非国民通信

ノーモア・コイズミ

子どもを檻に入れて監視したい

2010-04-15 22:58:25 | ニュース

遊具広場、囲って安心?孤立?…都立公園(読売新聞)

 東京都が今年度から、都立公園内の遊具広場を人の背丈ほどの柵で囲うという、全国でも珍しい取り組みを始める。

 幼い子どもを狙う犯罪が増える中、不審者から子どもを守るのが狙いだ。犯罪学の専門家らは「安心して遊ばせることができる」とその効果に太鼓判を押すが、「囲いの中が地域から孤立しないか」との慎重論も出ている。公園は地域住民の交流の場ともなっているだけに、今後議論を呼びそうだ。

 今回、柵が設けられることになる都立城北中央公園。練馬と板橋の両区にまたがる約26万平方メートルの広大な公園で、周辺住民たちの憩いの場だ。このうち、柵で囲われることになるのはブランコやジャングルジムなどの遊具が並ぶ一帯約3000平方メートルだ。

(中略)

 こうした中、都が打ち出したのが都立公園の遊具周辺に柵を巡らせる計画だ。今年度から3か年で数億円をかけて都内78の都立公園のうち、12公園に設置する。柵は金属製か木製で高さ約1・8メートルを予定。簡単に乗り越えられないような構造にする予定だが、「監獄のようにならないよう、金網などは避けたい」(担当者)という。警備員などは置かないが、「子連れの大人以外は立ち入り禁止」などという看板を設置し、職員の巡回も強化する。

 そこまでするくらいだったら、子どもに首輪をつけて鎖で繋いでおけばより安心できるのではないかと思わないでもありませんが(あるいは専用の檻に入れて鍵をかけておくとか)、それでは満足できないのかも知れませんね。外に連れ出すのをやめて家の中でゲームでもさせておくのも良い方法に見えますが、それもやはり、親たちを満足させることはできそうにありませんし。やはり外敵を防ぐ壁を作るのが、最も要望を満たす方法になってしまうのでしょう。

 これはセコムの「子どもを狙う犯罪の実態-統計データ」なるページに掲載された唯一の図表です。提示されたデータは唯一これのみでして、検挙率はともかく認知件数の方は微減していますね。「性犯罪の増加、検挙率の低下が目立ちます」とセコムのサイトでは銘打っているのですが、だったら性犯罪の増加を示すグラフも張っておいてほしいところです。何か一目でわかるようなものがないか探したのですが、とりあえず、それらしきキーワードで検索上位に出てくるサイトは皆、セコム同様に「増加している!」と力強く言い切るばかりでデータを示してくれませんでした。そういうものなのでしょう。

少年犯罪データベースより、http://kangaeru.s59.xrea.com/G-baby.htm

少年犯罪データベースより、http://kangaeru.s59.xrea.com/G-youjyoRape.htm

 この辺を見る限りでは、「幼い子どもを狙う犯罪が増える」という新聞記事の説明付けと統計は食い違うようです。もちろん統計に出てこない分もありますから、社会が子どもを狙った犯罪に無関心になり、その犯罪が表に出にくくなったのであれば「犯罪が増えたけれど統計上は経る」ということもあり得ます。しかし、何かの勘違いとしか思えないとはいえ諸々の対策が積み重ねられている辺り、「子どもを守る」という意識は高まる一方であるように思われます。それでも統計上の犯罪件数は長期的には減少傾向、短期的にもせいぜい横ばい状態にあるとしたら、いったい何が変わっているというのでしょうか?

 「安全のためならどんなことでもしてほしい」。遊具で長女(2)を遊ばせていた母親(39)はこう歓迎する。つい先日も、近くの公園で、知り合いの子どもが不審な男に執拗に声をかけられたといい、「子どもを安心して遊ばせる場所が欲しい」と打ち明ける。

 そりゃ安全に越したことはないと思いますけれど、リスクの小さいものと大きいものがあるわけです。世の中には隕石に当たって死ぬ人も存在しますが、そんなものを心配して部屋に閉じこもったり、あるいは外出中ずっとヘルメットを被り続けたりはしませんよね。常にヘルメットを被っていれば隕石に当たって死ぬ可能性を低下させることができますが、そこまでする人は隕石に当たる前に社会的に排除されます。それから、流れ弾に当たったり通り魔に刺されたりして死ぬ人もいますね。これは隕石よりは確率が高いです。しかし、いつか流れ弾が飛んでくるかも知れない、通り魔に襲われるかも知れないと、常に防弾/防刃チョッキを着込んでいる人がいたらどう思いますか?

