田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

「マヤ塾」炎上/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-29 17:53:16 | Weblog
第十一章 「マヤ塾」炎上

1

「住人は避難したのですか」
 隼人が訊く。
「消火の邪魔だ」
 消防士。
「知りあいなのです。麻耶先生の奥さんは無事に逃げだしましたか」
 制服の阿久津に聞かれた。
 それでも消防士はめんどうくさそうに顔をしかめただけだった。
 やはりどす黒い影におおわれている。
 オニガミに憑かれている。

「放火ですよ。なんにんも黒服の人が教室にはいっていったのを見た」
「めったなこというな」
 近所の主婦がいうのを夫らしい人物が手を引いて人ごみに紛れる。
 野次馬はさらにふえている。
 ひとびとのざわめき。
 消防車のエンジン音。
 火にはぜる木片の音。
 あたりは騒然としている。 

「麻耶さん」
 叫びながら隼人はまだ火の回っていない玄関からとびこんだ。
「先生!! 智子先生」
 阿久津があとから追いすがってきた。

「この奥が書斎です」
 塾生だった阿久津が隼人を案内する。
 煙がすでに家中に渦巻いている。
 ふたりが扉を開けた。
 その空気の動きでゆらぐ煙のなかに黒い影の存在があった。

「なにものだ」
 隼人と阿久津が同時に怒号した。
 広い書斎だ。
 机のパソコンに怪しい人影がかがんでいた。
 パソコンを持ってこちらを向いた。
 煙の中で男がニカっと笑った。
 鬼だ。


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