ピアノの音色 (愛野由美子のブログです)

クラシックピアノのレッスンと演奏活動を行っています。ちょっとした息抜きにどうぞお立ち寄り下さいませ。

減5度の響き

2013年01月06日 | クラシック豆知識
シューマンのカーニバル(謝肉祭)を弾いています。この曲集は全部で21曲からなる組曲で、シューマンの代表的なピアノ曲の一つです。この曲集には「4つの音符による面白い情景」という副題がついていて、「ラ - ミ♭ - ド - シ」)の音列が頻繁に使われています。これをドイツ音名で表すと「A - Es - C - H」となります。

10曲目のタイトルは「A.S.C.H. S.C.H.A.(踊る文字)」という不思議なタイトルなのですが、これは実は文字遊びです。「ASCH」というのは地名で、シューマンのガールフレンド、エルネスティーナの故郷です。「SCHA」というのはシューマン自身の名前につながる文字列ですね。この意味深な文字列をそれぞれドイツ音名に置き換えてそれをモチーフにした曲を作っったというわけです。

でも私が本当に興味深いと感じているのは、この10曲目の前までにたくさん使われている減5度の響きです。例えば、2曲目Fis(ファのシャープ)からC(ド)という右手の減5度の響きとその時の左手にでてくるA(ラ)Es(ミのフラット)という同じ減5度。そしてそれが平行移動しています。3曲目、4曲目、6曲目9曲目にも2曲目の左手からスタートしているA(ラ)からEs(フラットのミ)という減5度の響きが現れます。10曲目が出てくるまでの前半の多くの曲の冒頭に減5度の音が使われているのです。

これらの減5度の使い方はこの10曲目の言葉遊びの曲を導くための伏線だったのではないかと感じます。そして、この5度が完全5度ではなく、減5度であるということに注目したいんです。完全5度は、私の中ではまったくお利口さんな響き。結構自己主張も強いけど、頼りになるしっかり者の響きがします。それに比べて減5度は、頼りなく、ともすると怪しげで、それでいてちょっと魅力的です。

私はこの減5度が頭から離れず、なんでこの響きをたくさん使ったのだろう?(もちろんそれは文字遊びからきていると知った上で)どんな風にひけばいいのかしら?と考えています。ヒントは「謝肉祭」の着想についてシューマンが書いた手紙の中にあります。「ASCHというのは大変に音楽的な町名で、僕の名前にも入っていること、しかも僕の名前で音になる文字はこれだけだということをいま発見したばかりです。これは痛ましく響くでしょう。僕は作曲に熱中しています」とあります。

シューマンにとって「痛ましく響く」という減5度。エルネスティーナとの実らぬ恋・・・。減5度の響きに込められたシューマンの気持ちに想いを馳せながら、一歩一歩曲想を練っていきます。

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