 もしかしたら、柵を巡らせることで若干の防犯効果は認められるのかも知れません。ただ、費用対効果というものもあるはずです。流れ弾に当たるごく僅かな可能性を恐れて民間人が日常的に防弾チョッキを着込めば、それは誰の目にも明らかな過剰反応です。そして減少傾向にある犯罪を恐れて自ら壁を作ることもまた過剰反応であり、その反応こそが害を及ぼすアレルギーのようなものと言えるのではないでしょうか。人体に大した害など及ぼすはずのないスギ花粉を深刻な有害物質と勘違いして免疫が防衛反応を示す、これが花粉症のメカニズムですが、要するに過剰な「守る」意識がかえって害をもたらすこともあるわけです。防壁の外では不審者が自分たちを脅かそうと狙っている――そういう世界観を幼少期から擦り込む害の方が、よほど重大に思えます。子どもを監視したい、目の届くところにおいてコントロールしたい、そうした大人の欲望こそが子どもを脅かしています。

 

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10 コメント

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時間潰しに (介護員)
2010-04-16 01:16:21
公園にも行けなくなりましたね。
そうなると、もっと酷い事が?いけないですね

こんな考えは犯罪者が増えている 危険等の流言と同じ発想だ

例えば!失業者=親と一緒=仕事捜せ=外に出たいが=公園はダメ=引きこもり=喧嘩=????
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セコムが (Bill McCreary)
2010-04-16 01:28:10
>性犯罪の増加、検挙率の低下が目立ちます

といって不安をあおっていることでわかるように、不安とか心配というのは金になりますからね。本来なら不必要な不安を鎮めるべき警察も、天下り先(警備会社は、警察の有力な天下り先)の確保や自らの勢力拡大に役立ちますからこれまた大げさに騒ぎます。上に引用されているメルマガの「馬鹿」としか言いようのない役立たずの情報を見ても、こんなことに引きずられるのは百害あって一利もありません。

で、これも「非国民通信」さんでも何回も書いているように、たとえば大阪教育大学池田小学校で宅間に殺された子供の親が、公立小学校にビデオカメラをつけようとか馬鹿なことを言い出して、それで世間は何も言わないという構図もあります。あん、宝くじに当たるよりも可能性が低い事件に遭遇することをどうにかしようなんて、ほんと意味がないんですけどねえ。公立小学校に監視カメラをつけるよりも、もっと教育にかけるべきことはたくさんあるだろと思いますが、なかなかね。

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人間不信 ()
2010-04-16 02:10:43
最近は満員電車の女性も、通学中の小学生も恐怖しか感じなくなってきました。

近所の道路で、友達がいないのか、父親が仕事で忙しいのか、いつも独りで壁当てをしてる少年を見かけます。
青年男子なりの親心というか、キャッチボールでもしてあげたいなと思ったりもするのですが、とてもじゃないけど勇気が出ません。
昭和の映画や漫画ではよく見かける光景ですけど、現代では変態としか受け取ってもらえないようで、なんとも寂しいことです。

徒に人間の不信ばかり教えられた子どもたちはこれからどう自分の力で生きていくんでしょう。
不安が募ります。
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Unknown (BR-S)
2010-04-16 06:22:32
どうやら子供がいる、というのが人生における性k…もとい成功の証のひとつになりつつあるようですから
本音は奇麗な首輪でも付けておきたいが、そんなことをしたら自身が犯罪者として扱われる事くらいは自覚しているので、これはそれなりの妥協の結果なんでしょうね
時々そうでない人がいたりしますが、いずれにせよ殺伐とした時代だと思いました

公園で暇を潰したり、寝泊まりするしかないような人を救済するほうがよほど安全の向上になるでしょうに
自ら他者を遠ざけた園内でもし事故があったらどういう主張が飛び出すことやら
行きつく先は「女性専用車両」と同じ隔離と無関心の肯定と不毛な権利の主張争いでしかない気がします

(以下精神有害につき閲覧注意)
http://www.youtube.com/watch?v=Jex7KD-n6xo
http://www.youtube.com/watch?v=ETxSnD5KfOY
http://www.youtube.com/watch?v=Ir30Ky0HV-8
http://www.youtube.com/watch?v=2vnivZyxdrM
http://www.youtube.com/watch?v=rEHPo7bGiD8(←コメントも含む)
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-04-16 14:07:42
>介護員さん

 失業中なもので、平日の昼間から街を出歩いていると、何かと職質を受けるんですよね。たぶん、公園にいれば即座に不審者として通報されそうです。ならば家に引きこもっているしかない?

