心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

雨月物語と「海辺のカフカ」

2013-03-17 09:25:21 | 愛犬ゴンタ

 お彼岸の季節を迎えました。我が家の庭では、いまクリスマスローズが満開です。そんな春の昼下がり、愛犬ゴンタは暖かい日差しを全身に浴びて気儘なお昼寝です。老犬の余裕、それとも諦観なんでしょうか。


 きょうは館野泉さんのCD「夜の海辺にて(カスキ作品集)」を聴きながらのブログ更新です。最近、広島出張から疲れて帰った夜は、よくこのCDを聴いています。泉のほとりの妖精、牧歌、野の小川にて、無言歌、夏の朝、ブルレスケ、山の小人のセレナーデ、激流、秋の朝、バラの花園の乙女、夢、即興曲、森の精、夜の海辺にて、古い時計台、などの小品集ですが、現実と非現実の間を行ったり来たりしています。
 そうそう、知人から接点改質剤「SETTEN No.1」なるものが届きました。オーディオ機器の端子接点に塗布すると、接点の経年劣化を軽減し音質を向上してくれるというものです。小さな箱に入った「CI-S100」(容量2cc)で定価3,780円。それが3,050円でした。

 この接点改質剤は、クラスターダイヤモンドとスクワランオイルからなり、説明書には「オイルを塗布することで接点を洗浄し、更にクラスターダイヤモンドの微粒子が表面に付着して導電面積を増加させ、酸化と経年変化を抑えます。また、接点の抵抗値が減少すると同時に電流量を増加させ、接点の改質が可能となります」とあります。専門的なことは判りませんが、使用前と使用後とでは明らかに音質が違います。深みのある素直な音質を得ることができました。驚きました。
 アナログからデジタルに変わった精密音響機器も、機器の接続部分に特殊なオイルを塗るだけで機器本来のもつ特性を存分に引き出すことができるとは、なんとアナログ的であることか。機器と機器、機器と人、人と人を繋ぐ「インターフェース」。なにやら意味深いものを思わせます。

 そんな週末、私は江戸後期の作家・上田秋成の読本「雨月物語」(角川ソフィア文庫)を現代語訳で読みました。「白峰」「菊花の約」「浅茅が宿」「夢応の鯉魚」「仏法僧」「吉備津の釜」「蛇性の淫」「青頭巾」「貧福論」の9話からなる伝奇小説、怪異小説です。怨念に燃える者あれば、食人鬼と化す者あり。鯉となって琵琶湖を泳ぎ回る者あれば、新妻に乗り移った蛇性の女まで登場する。化身、怨霊、亡魂、幽鬼の世界。何とも恐ろしいお話しの連続でした。
 実はこの本、村上春樹インタビュー集「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」の「海辺のカフカを中心にして」の章で村上氏自身が紹介していたものでした。曰く、

「雨月物語なんかにあるように、現実と非現実がぴたりときびすを接するように存在している。そしてその境界を超えることに人はそれほどの違和感を持たない。これは日本人の一種のメンタリティーの中に元来あったことじゃあないかと思うんですよ。それをいわゆる近代小説が、自然主義リアリズムということで、近代的自我の独立に向けてむりやり引っぱがしちゃったわけです。個別的なものとして、精神的総合風景とでもいうべきものから抜き取ってしまった」「僕の場合は、物語のダイナミズムというよりは、むしろそういう現実と非現実の境界のあり方みたいなところにいちばん惹かれるわけです。日本の近代というか明治以前の世界ですね」。

 「海辺のカフカ」に時々登場するギリシャ神話や源氏物語、雨月物語などと同じように、雨月物語は昔の様々なお話を典拠にする翻案小説であるといわれています。通読してみると、なんとなく村上春樹の物語の世界が見えてきたような気がしないでもない。ある種の戸惑いに、ひとつの視点を与えてくれた感があります。そういう妖しさを通じて、人の生き様を追っていく。でも、結論めいたものが存在するのではなく、日々変化を繰り返しながら、永遠の旅に出る、そんな感じでしょうか。そのあたりが、若者の心を惹きつけているのかもしれません。
 雨月物語のお話は、小さい頃、近所の高齢のお爺さんから聞いた怖い怖い昔話に近いものがありました。おそらくその話もいろいろな言い伝えや昔話を拠り所にしたものなんだろうと思います。夕暮れ時、聞きたくはないけれど最後まで聞いてしまう。そんな多感な子供時代の記憶がぼんやりと浮かんでは消えていきます。

 人は、現実と非現実の間を彷徨いながら、自分の立ち位置を探し求めています。しかし、目の前には、抽象的な言葉では言い尽くせない世界(精神的総合風景)が横たわっています。それをむりやり解きほぐそうとするのではなく、ぼんやりと全体に目を向けたい。現実と非現実の接点、経年変化で接点不良を起こした人間同士の接点に注目してみたい。
.....今日は少しお堅いお話になってしまいましたが、朝から春の日差しが眩しい部屋の片隅で、館野泉さんのピアノを聴きながら、そんなことを思ったものでした。

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