政府・与党は16日、一定条件の社員を労働時間規制から外し、残業代をなくす「ホワイトカラー・エグゼンプション」(WE)を導入する法案について、25日からの通常国会への提出を見送る方針を決めた。安倍首相は16日夜、首相官邸で記者団に「現段階で国民の理解が得られていると思えない」と述べ、提出する環境にないとの認識を示した。7月の参院選を控え与党内からも「サラリーマンを敵に回す」との批判が強まり、提出断念に追い込まれた形だ。
安倍首相は16日夜の日本記者クラブでの記者会見で「働き過ぎを助長してはならない。ましてやサービス残業を奨励する結果になってはならない。なんと言っても働く人たちの理解が不可欠だ」と強調。これに先立ち、首相は同日夜、国会中に理解を得られるかどうかを記者団から問われると「働く人の理解がなければうまくいかない。今の段階では難しい」と語った。
悪名高いホワイトカラー・エグゼンプション(以下、WE)制度ですが、どうやら先送りで決まりのようです。撤回ではないので油断できませんが、まあ悪いニュースではありません。さすがに何もかも経団連の思い通りにはならないようで少しだけ安心です。とは言えまだまだ諦めたわけではなさそうで、首相曰く「なんと言っても働く人たちの理解が不可欠だ」「働く人の理解がなければうまくいかない。」と。働く人の理解によってこの制度を実現させようと目論んでいるようです。
ちなみにこの制度、先月の調査では「内容まで知っていた」は9%、「名前は聞いたことがある」は18%、「全く知らない」が73%という結果でした。アンケートの信頼性は不明ですが、たしかに働く人の理解は得られていない模様です。
しかるに、回答者全員が制度の意味を理解しているであろうアンケートの結果はこちら
Q 制度の導入に賛成ですか? YES 6% NO 94%
Q 年収を基準とすることに納得できますか? YES 11% NO 89%
Q 長時間労働を助長すると思いますか? YES 93% NO 7%
これも全幅の信頼が置ける結果とは言えませんが、制度を理解している人の9割以上が反対です。これでは国民の理解が深まれば深まるほど制度への反対が強まるはず、導入を目指す安倍総理としてはできるだけ知られないように、こっそり進めた方が良さそうですが。
残業代ゼロ 首相「少子化対策にも必要」
安倍首相は5日、一定条件下で会社員の残業代をゼロにする「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入について「日本人は少し働き過ぎじゃないかという感じを持っている方も多いのではないか」と述べ、労働時間短縮につながるとの見方を示した。さらに「(労働時間短縮の結果で増えることになる)家で過ごす時間は、例えば少子化(対策)にとっても必要。ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を見直していくべきだ」とも述べ、出生率増加にも役立つという考えを示した。首相官邸で記者団の質問に答えた。
首相は「家で家族そろって食卓を囲む時間はもっと必要ではないかと思う」と指摘。長く働くほど残業手当がもらえる仕組みを変えれば、労働者が働く時間を弾力的に決められ、結果として家で過ごす時間も増えると解釈しているようだ。
そこで、ちょっと古い記事になりますが↑これ。WEについてなかなか独自の解釈をしている模様です。このような理解を広めることができれば、制度導入への道が開けるのかもしれません。とはいえ、こんな考え方に共感してくれる人はさすがにいないと思いますが。
ただ、アンケートをYES/NOで答えさせた場合と、間に「やむを得ない」を挟むと結果が大きく変わることがあります。だから制度の導入に賛成ですか?と尋ねて二択で答えさせる代わりに、こう尋ねてみたらどうでしょうか。
・日本企業が厳しい国際競争に生き延びるために、ホワイトカラー・エグゼンプション制度の導入は必要だと思いますか?
はい/やむをえない/いいえ
WEが労働者ではなく経営側のための制度であることはもうバレバレであり、今更どう宣伝したところで無駄です。ならばそれを認めた上で、受け入れを迫るのはどうでしょうか? 会社があってこそ自分がある、そう勘違いしがちな日本の労働者は実に献身的であり、その会社に尽くす様は涙なしには語れません。そして会社があってこその自分、会社が潰れたら自分もお終い、会社が生き延びなければ自分の生存もない、そう勘違いした労働者に質問してみましょう。
・日本企業が厳しい国際競争に生き延びるために、ホワイトカラー・エグゼンプション制度の導入は必要だと思いますか?
はい/やむをえない/いいえ
これだと「やむをえない」と回答する人が多くなりそうです。その結果を基にWEは国民の理解を得られている!と。日本の企業業績は平均すれば非常な好況で戦後最長の上昇期間を継続中、これ以上に優遇制度を打ち出す必要はないわけですが、しかるに国民にはその好景気の実感がありません。これは報酬の分配が非常に不公平なものに変化しているためであり、労働者の取り分が減っているためでもあるのですが、一向に収入の増えない労働者の中には会社の業績が悪いから給与も増えないのだろうと錯覚してしまう人もいるわけです。そう錯覚している人にとって、日本企業が厳しい国際競争に生き延びるためにはさらなる規制緩和もやむをえないものと映るかもしれません。そうしてますます搾り取られることになるわけですが・・・
WE制度はとりあえずは先送り、しかし経団連がこれを諦めることはなさそうです。一度は見送られても、次はどんな手で仕掛けてくるのか? まだまだ油断はできません。