>Bill McCrearyさん

 「狡兎死して走狗煮らる」ではありませんが、安全が実感されてしまうと警察や警備会社は賞賛されるどころか居場所を失ってしまうというパラドックスがありますからね。そして不安を煽ることで自らの居場所を確保する、何とも本末転倒です。世間は世間で、そうした不安を憂うフリをしつつ、その作られた不安への対処法を歓迎する有様ですし……

>魚さん

 今や見知らぬ人がキャッチボールの相手を務めようものなら、不審者として通報される可能性の方が高そうですね。その人の社会的地位や「感じの良さ」で大きく左右されそうですが、知らない人間は不審者と思えと教え込まれるご時世ですから。そして他社への不信を植え付けられた結果が、排外主義にも繋がっている気がします。

>BR-Sさん

 結局、安全と言うよりも安全を口実とした「監視」が望まれているようにも思います。子どもも「好き勝手に行動するもの」ではなく、ある意味で自分の大事なアクセサリーのようなものとして扱われているフシもありそうですね。
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Unknown (金魚草)
2010-04-16 19:19:56
エントリを見て思い出したのですが5~6年前小学生が相次いで殺害されるという事件が報じられ全国で自警団が多数結成されましたが私は彼らが自転車の3人乗りをする小学生をスルーしていたのを目撃した事があります。
こういう柵で囲うとかいうやり方が多数の人間に受け入れられるのは「天災や事故とは違い犯罪のリスクは100%コントロール出来る」という考えが根底にあるからではないでしょうか。
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Unknown (シトラス)
2010-04-16 19:43:03
ただ、「子供に声をかけると通報される」という定説自体がどこまで本当なのかと思います。
それこそ、データがどこかにないものでしょうか。
この考え方も、子供を自分だけの支配下にしたいという願望の表れのように思われます。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-04-16 22:00:11
>金魚草さん

 どれだけ治安の良い社会でも変な人は出てきますから犯罪対策にも限界がありますし、逆に事故や天災だって予防や被害の低減は可能なはずですが、犯罪対策の方がどうしても力を入れられる傾向にありそうですね。自警団みたいな猛々しさが好まれるところもあるのでしょうか。

>シトラスさん

 「子供に声をかけると通報される」ケースが続出しているだけであって、別に定説になってはいないと思いますが? むしろその前提となっている、子どもに声をかける人を不審者と見なしたがる心理を考えるべきかと。
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Unknown (伊東勉)
2010-04-18 02:02:05
 こんばんは。伊東です。
 記事の中身の感想に関しては、ただ一つ「順番逆でね?」(『犯罪の起きる事を念頭にして対策立てる』のではなく『犯罪起こさない人間・社会作るため』にどうしたらいいかを考える)と思いますが、記事中紹介されていた「メルマガ」読んでいて、真っ青になりました。

 こんなんで犯罪予備軍にされるようなら、おちおちあいさつもできません。何かぐるみで、対人拒否社会作っているのじゃないか、という疑いすら感じるし、結局はそれが新たな犯罪を生む元(簡単にいや対人トラブル)となるのに気づいてほしい所です。

 まじめに、私今の時期に生まれてなくてよかったですわ。でなかったら今のようには生きていられません。
 …と、生意気書かせていただいた所で、今日は失礼します。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2010-04-18 22:53:25
>伊東勉さん

 マッチポンプと言いますか、「犯罪起こさない人間・社会を作る」ことで犯罪の発生を防ぐと、警察機関や防犯活動が役に立っていないように思われる一方、逆に「起こった犯罪に対して対応する」ことで、防犯活動や監視強化が有効に機能したみたいに思われるフシもあるような気がしますね。それで後者の方が好まれる、ある意味で犯罪を待ち受けているような処があって、それ辺りが単に知らない人を不審者と見る傾向に繋がっているのかも知れません。
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