ピアノの音色 (愛野由美子のブログです)

クラシックピアノのレッスンと演奏活動を行っています。ちょっとした息抜きにどうぞお立ち寄り下さいませ。

役者とピアニスト

2015年02月04日 | レッスンメモ
役者さんは台本を読み込んで、演技をします。ピアニストは楽譜を読み込んで、演奏をします。楽譜はピアニストの台本です。台本や楽譜に書かれた世界をよく理解した上で、何度も稽古を重ねて舞台で表現する、それが演ずるということです。役者さんやピアニストが表現するのは、自分自身の感情や思いそのものではありません。何を表現すべきかは楽譜や台本に書かれています。プロの役者さんなら、ほんとは全然泣きたくない時に、大粒の涙を流しながら号泣する演技ができます。もちろんその場面が終われば、またケロッとして元のように普段の顔に戻るわけです。

ピアノを演奏するということもこれに似ています。自分のその時の感情とか思いとかとは関係なく、楽譜という台本に書かれていることを、きちんと表現するというのが演奏するということです。どんなにブルーな気分の時でも、明るいフレーズが目の前にあるときは、カラッと明るい音を出して演奏するべきだし、暗くて深刻な場面を練習するときは、昨日どんなに嬉しいことがあったとしても、活き活きとした楽しい調子で弾くものではありません。

ピアノに向かう時はいつでも舞台に立って演じるつもりで臨みましょう。気持ちを切り替えて、楽譜に書かれている役どころを演じきる、こういう意識をもってピアノに向かって欲しいのです。楽譜(台本)をよく読んで、想像力をうんと働かせて、こんな風にしてみよう、あんなふうにしてみよう、と表現の方法を工夫してみてください。絶対に恥ずかしがらないで、遠くの客席に座っているお客さんにもよく見えるように、よく聞こえるように、少しオーバーでもいいから、あなたの奏でる音を通じて、思い切り表現して欲しいのです。

自分の気持ちをそのまま表現するということと、他人が書いた楽譜や台本に沿って効果的な表現をするというのは同じではありません。後者には解釈と技術が必要となります。私たちがしなければならないことは楽譜を解釈して、より効果的な表現方法を工夫すること、そしてそれを実行する技術を身につけることです。ここは悲しみを伝えるフレーズだと思ったところでは、例え悲しくなくても悲しい気持ちが聴く人に伝わるように音で表現する、そのための技術を身につけるということです。

役者さんは台詞を覚えたからといってそれで評価されるわけではありません。同じセリフでも、そのセリフの抑揚はどうするか、そのときの目つきは、手指はどう動かす? つまり全体としてどう表現するかということが名優とそうでない人との分かれ道になるのです。ピアノも同じ。楽譜をもとにして、それをどういう風に表現するか、もっと聴く人に伝わる表現方法はないか、そこを工夫することが大切なのです。

練習する時も本番の時も、曲を弾き通す時は、みんないつもの自分のことは忘れて、その曲の世界を演じきる名ピアニストになった気持ちで弾いてみましょう。その曲の主役は、あなたなのですから!

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