にしたバイオエタノールではあまり問題が無いだろうということなのです。ただし、原料としては豊富であってもセルロースを使用したバイオ燃料の製造には石油の需要を置き換えれるほど生産性が高くないのが問題であり、燃料を全てバイオエタノールに置き換えるというのは現実的ではない為、多少高コストであっても太陽光などの再生可能エネルギーへの置き換えも平行してやっていかなくてはならないでしょう。
バイオマスエネルギーへの転換によって休耕田の再生による食料自給率の改善や国土環境の保全などのプラスの面も期待できるためある程度コストをかけてエネルギーの自給を行っていくのが好ましいのですが、それによる経済的メリットが薄いままだと資本の論理で今まで通り途上国の破壊的農業による農産物を利用することになり、CO2の削減や持続的なエネルギーの供給という点では役に立たない可能性のほうが高いでしょう。また、土地の生産物からエネルギーを得る方法である以上、先進国の需要を満たすために土地が持つ生産力以上の無理な生産をすれば土地が荒廃する原因になり、環境保全の役に立つどころか破壊の原因になる可能性も高いため、バイオエネルギー生産の要点は持続可能性であり、エネルギーの大消費地である先進国でこそコストをかけて可能な限り積極的に行わなくてはなりません。ただ、バイオエタノールを生産するならばエネルギー収支がプラスにならなくてはならないので、現在の先進国のエネルギー収支が極めて低い石油漬け農法によるバイオエタノールというのは根本的に間違っておりますが。
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Unknown (非国民通信管理人)
2007-05-13 21:11:52
>ワンダラーさん

 なるほど、確かに農業をやるにもエネルギーが、それも石油エネルギーが使われているわけですね。それではバイオエタノールを生産するにしても上手いことやらないと意味がなくなってしまう、下手をすればマイナスになってしまう、これでは本末転倒と。いずれ石油資源は枯渇するわけですが、他のものが取って代わるにはまだしばらく掛かるでしょうか。
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